第36話 フードコートのヒーロー少女は、女子に囲まれる
満月妃奈子と蘭鳳院麗奈。
2人ともセーラー服姿。部活帰りかな。
学園の近く、駅前のショッピングモールの中のフードコートにある気軽なオープンカフェ。オレと奥菜結理、メインストリートに面したテーブルに陣取っていた。
だから、クラスの連中に見つかるのは当然なんだけど。よりによってこの2人か。
「勉強会してるんだ。奥菜さんに、教えてもらってるんで。今、勉強終わったところで、ちょっとおしゃべり」
オレは、つとめて笑顔で言った。
うーむ。満月と蘭鳳院。満月はニヤニヤ。蘭鳳院はいつものお澄まし顔。なんだか不吉な。
「へえ、そうなんだ。お似合いね」
満月、意味ありげに。
「勇希、新入学4月から勉強会なんてほんとに感心ね。よかったら、今度、私も教えてあげるから、一緒に勉強しない? 勉強以外のことも、いろいろ教えてあげるよ」
と、ウィンクしてみせる。
しょうがないやつだな。満月、オレに、にじり寄って、胸を突き出すようにする。ダイナマイトなアピール。
来たか。その手には乗らんぞ。
「あはは。勉強のほうは、奥菜さんに教えてもらってるので、今のところ、大丈夫。困ったことあったら、相談するから。ところで、満月さんと蘭鳳院さん、今日は二人でどうしたの?」
オレは、話題を変えた。満月にはもう振り回されないぞ。
「私と麗奈も、部活終わりに待ち合わせして、買い物をして、ちょっとだけお茶していこうかって、きたのよ。私たちも、ここによく来るの」
そっか。満月と蘭鳳院。親友だったな。学校外でも、よく会ってるわけだ。
「ねえねえ、よかったら、私たちも一緒にいい? ちょっとお茶したら、帰るから」
満月が言った。
またまた、剣呑な気配。
でも、もう時間も遅いし長居するわけじゃないだろう。それに、満月だって、他の女子がいれば、そんな無茶なことしないはずだ。
オレもいろいろ学習しているのだ。そんなにいつも、引っ張り回されて、うろたえているばかりじゃないからな。
それと。
蘭鳳院。今日の家庭科の件。オレが悪かった事は確かだ。ここで一つおごって、借りは返しておこう。
満月にも。今日、怒り狂った委員長に追い詰められて、みんなに、取りなしてもらったんだけど、最終的に、満月が、
「勇希って、ほんとに、とんちんかんなことするけど、わざとじゃないみたいだし、きちんと謝ってもらって、許してあげようよ」
と、まとめてくれたのだ。
あの時の満月、ニヤニヤしながら、次の算段を考えてるみたいだった……
満月に、助けてもらうとか、なんだか、むかつくけど。
一応満月は、委員長と同じく、クラスのリーダーだから、顔を立てておかねばならんだろう。
よし、満月にも、おごっておこう。
「蘭鳳院さん、今日の家庭科のハンカチの件、本当に申し訳ありませんでした。あの、今日、おごるから。満月さんにも。助けてもらったし」
このようなことを、言わねばならぬのは……なんとも腸が煮えたぎるが、男たるもの耐える時間も必要だ。
ま、今日のことは今日中に精算する。それが良い。それに、ここでおごるだけなら、何しろ、安くつく。
蘭鳳院は、言った。
「そんなに、気にしなくていいよ。あの場で収まったことだし。あのハンカチ、急いで作ったから、ちょっと雑だったな。今度もっと丁寧に作って、また委員長にプレゼントするから」
満月が、
「麗奈、せっかく勇希がおごってくれるって言うんだから、ご馳走になろうよ。勇希って、ほんと、きちんとしてるのね」
「私もあんなハンカチ作って、委員長にプレゼントしたいです! 麗奈さん、すごいです!」
と、奥菜。顔が真っ赤だ。
委員長に、プレゼントをする自分。想像して、ぼうっとなっている。オレは、とやかく言わなかった。また殴られるのが嫌だったからだ。
オレは、3人の女子と、お茶をすることになった。
3人の女子に囲まれる。なんだかすごく華やぐ。中学の頃、女子たちみんなでワイワイキャッキャしてたのを思い出した。
◇
蘭鳳院と満月は、ドリンクと、キャラメルアイスプリンを、買ってきた。オレたちが食べてるのを見て、2人も食べたくなったのだ。
みんな、テーブルに座る。オレの右隣に、蘭鳳院。オレの前に、奥菜と満月。
奥菜は、みんなが、キャラメルアイスプリンを食べてるのを見て、うっとりとしていった。
「これ、おいしいですよね。委員長に、教えてもらったんです」
まるで、キャラメルアイスプリンがおいしいのは、委員長の功績みたいだ。
女子たちの、おしゃべりが始まる。こういう普通のワイワイキャッキャ。久しぶりだ。
やっぱりいいな。うん? 女子の世界に、ずるずると引き込まれている?
フッ、
そんな事は無いぜ。オレは、もはや、ゆるぎなく男だ。女子どもに混じったところで、ビクともせんぞ。
蘭鳳院も、普通に笑顔見せている。なんだ、こうしてみると、普通の女子高生だな。普段もお澄まし顔だけじゃなくて、もっと笑顔見せればいいのに。
話に花咲かせる3人の女子の中でオレはーー
話題に入るのが、なかなか難しい。もっぱら聴き手に回っている。男子として、女子の会話に入る。それって、どうやるんだろう? 全然やったことないから、当然だけど、どうもよくわからない……まあ、これも修行だ。何事も。
「勇希は部活やらないの?」
満月が訊いてきた。
「うーん、まだ、ちょっと決めかねていて」
オレは慎重に答える。部活をやるとしたら、絶対運動部だ。でも男子に混じってのスポーツはやっぱり……女子バレの危険が大きすぎる。それにヒーロー跡目候補のことがある。何かに真剣に打ち込める環境では、まだない。
「そういえば、満月さんは部活何やってるの?」
「テニスよ!」
満月は胸をそらす。いや、胸を突き出すというか。いや、しかしすごいボリュームだな。満月の胸。制服の下でも。
「勇希、私の試合、見に来てね。麗奈のレオタードもいいけど、私のスコート姿も、絶対負けないから」
ウィンクする満月。一体何をアピールしたいのやら。
女子たちの話、続いていく。
オレも、すっかり馴染んでいた。
こうしていても、女子バレの心配はない。オレも、修行して成長しているんだ。
一歩ずつ、男の坂道を登っているのだ。




