第32話 家庭科の惨劇 平和な教室にまた暴力の嵐
白い、ハンカチが配られた。家庭科の授業。被服実習……と言うのらしい。
ああ、めんどくせえ。
オレは、ため息をつく。
「みなさん、今日は新年度高校入学して、はじめての被服実習です」
オレの気持ちをよそに、先生の、張りのある声。
「中学校でやってきた事は、それぞれ違うと思います。今日は、初めてなので、まず、みんなに自分のできることを、やってもらいます。難しく考える事は、ありません。思い切って、自分のできること、やってみたいことを、やりましょう。今日が高校家庭科実習の第一歩です」
ああ……こういうの……ただただ、うんざりなんだよなあ……
授業なら、寝てればいいんだけど……実習ってのは……しかも、オレの一番苦手な……被服。切ったり縫ったり……ミシンだとか、性に合わないなあ……
中学校でやってきたこと? うん、もちろん、全部忘れたよ。忘れたと言うか、全く身に付かなかったような気がする。何もやってない。
先生の声は、容赦なく続く。
「今配ったハンカチに、模様をつける。それが今日の課題です。
自分なりの模様をつけましょう。デザイン集を見て、自分なりに考えて、下絵を描いて、そこにミシンでも手縫いでも、自分のやりたい方法で、模様をつけてみましょう。
苦手な人でも、心配する事はありません。簡単な模様でも大丈夫です。まずは第一歩。楽しんでやってくださいね」
楽しめませんよ。この手のもので、楽しいと思った事は、無い。あーあ。高校生活も、ずっと、これにに付き合うんだ。
気の重い、実習授業が始まった。先生が、一通り、下絵の描き方とか、縫い方、ミシンの使い方、説明する。
おや?
クラスのみんな、先生の指導に従って、熱心に、手を動かしている。おいおい。妙に、真面目にやるんだな。この高校は。
オレの中学の時は、結構、みんないい加減だったんだけど。
嫌な雰囲気だ。
困ったな。オレも、ちゃんとやらなきゃ、ダメなの?
やろうたって、できそうにないんですけれども。
一通りの、先生の指導が終わる。
「では、みなさん、始めてください。自由に、難しく考えずにやってくださいね。先生は、実は、ちょっと会議があるので、授業から、外れます。後にまた来るので、みなさん、できるところまでやってみて下さい」
先生は、教室を出て行った。
オレは、とりあえず、ほっとした。自由時間てことで、いいのか。
課題? どうしようかな。白いハンカチを見る。
適当にやれば……何とかなるんじゃないか……いや、ならないか。
みんな、作業に取り組んでいる。
熱心だな。せっせと、手を動かしている。
話をしてるやつもいるが、課題の作業についての会話をしてるみたい。無駄に雑談してるやつは、いないようだ。
先生もいないのに。
異様なクラスだ。エリート校の嬢ちゃん坊ちゃんども。
やっぱりなにか……オレには、ここは合わないようだ……
でもヒーロー跡目の宿命、ここの高校生活もちゃんとやらなきゃいけない。
仕方ない、やるか。
でも、こんなのやっても、何にもならないよな……縫い物だとかミシンだとか。別にそんなの覚えなくても、オレは、絶対困らないぞ。
オレはヒーロー跡目候補としてここにいるんだ。
こんなのやらせなくてもいいんじゃない? 授業中はおとなしく寝てやってるんだから。
ふと、オレは思った。
やっぱり、オレはやらなくてもいいよね。オレ、今は男子だし……こういうのは、やっぱり、女子に任せた方が……
うん、みんな熱心にやってる。得意そうな女子、多いな。
ちょっと、やってもらえば、いいんじゃないか? 問題ないよね。
オレは、仮に、裁縫なんて覚えたところで、すぐ忘れるんだし。上手い子が、もっと上手くなるために、オレの分もやってもらう。それがいいんじゃないかな。そうだ。
名案だ。
どんどん、そう思えてきた。
よし、これでいこう。
今日のオレも、冴えてるぜ。
オレは立ち上がった。
そして、オレの課題の、ハンカチを、ヒラヒラとさせる。
「おーい、女子、誰か、オレの分、やっとけ」
クラス中が、静まり帰った。
みんな、オレを見ている。
ぎょっとしているようだ。
フッ、
驚いたようだな。
キサマら、オレを誰だと思ってるんだ。オレはヒーローだぞ。硬派なんだぞ。ヒーローが、硬派が、チクチク縫い物したり、ミシンだとか、やれるわけないだろう。
だいたい、男ってのはなあ、
スッと、オレの前に、誰か立った。
この、ヒーローの前に。
あ、委員長。
そこに立っていたのは、紛れもなく、クラス委員長、剣華優希だった。
どうしたんですか? 委員長?
オレを見下ろしちゃって。
あれ?
すごく、怖い顔をしている。今までで見た、一番怖い顔。
どうしたんだろう。いったい、なにが……?
バチーン!! BATIIIIIIN!!!
うわわわわっ!!
殴られた!
定規だ。定規で殴られた!!
痛ええ!
オレは、崩れ落ちた。
ただ、もう、委員長を、見上げるしかない。
なんなんですか? なんでまた、暴力を?
委員長剣華優希の瞳、怒りに燃えあがっている。




