表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

261/274

第261話 バレエ de パ・ド・ドゥ



 音楽室。

 

 蘭鳳院麗奈(らんほういん りな)。隣の席の美少女が入ってきて、扉を閉める。


 ガランとした音楽室で2人きり。麗奈(りな)が、オレの方へ歩いてくる。


 「あの……どうしたの?」


 「ん? 私、花壇の水やり終わったから。それで、勇希(ゆうき)が、ちゃんとできてるかなって見にきたの」


 ちゃんとできている? いや、全然たいした仕事じゃないから。オレができないなんてことあると真面目に考えてるの?


 「勇希(ユウキ)の方も、もう終わったんだね」


 うん。そうだよ。オレは日直の仕事、きちんとやったぞ。


 麗奈(りな)、じっと、オレを見つめる。


 なんだ。ゾワッとする。同じ学園の同じクラスで、席が隣で毎日顔を突き合わせているのに、なんだろう。こう、いつも。吸い込まれそうな瞳で見つめられると、オレはクラクラする。せざるを得ない。


 美少女の形のよい唇が動く。


 「勇希(ユウキ)、今、踊ってたね」


 「う……ん」


 扉の窓ガラス越しに、見てたんだ。べ、別に、見られたって問題ないけど。


 「バレエ?」


 「うん」


 オレは一呼吸する。落ち着け。何も問題ないぞ。


 「オレ、実は、小さい頃、バレエをやってたんだ。小学校に上がる前の話だけど。親にやらされてたんだけど、結構好きで、たまに思い出してやったりして」


 「へえ、そうなんだ。ちゃんとやってた人の動きだったね」


 「うん。小学校からは、野球に夢中だったけど、その前はバレエに結構本気で。あ、バレエ教室の発表会で、くるみ割り人形のクララを演ったことあるんだぜ」


 「クララ?」


 麗奈(りな)の眉が、ピクリと動く。


 「それ、女の子役だよね。男の子が女の子役をやったんだ。珍しいね」


 うぎゃあああっ! 


 しまった! 


 男装女子の宿命、油断ならねえっ!


 「ああ、違う。間違えた……オレが演ったのは、その……王子……くるみ割り人形の王子の役……はは……勘違いしてた」


 冷や汗が出る。なんだか体が震える。もう完全に見抜かれてる、そんな瞳で見つめられて。けれど麗奈(りな)は、クスっと笑い、


 「ふうん、そうなんだ。私は小学校までバレエ。新体操は中学から始めたの。勇希(ユウキ)のバレエみたら、久しぶりにやってみたくなっちゃった。ねえ、ちょっと一緒に踊らない?」


 「え?」


 急展開だ。一緒に踊る? 音楽室。2人だけ。スペースはたっぷり。


 ここで2人で踊る。お互い経験者だから。久しぶりにバレエのステップを思い出した。オレもやりたくなってたし、麗奈(りな)もやりたい。今は昼休み。廊下を通る誰かから見られるかもしれないけど、別に、見られたって困ることない。ただ、バレエ経験者のクラスメイトが2人で一緒に踊るだけ。そうだよね?


 よし。


 体がさらに震える。いや、待てよ。オレのバレエ。冷静に考えると……ちゃんとやってたのは、小学校に上がる前だから、バッチリやってきた麗奈(りな)の相手って務まるかな? 普通に考えると……それは無理……でも、ネコミミダンスの時も、麗奈(りな)をリードしてぶん回してやるって、誓ったんだ。あの時は空回りだったけど。こんどこそーー


 「さあ、王子様、お手を」


 隣の美少女がオレに手を差し出す。なんとも優雅な仕草。完璧すぎる。麗奈(りな)、微笑んでいる。今まで見てきた笑顔とちょっと違うような。凄み。ちょっと()されるのを感じる。



 うぐ、


 うぐぐ、



 ()されて……なんかないぞ。王子様……か。いいだろう。やってやろうじゃないか。ここまできたら……もう、やるしかない。あれ、待てよ? こういうのって、手を差し出すのは王子のほうだよね? 姫がなんだか王子をリードしてぶん回そうとしてる? いや、そんなことにはならない。オレはヒーローだ。ヒーロー王子なのだ。だから何があろうと、お澄まし顔のお嬢様よ、お前のことをぶん回して、男を見せてやる。最後に勝つのは、このオレだ! ダンスとは戦いなのだ。オレは堂々ヒーロー王子として、勝利してやる。蘭鳳院(らんほういん)、今度こそお前を〝わからせ〟てやるからな!


 「やりましょう。よろしくお願いします」


 オレも手を差し出し麗奈(りな)の掌に重ねた。


 しっかりと見つめ合うオレと麗奈(りな)


 いくぞ。開戦だ。


 いい感じの間合いだ。覚悟はできた。オレは不思議と冷静。一騎打ち。場数を踏んできたからな。ヒーローモード、全力全開だ! 見てろよ!


 麗奈(りな)が、言う。


 「じゃ、始めよう。2人ダンス(パ・ド・ドゥ)ね」



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ