表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

31/274

第31話 ヒーロー少女はロマンチスト詩人



 昼休みの教室。蘭鳳院(らんほういん)満月(みつき)がオレを挟んでいる。


 青い星。はっきりさせてやるぞ。オレは、蘭鳳院を正面からしっかりと見据えて言った。


「蘭鳳院さん。昨日体育館で見た新体操の演技中、蘭鳳院さんの右の頬の……少し下が、青く光って見えたんだ。小さな青い星に見えたんだけど。そういうこと、言われたことない? オレにはっきり見えたから、みんなにも見えてるはずなんだけど」


「私の右の頬に? 青い光? 青い星? 今も見えるの?」


不思議そうな顔をして、蘭鳳院は白い指を、右の頬に当てる。


すごく綺麗だ。


 でも、今はもちろん、青い星は見えない。


 「今は見えないよ。演技中だけ見えたんだ。あの……その……」


オレは、ドギマギしていた。言わないほうがよかったかな。


 「青い星っていうのは、多分……静脈が……浮き出て、透けて見えたんじゃないかな。ほら、演技中、体が昂揚して静脈が浮き出て、それが青い光に見えたのかなって……」


「静脈?」


蘭鳳院は、小さい手鏡を取り出すと、自分の顔をしげしげと見る。


 「静脈が透けて見えた? 全然見えないよ。私、一日に何回も自分の顔見てるけど、そんなの見たことない。他の人にも、言われたことない。もちろん、新体操の演技中にもね。新体操部でそんなこと言われたこと、一度もない。自分の演技、動画撮影してもらってチェックしてるけど、見たことないよ」


蘭鳳院は、オレを見つめて。


勇希(ユウキ)には、見えてたのね?」


「うん……本当に。はっきりと」


不思議そうに、オレを見つめる蘭鳳院。


 「勇希、女子の静脈が好きなの?」


 満月が、身を乗り出してきた。いや最初から、乗り出してるんだけど。不穏な目つきをしている。


 「私も、静脈が透けてるよ。見たい? じっくり見ていいよ」


 え?


 満月、左の膝を持ち上げて、少し、スカートをめくって……満月の、太腿の内側、小麦色の肌には、確かに、青い静脈が……


 うわっ


 オレは、慌てて目を逸らす。


 なにするんだよ。


 「勇希、ねぇ、私、胸も、静脈が透けてるんだよ。今度、しっかり見せてあげるから」


 満月が、囁く。


 いや、あの……


 女子の静脈が見たいとか、そういうことじゃないから……



 「素敵な話してるじゃない」


 声がした。クラス委員長、剣華優希(けんばな ゆき)だ。


 剣華も、こっちへ来る。


 満月、足を下ろす。委員長の前だからな。


ちょっと、ほっとした。


 オレは、蘭鳳院、満月、剣華に囲まれた。


 クラスの、長身女子トップスリー。美少女トップスリー。


 圧がすごい。


 剣華は、興味津々といった様子で、


「君の頬に、青い星が見える、か。素敵ね。一文字君、そんな、ロマンチックなことを言うんだ」


 え?


委員長、何か……誤解してる?


あの……オレ……実際に青い星が見えたわけで……なにも、隣の席の美少女に、ロマンチックなことを言おうとしたとか、そういうことじゃなくて……

「なんだ、そういうことだったんだ」


と、これは満月。ニヤリとして、


 「やっぱり、麗奈(りな)のこと気になってるんじゃない。でも言うことが違うわね。さっすが不純反対硬派男子。殺し文句も決まってるう」


 殺し文句?


 あの……ちょっと、なんで……そういう方向に……話を持ってくの?


 満月は、うっとりとした表情で、


「いいなあ、私も、そんなこと言われてみたい。ねえねえ勇希(ユウキ)、私にも、どんどん言ってちょうだいよ。私の事なら、いつでもずっと見てていいんだから」


あのさぁ。ちょっと……いい加減に……


 「本当に」


 これは剣華。


 「こんなロマンチックなこと言われたら、ワクワクしちゃうよね」


 委員長は、ふざけているわけじゃない……なので、余計に……厄介。


オレの周り、ざわざわしてきた。


 気がつくと、委員長の子犬連中も、集まってきている。まあ、こいつらは、いつでも委員長の周りでじゃれついてるからな。


 満月のグループ、陽キャ女子連中も、来ている。


 子犬連中、口々に、


「いいぞ、ロマンチスト勇希!」


「我がクラスの詩人勇希!」


 陽キャ女子も、


 「私にもお願い!」


 「胸キュンさせて!」

 

 うぐぐ……


 なんなんだ。


 委員長の言う事は、何でも正義なんだ……


「よし」


 進み出たのは、剣道部の矢駆(やがけ)


 長身のイケメン。委員長の親衛隊、子犬四天王の1人。


 矢駆は、髪をかき分けながら、


「僕もひとつ、委員長に、ロマンチックな言葉を、捧げさせて貰います。一文字君に負けません……えーと……委員長、あなたは……あなたは……あなたは……うーんと……クラスの太陽です!」


みんなの反応は、


「うーん、ちょっと、平凡じゃない?」


「もうちょっと、頑張ろうよ」

 

 あのさ……なんの大会になってるんだ?

 

 つぎに、奥菜結理(おくな ゆり)が、前へ出た。顔真っ赤にしている。

 

「私も、がんばります! ええと、ええと、ええと……その……委員長……その……あなたは……あなたは……その……ええと……」


 奥菜、ぶるぶる震えている。


 こういうのは、苦手みたいだ。でも、委員長のために、なにかしたいんだ。結理ちゃん、無理しない方がいいよ。


 でも、奥菜、必死……


 「委員長、大好きです!!」


ありゃりゃ。


 これじゃ、もう、単なる告白。


 みんな、ぎょっとなる。


 「きゃあああああああっ!」


 悲鳴をあげたのは、奥菜。


 自分で言ったことに、すっかり動転している。必死に言葉を考えていて、もう訳が分からなくなっちゃったんだろう。


 奥菜は、逃げ出した。


 それを、剣華は、にっこりして、見送っている。


こういうの、よくあるのか? 委員長の、親衛隊では。


 蘭鳳院はーー


 気づくと、オレをじっと見つめている。白い指で、右の頬を押さえながら。


 青い星。誰も見たことがないんだ。蘭鳳院本人も含めて。


 オレにしか見えない、青い星。


 そんなことがあるのか。まさか。


やっぱり、見間違いだったのかな。


本作品を、気に入ってくださった方は、下の評価の星と、ブックマークをよろしくお願いします。

読者のみなさまの支持が、作者のやりがいです。

どうかよろしくお願いします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ