第27話 戦いの行方 面影を追って
家に帰ったらオレ。
さっそくママに、この日のことを話した。
パパは珍しく出かけていていなかった。
「ふーん、勇希ちゃん、さすがね。ほら、やっぱり、ちゃんとヒーローできてるじゃない」
相変わらずお気楽能天気だなぁ。
「悠人に会ったんだよ」
オレは頬を紅潮させる。
「その、さぁ。幻影の中の記憶じゃなくて、異空間に現実に引き込まれて、そこで悠人に出会ったんだ。やっぱりどこかに生きてるんじゃないのかな?」
ママは、遠くを見る目になった。
「うーん。悠人はほんとに妹想いであなたのこと大好きだったからねえ。悠人の強い想い、残留思念がきっとあちこちに残ってるのよ。また、出会えるといいね」
「残留思念? そういうものなのかな」
悠人の面影。それから、あちこちに残っていて、また出会える?
「悠人に会える? それならこのヒーローの仕事、なれてよかったかも。で、ママ。ヒーロー跡目候補の宿命が本格的に動き出したんだけど、魔物との戦いとか何かについて、悠人は、何か残してなかったの? 参考になるようなことが」
いきなり異空間異世界に引っ張りこまれて、魔物と戦うとか。やっぱりいろいろ情報欲しいよね。
「そうね」
ママ、頬に、指を当てて考え込む。
「悠人の日記があったけど」
「え! 本当? そこに何が書いてあったの?ヒーロー跡目のこと、書いてあった?」
「そういうのは書いてなかったわね。学校のこととか、クラスのこと、友達のこと、あと彼女のことも書いてあったわ」
「彼女?」
兄には確かに彼女はいた。イケメン優等生だからとにかくモテたんだ。
「うん。悠人が、彼女と何をしたか、どこまでしたか知りたい?」
「ちょっと! そういうの、親だからって、勝手に読んじゃだめだよ!」
オレは真っ赤になっていた。いや、オレだって実際は猛烈に読みたかったけど。でも、オレの中の兄のイメージを壊したくない。
「ふざけないでよ。私のことは書いてあった?」
「もちろん。勉強できないのは心配してたよ。でも、ほんとにあなたが可愛い可愛いって。あなたのすることはなんでも、悠人は好きだったのね」
オレはもっと真っ赤になった。
◇
残留思念。
今日出会った兄。
そういうものなのかな。
夜、オレは自分のベッドで眠れずにいた。ずっと今日のことを考えている。
悠人が渡してくれた木刀。魔剣。
「天破活剣!」
オレは叫んでみた。木刀を手で握るのをイメージして。
何も起きない。
あの剣。あの異空間、魔物が呼び込んだという黄泉の世界、幽世で現れるものなんだ。
わかる。はっきりとそう感じる。また魔物と戦う必要があるときには、きっとあの剣が現れる。
裾を翻す長ラン、あれもきっと。
これはもう、男修行のために夢中で読んだ少年ヒーロー漫画『男の坂』の世界だ。
巨大なモンスター、金色三頭獣を、木刀、天破活剣の放つ青白い光が真っ二つにした。ゲームや映画で見る世界より、断然、凄い迫力。
現実。現実に起きたことなんだ。
本物のヒーロー。
これからも起きるんだ。それをクリアしていって、オレは正式のヒーロー跡目となる。校長の話じゃ、ヒーロー跡目になったらもっと本格的に戦うことになるらしい。
悠人、また助けてくれるのかな。
オレはゴロンと寝返りを打つ。
悠人の残留思念。残された記憶。それがあちこちにあるなら、それを追って、拾っていきたい。どこまでも、どこまでも。
出し抜けに、頭に、声が響いた。
ーー 悠人は生きている ーー
そうだ。オレはベッドで布団をかぶり、震えた。あんなにはっきり現れたんだもん。やっぱりどこかで生きてるんだ。
病院で、兄の死亡診断に、オレは確かに立ち会った。それは間違いない。でも……この世界とは違った世界が存在するんだ。だから、この世界で死んだ悠人が、別世界で生きていてもおかしくは無い。
生きている。悠人は生きている。
それは確信に変わった。オレにはわかるんだ。
オレがヒーローになる。それは、幻影じゃない、本当の悠人に会いに行く。そういうことなんだ。オレが真のヒーローになれば、きっと悠人に会える。
待っててね。兄さん。悠人。
きっと会いに行くから。
オレはトロトロと眠りに落ちた。悠人の面影、閉じたオレの瞳にはっきりと浮かぶ。
( 第四章 校長室の戦い 了 )
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