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第273話 手を繋ぐ少女と少女 絆は永遠に 【第1部完】



 白い靄は消えた。あっという間に。魔物(モンスター)も一緒に。すべては跡形もなく。


 オレは空を見上げる。夜。月が煌々と輝いている。


 あたりを見回す。祠はーー


 あった。20メートルぐらいしか離れていない。意外と近かった。よかった。戦いに巻き込まなくて。


 オレは草むらを駆けてすっ飛んでいく。


 

 「勇希(ユウキ)


 麗奈(りな)が顔を上げて、オレを見る。 


 「大丈夫だった?」


 「うん。なんでもなかったよ」


 「そう」


 麗奈(りな)は。何があったかわかっているのだろうか。でも、麗奈(りな)は何も言わない。オレも特には言わない。


 赤ちゃんは泣き止んでいた。安心したのか。それとも泣き疲れたのか。


 「靄が晴れた。行こう」


 麗奈(りな)、赤ちゃんを抱えたまま、立ち上がる。


 「オレが抱っこするよ」


 「いいよ。せっかく眠っているから。このまま私が抱えていく」


 「わかった」


 オレはスマホを取り出す。


 「あ、もう圏外じゃない。通じる。すぐ警察に連絡するね」



 街灯のある道路に出ると。


 「あれ、パトカーじゃないかな」


 赤いライトが点滅していた。



 ◇



 オレと麗奈(りな)はパトカーで警察署に行った。いろいろ事情を聞かれた。いろいろ事情を教えてくれた。


 この近所に住む女性、未成年の少女が、1人で子供を産んで、どうすることもできず祠に棄てたのだという。少女はすぐに怖くなって、後悔して、赤ちゃんのところに戻ろうとした。でも、急にこの辺が白い靄に包まれ、探しに行くことができなくなった。すっかり動転した少女は、自分で警察に届けた。そこでパトカーが出動しての大騒ぎとなったのだそうだ。


 少女は子供を棄てた事は間違いないが、すぐに棄てたのを後悔して助けに行こうとしたし、危ないと思って警察に自分から届けたことで、罪に問われる事は無いだろうとの話だった。あの赤ちゃんのこれからは、関係各所が相談検討するという。


 オレと麗奈(りな)は赤ちゃんの発見者保護者ということでいろいろ形式的な書類を作るのに付き合わされ、終わったときにはすっかり夜も遅い時間になっていた。それぞれの両親には警察から連絡がいった。麗奈(りな)の両親とオレのママパパが、こっちに迎えに来ると言う。別に1人で帰れるけど。警察としては、夜遅く高校生だけで帰すわけにはいかないとの判断だった。


 両親が来る前に。高校の担任、春沢先生が来た。


 春沢先生は、たまたま仕事で遅くまで学園に残っていた。学園の方にも、生徒が赤ちゃんを見つけ助けた事はすぐに連絡がいった。自分のクラスの生徒ということで、春沢先生は警察署にすっ飛んできたのだ。


 「2人とも、よくやったわね。赤ちゃんを助けるなんて」


 春沢先生は、にっこりした。


 赤ちゃんを見つけたのは麗奈(りな)だ。赤ちゃんは強く泣いていたけど、あの祠からオレたちのいた道路まで、さすがに泣き声は届かない。やっぱり麗奈(りな)は霊感か何かで、気づいたんだ。



 警察署の待合室。オレたちはそれぞれの両親を待っている。それまで春沢先生もついていてくれることになった。


 「赤ちゃんを見て、どう思った」


 麗奈(りな)に。春沢先生は、優しく訊く。


 「可愛いかったです。すごく……強い子でした」


 「そうね」


 春沢先生は微笑む。


 「赤ちゃんが欲しいと思った?」


 オレはギクリとなる。なんだろう。


 麗奈(りな)は、


 「赤ちゃん……それはすごく、すごく、尊いと思いました。命……赤ちゃんをつくるって、とても大きなこと、責任の要ること、考えなくちゃいけないこと、そう思いました」


 「そうね。わかってるのね」


 春沢先生の口調。これは。



 あ、ひょっとして。


 先生はオレと麗奈(りな)のこと、そう考えてるのかな。オレと麗奈(りな)は道路から外れた電灯の無い真っ暗な草むら茂みの中に入っていった。そこで祠に赤ちゃんが捨てられているのを見つけたんだけど。オレたちは何をしに誰にも見えない夜の茂みの中に入っていったんだ? 


 先生は。オレと麗奈(りな)がそういうことをしようとしてーー


 赤ちゃんをつくる?


 確かにそう思われても仕方ないかもしれない。


 いや、あらゆる意味で、それはありえないんだけど!


 オレは真っ赤になった。



 春沢先生は、警察の人と何か話すために、その場を離れた。


 警察署の待合室の隅。


 オレと麗奈(りな)は並んで座っていた。


 「あの赤ちゃん、女の子だったね」


 麗奈(りな)が言う。


 「そうなんだ」


 あの赤ちゃん。本当に強く泣いていた。誰かにそばに来てほしくて。誰かに声を届けたくて、自分が消えて無くなってしまわないために、必死に泣いていたんだ。強く。とても強く。泣くことしかできなかったんだ。


 あの子はどうなるんだろう。


 おや。


 オレの手。熱い。


 あ。


 麗奈(りな)だ。麗奈(りな)がオレ手を握っている。麗奈(りな)はこっちを見ていない。前を向いたまま隣のオレの手を握っている。


 麗奈(りな)の手、熱い。そして強い。麗奈(りな)は熱くて強い子だ。


 あの赤ちゃんも。きっと、何があっても麗奈(りな)のような熱くて強い子になるはずだ。


 でも。


 オレはーー


 決してあんな赤ちゃんを産むことはできない。


 麗奈(りな)も。隣の子も。


 だって。


 オレたちは。


 こんなにもしっかりと、手を繋いでいるんだもん。





(第20章 オレたちの赤ちゃん 【2人の少女 勇希と麗奈の絆は永遠に】 了 第1部完)


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