第31話 ヒーロー少女はロマンチスト詩人
昼休みの教室。蘭鳳院と満月がオレを挟んでいる。
青い星。はっきりさせてやるぞ。オレは、蘭鳳院を正面からしっかりと見据えて言った。
「蘭鳳院さん。昨日体育館で見た新体操の演技中、蘭鳳院さんの右の頬の……少し下が、青く光って見えたんだ。小さな青い星に見えたんだけど。そういうこと、言われたことない? オレにはっきり見えたから、みんなにも見えてるはずなんだけど」
「私の右の頬に? 青い光? 青い星? 今も見えるの?」
不思議そうな顔をして、蘭鳳院は白い指を、右の頬に当てる。
すごく綺麗だ。
でも、今はもちろん、青い星は見えない。
「今は見えないよ。演技中だけ見えたんだ。あの……その……」
オレは、ドギマギしていた。言わないほうがよかったかな。
「青い星っていうのは、多分……静脈が……浮き出て、透けて見えたんじゃないかな。ほら、演技中、体が昂揚して静脈が浮き出て、それが青い光に見えたのかなって……」
「静脈?」
蘭鳳院は、小さい手鏡を取り出すと、自分の顔をしげしげと見る。
「静脈が透けて見えた? 全然見えないよ。私、一日に何回も自分の顔見てるけど、そんなの見たことない。他の人にも、言われたことない。もちろん、新体操の演技中にもね。新体操部でそんなこと言われたこと、一度もない。自分の演技、動画撮影してもらってチェックしてるけど、見たことないよ」
蘭鳳院は、オレを見つめて。
「勇希には、見えてたのね?」
「うん……本当に。はっきりと」
不思議そうに、オレを見つめる蘭鳳院。
「勇希、女子の静脈が好きなの?」
満月が、身を乗り出してきた。いや最初から、乗り出してるんだけど。不穏な目つきをしている。
「私も、静脈が透けてるよ。見たい? じっくり見ていいよ」
え?
満月、左の膝を持ち上げて、少し、スカートをめくって……満月の、太腿の内側、小麦色の肌には、確かに、青い静脈が……
うわっ
オレは、慌てて目を逸らす。
なにするんだよ。
「勇希、ねぇ、私、胸も、静脈が透けてるんだよ。今度、しっかり見せてあげるから」
満月が、囁く。
いや、あの……
女子の静脈が見たいとか、そういうことじゃないから……
「素敵な話してるじゃない」
声がした。クラス委員長、剣華優希だ。
剣華も、こっちへ来る。
満月、足を下ろす。委員長の前だからな。
ちょっと、ほっとした。
オレは、蘭鳳院、満月、剣華に囲まれた。
クラスの、長身女子トップスリー。美少女トップスリー。
圧がすごい。
剣華は、興味津々といった様子で、
「君の頬に、青い星が見える、か。素敵ね。一文字君、そんな、ロマンチックなことを言うんだ」
え?
委員長、何か……誤解してる?
あの……オレ……実際に青い星が見えたわけで……なにも、隣の席の美少女に、ロマンチックなことを言おうとしたとか、そういうことじゃなくて……
か
「なんだ、そういうことだったんだ」
と、これは満月。ニヤリとして、
「やっぱり、麗奈のこと気になってるんじゃない。でも言うことが違うわね。さっすが不純反対硬派男子。殺し文句も決まってるう」
殺し文句?
あの……ちょっと、なんで……そういう方向に……話を持ってくの?
満月は、うっとりとした表情で、
「いいなあ、私も、そんなこと言われてみたい。ねえねえ勇希、私にも、どんどん言ってちょうだいよ。私の事なら、いつでもずっと見てていいんだから」
あのさぁ。ちょっと……いい加減に……
「本当に」
これは剣華。
「こんなロマンチックなこと言われたら、ワクワクしちゃうよね」
委員長は、ふざけているわけじゃない……なので、余計に……厄介。
オレの周り、ざわざわしてきた。
気がつくと、委員長の子犬連中も、集まってきている。まあ、こいつらは、いつでも委員長の周りでじゃれついてるからな。
満月のグループ、陽キャ女子連中も、来ている。
子犬連中、口々に、
「いいぞ、ロマンチスト勇希!」
「我がクラスの詩人勇希!」
陽キャ女子も、
「私にもお願い!」
「胸キュンさせて!」
うぐぐ……
なんなんだ。
委員長の言う事は、何でも正義なんだ……
「よし」
進み出たのは、剣道部の矢駆。
長身のイケメン。委員長の親衛隊、子犬四天王の1人。
矢駆は、髪をかき分けながら、
「僕もひとつ、委員長に、ロマンチックな言葉を、捧げさせて貰います。一文字君に負けません……えーと……委員長、あなたは……あなたは……あなたは……うーんと……クラスの太陽です!」
みんなの反応は、
「うーん、ちょっと、平凡じゃない?」
「もうちょっと、頑張ろうよ」
あのさ……なんの大会になってるんだ?
つぎに、奥菜結理が、前へ出た。顔真っ赤にしている。
「私も、がんばります! ええと、ええと、ええと……その……委員長……その……あなたは……あなたは……その……ええと……」
奥菜、ぶるぶる震えている。
こういうのは、苦手みたいだ。でも、委員長のために、なにかしたいんだ。結理ちゃん、無理しない方がいいよ。
でも、奥菜、必死……
「委員長、大好きです!!」
ありゃりゃ。
これじゃ、もう、単なる告白。
みんな、ぎょっとなる。
「きゃあああああああっ!」
悲鳴をあげたのは、奥菜。
自分で言ったことに、すっかり動転している。必死に言葉を考えていて、もう訳が分からなくなっちゃったんだろう。
奥菜は、逃げ出した。
それを、剣華は、にっこりして、見送っている。
こういうの、よくあるのか? 委員長の、親衛隊では。
蘭鳳院はーー
気づくと、オレをじっと見つめている。白い指で、右の頬を押さえながら。
青い星。誰も見たことがないんだ。蘭鳳院本人も含めて。
オレにしか見えない、青い星。
そんなことがあるのか。まさか。
やっぱり、見間違いだったのかな。
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