第259話 ネコミミ de ダンス (後編)
体育の授業。グループワークで創作ダンス。
ネコミミダンスをやることになったオレたち。
肝心の振り付けだが。
意外にも満月がやらないというので、紛糾した。
「私はネコミミ考えたんだから、ワクワクするダンス、みんなで考えてよ」
と、ニヤリとする満月。こいつをワクワクさせる? それってかなり無理ゲーだけど。
「麗奈さん、どうですか?」
奥菜が言う。
「新体操部だし、ダンスの振り付け、できるんじゃないですか?」
「うーん」
麗奈はお澄まし顔で思案。
「やれって言われればできるけど。バレエもやったし。でも、それでいいの? 新体操とかバレエの動きで」
沈黙がよぎる。ネコミミで、新体操だバレエだ。
かなりのギャグにしかならない。まぁ、もうネコミミだから最初からギャグだけど。
結局。危険な空気を察知したのかーー
「僕がやります」
名乗り出たのは、ラグビー坂井。
坂井、大丈夫なのか? と、思ったけど、
「創作ダンスですから。みんなで楽しくやりましょう。僕が考えますけど、皆さんもどんどん意見をください」
もじゃもじゃ髪の巨漢、にっこりすると説得力がある。
真面目な坂井が作るダンスだ。まぁ、安心していいだろ。オレはほっとする。
ふと、気づく。蘭鳳院麗奈。オレの隣の美少女。
相変わらず、涼しい顔を。
ダンスについては、麗奈がプロなんだよな。
ずっとそれをやってて、インターハイ目指してるんだし。新体操は競技ダンスと違うけど、その要素はいっぱいある。
ダンスのグループワーク。不吉な気がした。また、オレは麗奈に振り回されるのか?
最近、どうもおかしい。麗奈はますます上から目線だし、他の女子にも、振り回されっぱなしのような。
いかん。これではいかん。
ダンスか。ここで何とか。
男を見せねば。
待てよ。
オレは、はっ、となる。
何を隠そうこのオレも、3歳から、小学生になるまでは、バレエをやっていたのだ。親にやらされていたんだけど、結構好きだった。小学校になってからは野球一筋だけど。
だからダンス。それなりに知っている。
ダンスといえば。古今東西、華は女子だが、女子をしっかりリードして支配するのは男子の役割だ。そうだ。ソロでやる新体操とは違うぞ。
女子と男子の混合ダンス。最初から、つまりそういうこと。
女子をリードする男子の役割。きっちりやってやろうじゃないか。
うむ。認めさせてやらなきゃならん。お澄まし顔のお嬢様。今日のグループワーク、いよいよオレが男を見せる時だ。麗奈、お前を振り回してやろうではないか。
フ、
観念するがよい。オレのリードに、お前はおとなしくついてくればそれで良いのだ。
坂井を中心に、みんなでワイワイ振り付けを考える。
「ここ、ペアで手をつなごうか」
「ここはターンして、ポーズを決めよう」
「いいね、みんな一緒に。きっちり揃えよう」
「ペアダンスと、群舞と、メリハリつけていこう」
単なるネコミミダンスなのに、みんな熱くなっている。
ダンスと無縁そうな樫内も、ハッスルしている。
「ダンスは芸術です!青春です! 我々の抑え切れない若き発露を体育館いっぱいに轟かせましょう!」
なんだか凄いことになっている。
だが、いい。
何ができようがこのヒーロー、きっちり男を見せてやる。それが今日の舞台。
振り付けの相談、やっとまとまる。麗奈はずっと黙っている。オレも口は出さなかった。
だが。
蘭鳳院麗奈よ。お澄まし顔のお嬢様よ。
これはオレとお前の一騎打ちだぞ。勝負。手を取った時から、戦いは始まるのだ。
◇
ダンスの練習が始まった。なんだかやたらとややこしい。
女子ども。
妙に殺気立っている。
「勇希、ここでぴょんと跳ねて! 違う! もっと膝を曲げて、可愛くね!」
「手を繋いだらすぐターン!」
「ペアダンスの後、すぐみんなで決めポーズだからね!」
うーん。満月に奥菜、それに麗奈も。麗奈、練習指導となると俄然、力を入れてくる。
みんな体育会系だからな。本領発揮だ。
なんだか容赦なくしごかれる。
オレはオタオタしてしまう。バレエと違って、ぴょんぴょん跳ねる動きが多いし。バレエってのも6歳までしかやってないから、ダンスはだいぶ遠ざかってたし。
樫内は青色吐息。完全にへばってヘロヘロだが頑張っている。坂井も自分で考えた振り付けを女子に指導されて、汗だくで必死。
クソッ!
女子などに負けてたまるか。
オレも涼しい顔の麗奈に、負けじと食いついていく。
何とか練習も終わり、形になった……と思う。
本番だ。
グループごとに、創作ダンスを披露。
他のグループも。みんな頑張ってるな。我がクラスは、こういうところでノリの良さを発揮するのだ。キャーキャー歓声が上がる。
そしていよいよ我がグループの出番。
メンバー6人、ネコミミ装備で登場。
「可愛いーっ!」
「一文字君、素敵ーっ!」
「麗奈、ネコミミも綺麗ーっ!」
観客のボルテージが上がる。
スタンバイ。オレは麗奈と向かい合って、両手をしっかり握る。麗奈、ネコミミでも、お澄まし顔。
フ、
お嬢さん、いよいよ、オレが男を見せてやるからな。お澄まし顔をしている場合じゃないぞ。わかってるか?
音楽が流れる。スタートだ。
坂井の考えたダンス。
やたらとぴょんぴょん跳ねて、手をつないでターンして、相手を変えてまた手をつないで、みんなで決めポーズして。
オレたちはかなりな歓声拍手喝采を浴びた。可愛い可愛いとの連呼。
麗奈は、ダンス中は全力で笑顔。新体操でいつもやってるからな。できるんだ。いつもそうしてるよ、と思うけど。笑顔のヒロイン。やっぱりいいよね。
最後の決めポーズ。決まった。やったぜ。これで終わり。キャーキャーの歓声が最高潮に。反応、オレたちのグループが、一番よかったんじゃないかな。
で。
オレは、男を見せることができたか?
それは……なんとも。
坂井の振り付け、あんまり男がリードしたり、男子が女子をブン回したりするのがなかったような。
麗奈には。
「勇希、すごく可愛かったよ」
と言われた……




