第3話 今度は隣の美少女蘭鳳院にキスを迫られる!? 禁断の扉っていきなり開くの?
転校初日。
授業は続いていく。授業中は、静かなクラスだ。皆、お行儀が良い。さすがエリート校。
2限目。英語の授業。
英語教師は、柿口という初老の男性教諭。
私は、ぼーっとして授業をきいていた。もともと英語はよくわからない。授業をちゃんと聞いても、結局よくわからないだろう。そういうもんだ。
英語の授業の時間が、半分ほど過ぎたときのこと
気配を感じた。左を見る。
蘭鳳院……蘭鳳院だ。
隣の席の子。
え?
私は衝撃を受けた。仰天した。
自分の目が、信じられなかった。
蘭鳳院……蘭鳳院麗奈の顔が、思いっきり、私の目の前にあった。蘭鳳院が身を乗り出して、私に顔を近づけてきてる……
いきなりだ!
なんなの!
消しゴムのやりとりがあってから、私は蘭鳳院とは全く話していない。目線も合わせていない。蘭鳳院も、全く私の方を、みようとしない。
ずっといつも、お澄まし顔。
私なんて存在しない、私なんてみえない、そういう態度だった。
でも、今、
うわわわわあっ!!
蘭鳳院が、迫ってくる。
ええ? どうするの? なんで?
蘭鳳院は、私に、顔をくっつけるようにして、迫ってくる。
透き通るように白い肌、吸い込まれそうな瞳。それが私のすぐ目の前に。
蘭鳳院の吐息、甘い……なんだろうこの香り……私の耳元にかかる。
もう限界まで、顔をくっつけてきてる。
そして……そして……蘭鳳院は、形の良い唇を、ちょっと突き出してくる。
えええっ!!
これって、これって、なに?
そういうこと?
誤解が必要のないやつ……? もう絶対……だよね……
キス
キス!
それ以外……それ以外、ありえない。
いきなり蘭鳳院が、私にキスを!!
なんで?
いやっ!
そんなのっ!
別に、蘭鳳院のことが嫌いとか、そういうことじゃなくて……好きとか嫌いとかじゃなくて……
私、ママ以外とは、女の子とも、キスしたことないのに……もちろん……男子とはまだ……考えたこともない……ママだって、ほっぺにチュッ、しただけだし……
キスって……大事なことだよね? だから、心の準備とかしっかりしてからじゃないと……
だから、
だめええええっ!
だめ! だめ、だめ、だめっ!
蘭鳳院、わかってるの?
今、教室だよ、授業中だよ!
いや教室じゃなくても授業中じゃなくても、いきなりそういうことしちゃ絶対ダメ!
ダメなんだからっ!!
相手のことを考えないで、勝手にキスとか、もう絶対だめなんだからっ!!
うろたえた。当然だ。
非常事態だ。
何も考えられない。頭が、ぐるぐる回る回る……なんか、もう……
私は身動きできない。
蘭鳳院の甘い吐息がかかる。私の耳や顔に。
頭がクラクラ。
うぎゅっ
うぎゅぎゅ……
もう、ダメだ……こんなことされたら、こんなことされたら、こんなことされたら、
もう……
抵抗できませ〜ん!
だって、だって、すっごい美少女なんだもん!
美少女が、私にキスを!
こんなありえない展開……
抵抗とか拒否とか、もう、絶対無理!
うっきゅ〜ん!
「柿口の顔」
蘭鳳院がいった。
私にぴったりと顔を寄せ、私の耳元で、私にしか、聞こえない小声で、そっと囁いた。
え?
柿口?
なにそれ。
なにを言ってるの?
頭がもう真っ白。なにが、どうなるの?
蘭鳳院の、ささやき声が続く。
「柿口の顔に、触角を足してみて。カマキリに見えるよ」
え? は?
柿口……あ、英語の先生か……
私は、柿口をみる。
黒板に、なにか書いていた柿口が、ちょうど教室の方を振り向いた。あの顔に触角を足すと……
柿口の顔……逆三角形の小さな顔。大きなメガネ、ひょろっとした首。ヒゲは左右の両端が少し伸びている。
なるほど。
触角を足すと、確かにカマキリ。
「プヒャヒャ、プヒャヒャ、アハハ、アハハ、プヒャヒャヒャヒャヒャ、そうだ、柿口の顔に、触角足すと、確かに、カマキリ! アハハ、アハハ、プヒャヒャ、プヒャヒャヒャヒャヒャ」
私は、大声で笑ってしまった。
そして、当然ながら……柿口……柿口が……こっちを睨んでいる。あ、しまった。
私は、蘭鳳院の方をみる。
ねぇ、どうしよう?
ええええええええっ!!
なんで! なんで! なんで!
蘭鳳院はもう、私に顔を寄せていない。
こっちをみてもいない。
いつもみたいに、自分の席にちゃんと座って、しっかり前をみている。
こっちに目もくれない。
今、顔をくっつけてきたのが、なかったみたいに。お澄まし顔。
いつものお澄まし顔だ。
なんだこりゃ。
なんなの? この子。
この子、なに考えてるの?
もう私の脳は蒸発しそうだ。いや、とっくに蒸発しちゃってるのかな。でも確実な現実。
「一文字君」
柿口が、つかつかと私のほうに寄ってきて、睨みつけてくる。
「どうかしましたか、カマキリがどうとか、いってましたが」
「いえ……その……あの……」
「授業に集中しなさいっ!!」
柿口が、怒鳴る。
「あ……はい……気をつけます」
クラス中で、笑い声が起きる。
なに?
これってなんなの!
もうっ! ありえねぇーっ!
私の学園生活……ヒーロー跡目……
私の人生……
どうなっちゃうの?