第35話 フードコートのヒーロー少女、女子トークで癒される
「ここの、キャラメルアイスプリン、おいしいですよ」
「じゃあ、オレも、それで」
オレと、奥菜結理。
例の、駅前のショッピングモール。フードコートのカフェにいた。
気軽な、セルフサービスの店だ。
オレと、奥菜、ドリンクと、キャラメルアイスプリンを受け取ると、席に戻る。
もう、夜9時を、回っている。
賑わっていたショッピングモールの中も、少し人が減っていた。
オレと奥菜は、待ち合わせて、ここに来た。
勉強を教えてもらう、前にした約束。今日が初めての2人での勉強会だ。
奥菜は、ボクシング部が終わってから来た。オレは、放課後いつもの校庭での自主トレと図書室で自習。せっかく勉強教えてもらうんだから、少しは自分でも頑張らないと。
フードコートの席について、オレの目の前の奥菜結理。にっこりと、可愛いえくぼを見せている。今日も愛用の水色バレッタリボンだ。
この雰囲気。学校の外で、女子と男子が二人で勉強会。
みんなに、どう思われるだろう。まあ、どう思われるって、決まってるけど。
オープンカフェ。
ショッピングモールの、メインストリートに面した、目立つテーブルに、オレたちは陣取っている。
別に、コソコソする必要はない。2人で勉強会するだけだし。
学校の連中に、早速見つかっている。おまえら、付き合ってるのと聞かれた。
いや、勉強教えてもらってるだけだよ、とオレは答える。
奥菜も、別に、オレの彼女じゃない、ただ、勉強会しているだけです、と屈託ない笑顔で答えている。
奥菜の、さっぱりした気性は、みんな知ってる。ああ、そうなんだ、と納得してくれる。オレたちのことを知らない連中は、あいつらはつきあっている、と言うかも知れないが、オレは、気にしていない。
奥菜も、別に気にしていない。他人にどう思われるかなんて、奥菜は考えない。
今日の家庭科の実習授業。
あの後、アイロンを振り回す委員長に、オレは、追い回されて、追い詰められて、危なかった。結局、奥菜結理や、柘植矢駆坂井の子犬四天王、それにクラスの連中が、まあまあと、間に入ってくれて、助かった。殴られずに済んだ。
みんな……なかなかいいクラスじゃないか。
オレは、必死に言い訳した。
いいわけ? ヒーローが言い訳なんて……しないぞ。オレは、とにかくちゃんと自分の立場を、委員長や、みんなに、説明したんだ。
委員長に、教えてもらった通り、女子に、縫い物を教えてみたくて……本当に、ただそれだけで……蘭鳳院さんが、困っているように見えたので……ただ、あれこれ見えてなかったのは、オレが悪かったので……蘭鳳院さん、ごめんなさい。
剣華は、完全に頭に血が上って真っ赤になっていたが、とにかく、オレの説明を受け入れてくれた。
もう、どうなるかと思ったぜ。あの委員長に、アイロンなんか持たせたら、危ない。
もちろん、蘭鳳院には、平謝りに謝った。
蘭鳳院は、いつものお澄まし顔で、
「うん。わかった。勇希に悪気がないのはわかってるから。もう、気にしないよ」
さすがに呆れ返ったように見えた。
オレは、蘭鳳院を助けたんだけど……まあ、もう、あれこれ言うのはよそう。
委員長は、いつものように、最後は、オレに、にっこりとした。
「一文字君、悪気がないからって、何してもいいわけじゃないからね。ちゃんと、高校生とし、て責任ある行動しなくちゃだめだよ」
はい、わかってます……
ともかく、一件落着したわけだ。
そして。部活後の奥菜と待ち合わせて、フードコートのカフェでの勉強会。勉強が終わった後、オレは、勉強教えてくれたお礼におごるからと言って、2人で、ドリンク、キャラメルアイスプリンを注文してきた。
奥菜は、勉強を教えるのは、自分の勉強にもなるから、別におごらなくていいと言ったけど、いや、オレの気持ちですと言って、オレが譲らず、奥菜も、分りましたと言って、さっぱりとオレの好意を受け入れた。
オレと奥菜、キャラメルアイスプリンを食べながら、
「奥菜さん、勉強教えるの上手いね。すっごく助かる」
「本当ですか……」
奥菜は、真っ赤になって、かわいいえくぼを見せる。
「勉強の教え方も、委員長に習ったんです。委員長に教わった通りに、一文字君に教えているんです。やっぱり、委員長は、すごいです。本当に、本当に、凄い人です」
うん……委員長が、すごい……それは、オレも、よくわかっている……
やたらと暴力を振るわなきゃ、もっといいんだけどな。
なにはともあれ。
オレだって、全く勉強しないと言うわけには、いかない。こうやって、ちゃんと教えてもらえるのは、助かるんだ。
全く。女子がみんな、奥菜みたいだったらいいのにな。奥菜が、勉強教えるのが上手いのは、委員長のおかげと言うから、委員長にも、感謝せねばなるまい。
それに。
勉強以外にも、やっぱり……オレだって……女子と普通に話したり、したいと思うわけだ。
ずっと、ぼっちでいる。オレに近寄るなオーラを出し続けるの。それって、なかなか厳しいのである。ちょっとは普通の高校生らしいことをしたい。
「ここのキャラメルアイスプリン、おいしいでしょう」
奥菜が言う。
「うん、おいしい。値段も安いし」
「委員長に教えてもらったんです。私たちもここで勉強会をしたことがあって」
へえ、そうなんだ。
それにしても、本当に、奥菜は、なんでもかんでも、委員長の話になるんだな。
オレは、何気なく言った。
「委員長と、2人でもカフェに来るの?」
「きゃあああああっ!」
悲鳴をあげたのは、奥菜。
ドコッ
殴られたのは、オレ。
うわああ、
いったい、なにするんだ。
椅子から転げ落ちたオレ。必死に這い上がる。
おいおい、手加減した……んだろうけど……危ないじゃないか。ボクシング部が、人を殴るなんて。
本気で殴ったら、事件だぞ。
奥菜は、顔を真っ赤にして、両手を頬に当てている。今にも泣き出しそうだ。
「ひどい、ひどいです、一文字君! なんで、そんな……そんな、ことを……まるで……私と委員長が……なにか……なにか……みたいに……きゃっ!……そういうことじゃ、ないんですっ!! 私と委員長は!! 私は……私は、ただ、委員長……委員長を……本当に、本当に……尊敬しているだけなのに……そういう、あてこすり、本当に、最低です! 学校に来れなくなっちゃいます! 嫌です、大嫌いです!!」
うわああああ。
落ち着いて。結理ちゃん、別にその、オレ、二人のことを、どうこう言ってるわけじゃ、ないから。
そうなんだ。
奥菜の、感情は、妙に複雑なんだ。
委員長剣華のこと、端から見ると……みたいにしか見えないんだけど……本人としては、違うらしい。
まぁ、15歳女子だからな。感情の波とか、もつれとか、あってもいいだろう……
少しして、奥菜は、また、ニコニコして、可愛いえくぼを見せる。
「ごめんなさい、一文字君。変な意味で言ったわけじゃ、ないよね」
「あはは、そうだよ。もちろん。わかってくれて、ありがとう」
当たり前だよ。
殴られたオレは、まだ少し痛い。気をつけよう。奥菜の前で、委員長の話をするときは、何かと注意しなくちゃ。
でも、奥菜、しょっちゅう、委員長の話をする。注意するって言っても、大変だよな。
オレたちは、学校の話とか、ボクシングの話とかで盛り上がる。やっぱり女子トークはいいな。もちろんオレは今、男子。女子だとバレないように気をつけてるけど。バレずにおしゃべりするのも、結構慣れてきた。
ヒーロー跡目候補として、男子としての、エリート校での高校生活。なんだかんだ慣れてきた。順調と言えば順調。殴られたりいろいろあったけど……何これも試練だ。オレは必ず乗り越えてみせる。
◇
「あれ、お二人さん、仲良くどうしたの」
声をかけられた。
ん? 誰だろ。この声は。
あっ。
声をかけてきたのは、満月妃奈子。
そして、その横には、蘭鳳院。




