第246話 白き月の滅びの嵐 《デッドムーンストーム》
麗奈の月光縛鎖で金縛りとなったオレ。
ピクリとも体が動かせないので、ただ、麗奈と魔物の対決を見守るしかない。
我がヒロイン、自信満々だけどーー
麗奈と白猿鬼。その間合い、すごく近い。
大丈夫かな。オレはやきもきする。
神官か魔導士装束の麗奈。どう見ても、後方援護要員なんだけど。前衛無しで戦うの? 相手の猿は、剣も盾も持ってるのに。やっぱり、危ないよ。もう絶対攻撃の間合いに入っている。5体の魔物の連携攻撃を喰らったら一瞬で、
麗奈が引き裂かれる!
いかん。優等生お嬢様の麗奈は、勉強ばっかで、ゲームとかやったことないんだ。剣士と魔法使いの役割分担。前衛と後衛の連携プレー。戦闘するなら、最低限の戦術考えなきゃ。妹の麗紗はきっちりできてたのに。
だめ。
このままでは絶対だめ。
ヒロインの危機。
目の前のヒロインが。オレの1番大事なヒロインが。
だめ!
絶対、守る!ヒロインは守る!
オレが! なんとしてもオレが!
まずは……麗奈の魔法の呪縛を解くんだ。それにしてもこの肝心な時にヒーローの動きを縛るとは、何をしてくれるんだ。後でよく説教してやろう。まったく。
今はとにかく、この呪縛を破る!
やってやるぞ。オレはヒーローだ。ヒーローに不可能は無い。こんな魔法の呪縛くらい。
「うおおおおっ!」
オレは全身の精気を集中し、体から噴射させる。全身からだ。オレの体、青い光に包まれる。
おお、いいぞ。体が少し動いてきた。魔法の呪縛だって破れないわけはないんだ。よし、このまま一気に呪縛を解くんだ。
あと一息。精気全力だ……
「じっとしててって、言ったでしょ!」
麗奈がこっちを見ずに叫ぶと、月光杖をまた一振り。
「うぎゃあああっ!」
またまた物凄い力でオレ、締め上げられる。月光縛鎖、もっと強化された。強力すぎる。なんだこりゃ。撥ね返すの、だめそう。
渾身の力もむなしくオレは呪縛から脱出できず、体は、凍りついたまま。
もう……麗奈……オレのヒロイン……一体何を……
オレはただ、見つめるしかなくて。
煌々たる月の光の下。
月の女神と、魔物との対決。睨み合い。じりじりと時間が過ぎる。
やがて。
麗奈が、月光杖を高く掲げた。月光聖法衣に包まれた身体、月光色に輝く。
「この霊山霊場霊域の力を操れるのは、あなたたちだけじゃない。私たちも使えるのよ。さあ、月よ、千の夜の欠片を集めよ。この場に満ち溢れし霊光を掬い織りなしすべてを貫き滅する光輪を走らせよ。白き月の滅びの嵐!」
唱えるや。
途端に光の爆発が起きた。白い光の炸裂。全てを包み込む。
なんだ。見えない。何も見えない。
白い光の嵐が巻き起こった。一切の翳の存在を許さない渦巻く光の奔流。凄まじい力と精気。
白猿鬼たちは、瞬く間に白き月の滅びの嵐の渦に呑まれた。回避も防御もできずに。何もできない。ただただ、立ち尽くしている。圧倒的な白い光の中で、五体の黒い影、やがてボロボロと崩れ、ぐしゅぐしゅと朽ちていく。
麗奈はーー
炸裂する白い光の奔流の中で、昂然と月光杖を掲げている。黒い髪を振り乱し、月光聖法衣の裾はまくれ上がり、白い脛も膝もむき出しになっている。莫大な力精気を操る女神の姿。
白い光の炸裂。僅かな間だった。やがて消える。
また、静かな山に戻る。月は相変わらず煌々と。
白猿鬼、影も形もなくなっていた。完全消滅だ。力も技も、得意の頭脳連携戦も、何もする間もなく。結構強そうな奴等だったんだけど。
麗奈。月光杖を手に、静かに白猿鬼たちのいた空間を見つめている。
何事もなかったように。息も乱れていない。
うーんと。やっと……オレの頭が、多少は動き始める、つまり麗奈、あの手強そうな相手を、あっさり倒しちゃったってこと?1人で? ヒーローの出番もなしに? 魔法とかで? 今、使ったのは何?
白き月の滅びの嵐。とかいってたな。
どう見ても全体攻撃魔法。相手に身動きする隙すら与えない一瞬の全面抹殺攻撃。
白猿鬼を消し去った。
何でもない、という顔をして。
毎度ながら、〝わけのわからん事ばかり状態〟なオレだけど、
ただ一つ、はっきりわかったこと。
オレのヒロインは……強い。




