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第270話 オレたちの赤ちゃん



 放課後。いつもの鍛錬。グラウンドで汗を流す。しっかり体を動かしてリフレッシュして、図書室へ。自習をと思ったんだけど。眠気に襲われた。たちまち机に突っ伏して眠ってしまった。


 「勇希(ユウキ)


 よく知ってる声で、起こされた。


 「あ、麗奈(りな)


 目を上げると隣の美少女蘭鳳院麗奈(らんほういん りな)が。


 「あれ、部活じゃないの?」


 「部活終わったよ。ちょっと調べ物があって、図書室に寄ったの」


 「そうなんだ……もうそんな時間?」


 慌ててオレは外を見る。真っ暗だ。もう夜。しまった。ぐっすり眠っちゃった。


 「うふふ、勇希(ユウキ)は図書室に、寝に来てるの? ここは仮眠室じゃないのよ」


 寝ぼけているオレを見て、麗奈(りな)がいう。



 うぐぐ……



 なんだか都合の悪いところをこの子に見られるように、世の中のシステムができてるみたい。


 「勇希(ユウキ)、もう帰るんでしょ? 駅まで一緒に行こう」


 オレと麗奈(りな)、一緒に学校を出た。



 ◇



 駅までの道。最近できた明るい街灯が並んでいるけど、道からちょっと外れると暗がりが多い。この辺の土地は天輦学園(てんさんがくえん)の運営グループがまとめて持っている。これから何か開発するために、草地や茂みをそのままに残しているのだ。だから一般の住宅とかは建っていない。


 並んで歩くオレたち。黙っている。麗奈(りな)は別にオレに話があるとか、そういうわけではない。大体余計な話はしない。これまで2人で何か大事な話をしてきたかといえば……どうだろう? したような。あまりしなかったような。


 隣の子のことは、なんとなくわかってきたような気もするし、ますます謎めいてきたようにも感じる。



 「あれ」


 麗奈(りな)が立ち止まった。


 「どうしたの?」


 「なにか……聞こえる。勇希(ユウキ)、聞こえない?」


 街灯の向こうの暗がり、さらに深い闇の方を麗奈(りな)は見つめている。


 オレには何も聞こえない。風がさらさらと揺れる音とか、虫の声とか。

 

 麗奈(りな)、真剣な表情でじっと耳をすましている。


 なんだろうこの子は。オレにはない霊感とかがあるのか? この前の林間学校の時のことを思い出した。麗奈(りな)は神官だか魔導士だかの能力を全開にしていた。あれは……夢? 夢のように思えるけど、絶対夢じゃない。間違いなく麗奈(りな)は時空を超える戦士。


 そして、普段の日常でも研ぎ澄まされた特殊能力を発揮できる、そういうこと? なんだかいろいろオレの先を行っちゃってるように思えるんだけど……いや、オレもヒーローパワーを日常生活でちょっと発揮できるから、能力の方向性が違うだけなのかもしれない。


 「赤ちゃんの声だ」


 麗奈(りな)が言う。赤ちゃん? え? こんなところに赤ちゃん? まさか。さすがに幻聴じゃないのか?


 「間違いないよ。赤ちゃんが泣いている。行ってみよう」


 麗奈(りな)は暗い脇道へと入っていく。


 

 またまた2人で。明るい街灯を背に。深い闇の中へ。麗奈(りな)には、はっきりと聞こえているらしい。迷わず進んでいく。オレはついていくしかない。


 ずんずん進むと。だんだん電灯が遠く。なんだかこの学園周辺って、東京郊外なのに「ちょっと歩くとすぐに完全に真っ暗になるエリア率No.1」なんじゃないだろうか。


 この先に何があるんだ? 思うオレ。あ。黒い影が。祠だ。


 祠が見えたと同時に、


 「ウエエエーン、ウエエエーン」


 オレにも、声が聞こえた。間違いない。赤ちゃんの鳴き声だ。


 「あそこだ」


 麗奈(りな)、祠に向けて走る。オレも一緒に。



 小さな祠。


 その前に。


 赤ちゃんがいた。白いベビー服を着ている。さいわい月が出ているので、完全に真っ暗じゃない。赤ちゃんの顔、よく見えた。


 すごい声で泣いている。精一杯の泣き声。



 「ウエエエーン、ウエエエーン」



 麗奈(りな)が、しゃがむと、すぐに赤ちゃんを抱き上げる。


 「おーよし、よし」


 麗奈(りな)はあやすが、赤ちゃんは泣き続ける。元気のいい子だ。麗奈(りな)は辛抱強くあやし続ける。


 オレはキョロキョロあたりを見回す。もちろん誰もいない。こんな夜に。祠の中に赤ちゃんがただ1人で。この状況はつまりーー


 「すぐ、連絡しなきゃね。勇希(ユウキ)、お願い」


 麗奈(りな)の声に、オレもうなずく。


 オレはスマホを取り出す。


 赤ちゃんは、捨てられた。きっと。通報先は警察でいいよね。


 オレがスマホにタッチすると。


 突如、白い靄が。え、まさか。今の状況考えてよ。これってーー


 白い靄はどんどん濃くなり、オレたちを取り巻いていく。


 オレのスマホ。圏外になっている。ダメだ。


 「麗奈(りな)、オレのスマホ通じない。麗奈(りな)のも試してみて」


 突然の白い靄に驚いた様子の麗奈(りな)も、赤ちゃんを抱えながらスマホを取り出す。


 「だめ、私のも圏外」


 なんてこった。オレたちは、ぴったりと身を寄せ合う。


 白い靄、もうすっぽりとオレたちを包んでいる。周りは何も見えない。


 ファンタジーな展開。


 でも、麗奈(りな)の腕の中でずっと泣き続けている赤ちゃん。


 その泣き声は、現実(リアル)だった。

 

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