第260話 音楽室で隣の美少女と
昼休み。オレは音楽室にいた。
午後の授業で、うちのクラスがここを使う。今日はオレ、日直なので、準備だ何やらしなくちゃいけないのだ。準備といっても別に大した事じゃない。机と椅子がちゃんとした位置にあるかとか、黒板だチョークだの確認だとか、そんなこと。すぐ終わる。
さっさと済ませしちゃおうと、弁当食べると、購買部で買ったパンを頬張りながら音楽室に来た。日直のもう一つの仕事、花壇の水やりは、隣の子蘭鳳院麗奈に任せてきた。日直の役割分担だ。
音楽の授業の準備。すぐに終わった。オレは一息つく。ガランとした音楽室。結構広い。何かといろいろ豪華な設備の学園だからな。高価そうなグランドピアノが置いてあって、壁には、音楽史上の大物著名人の肖像画が飾ってある。オレはキョロキョロと見回す。
窓の外。
体育館が見える。第二体育館だ。オレは窓を開けて、身を乗り出す。
あれは。新体操部の練習場だ。体育館の扉が開いている。中が見える。おや。昼休みだけど、新体操の練習をしている子がいる。部員だろう。熱心だな。昼休みだから、もちろんレオタードじゃなくて、体操服だけど。
新体操部といえば。オレが思い浮かべるのはもちろん隣の席の子、蘭鳳院麗奈。もらった新体操動画。もう何度も何度も、100回以上見ちゃってる。吸い寄せられる。強い磁力があるんだ。
何度見ても。
うぎゅっ!
胸が熱くなる……
なんだろうな。毎度ながら、この感情……
動悸がして、頭に血が上って……
いや……オ、オレは、その、ただ、アスリートの研ぎ澄まされた技に感銘を受けているだけで……目標に向かって心身を鍛えている子のことは誰だってリスペクトしてるし応援する。そういうものだ。だから、べ、別に麗奈のレオタード姿に不純感じてるとか、そういうのじゃ決してないから!
麗奈の新体操演技。やっぱり動画じゃなくて、直接また見たいな。
そうだ。麗奈の右頬の青い星。また見えるかも。
この前、林間学校で見て以来、また見えなくなったからーー
しかし、〝男子〟のオレが、体育館に、麗奈の新体操の練習を見物に行くっていうのは……さすがにどうかと思われるよね。観たいけど残念。
でも、大会とかあるだろう。そしたらみんなで応援に行く。オレも断固として行く。それを楽しみにしてればいいんだ。
麗奈の優雅で芯のある演技。体育館だけじゃなくて、幽世でも観たな。息を呑む圧巻の美の女神。美の女神ーーそれだけじゃなくて、月の力を操る神官だか魔導士でもあるようだ。一体何なんだろう、あの子は。
この前の創作ネコミミダンスを思い出す。ああいうダンスでも、麗奈は実に優雅に舞っていた。
バレエをやっていた。麗奈はそういってたな。オレもやっていたぞ。小さい頃だけど。
オレだって、ちょっとは踊れる……はずだ。バレエを止めて野球一筋になってからも、時々思い出して、バレエのステップを踏んだりしてみたりしてたし。
広い音楽室。スペースがある。誰もいないし。
オレはステップを踏み出した。音楽の巨匠たちに見守られながら。
脚が動く。姿勢もキマる。だいぶブランクがあるんだけど。
プリエ、タンジュ、アラベスク、回転、
おお、いい調子だ。なんだか妙に体が軽いな。ひょっとしてヒーローパワーで、こういう動きも良くなってるのかな?
結構滑らかな動きができて得意になったオレ。ふふ。これなら麗奈に披露してやってもいいかも。ネコミミダンスの時は、のぼせ上がっちゃって、あっという間に終わった。やっぱり、しっかり麗奈と踊ってみたいな。オレだって跳べるんだぞ。よし、ジャンプ!
ガラッ、
音楽室の扉が開いた。いきなりだったから、ジャンプしたオレはバランスを崩し、転びそうになる。やっとのことで姿勢を保つ。
あ。
麗奈。
扉を開けてこちらを見てるのは、隣の席の美少女蘭鳳院麗奈。
お澄まし顔でオレを見つめている。




