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第24話 異世界のヒーロー少女 でっかいやつが現れて


 

 ぐわん、ぐわん、


 校長室から、いきなりどこかに吸い込まれた。いやとばされたのかな。


 周囲。何も見えない。薄ぼんやりとした世界。


 だんだん光がーー


おや。急に明るくなった。



 ◇



 オレは、緑の草地に立っていた。


 上を見上げる。青い空。


 周囲。森だ。草地を、鬱蒼とした森が取り巻いている。緑の草地。森の中の広場のようになっている。


 オレは緑の広場の中心に立っていた。


 燦々と陽が降り注ぐ、キラキラした明るい世界。


 オレはキョロキョロとあたりを見回す。


あ、校長。校長がいた。オレから少し離れたところに。


 校長の格好。なんだ? 神主みたいだ。


 平安時代風の帽子に衣装。


 首から手のひらサイズの丸い鏡を紐でぶら下げている。


 またこれか。


宿命の世界を見せてくれるってことか。今度は校長が。


 自分の格好を見る。学園の制服。詰襟学ラン。こっちは何も変わっていない。それも、ママとパパの時と同じだ。


 2度目。だから落ち着いてる。



 「びっくりしたかね」


 校長が言った。


 「ええ、少し。いきなり違う世界に飛ばされた……吸い込まれたのかな?でも、これ一度経験してるんで」


 「経験?」


 校長の目がキラリと光った。衣装は平安時代風だが、銀縁の眼鏡はしている。


 「ママとパパが、見せてくれたんです。なんていったかな?そうだ、御家魂(みやだま)っていうのを使って。


 これ、宿命の一族の記憶がオレの頭に流れ込んで見せてくれている幻影なんでしょ」


 ややあって。


 「違う」


 校長は言った。厳かな声だ。


 「君の両親が見せたものは、確かに記憶の生み出した幻影だ。そのくらいならしても、古来からの掟に反しないからな。しかし、これは違う」


 「違う? 何が違うんですか?」


 「これは現実だ」


校長、きっぱりと言う。


 現実? 目の前の見知らぬ世界。これが現実って?


 「そうだ、君は黄泉の世界、私たちが住んでいた世界とは、別の世界、別の空間に、実際に引きずり込まれたのだ。意識も体もな。幻影を見せられているのではない」


 へ?


 黄泉? なんだ。それ。別世界? 別の空間? それって異世界に飛ばされたってこと? 


もう完全にファンタジーの世界だ。いや最初から、ヒーロー跡目の話自体ファンタジーだけど。


 校長は続ける。厳しく運命を告げる、予言者に見える。


 「黄泉の世界、黄泉の国。大昔の人は、死者の行く国だと考えていた。


 そこは、この世ならぬ世界だ。幽世(かくりょ)だ。


 我々の知っている住んでいる世界、現世(うつしよ)とは、別の世界があるのだ。君も見せてもらっただろうけど、魔物(モンスター)のようなものが蠢く世界だ」


 なるほど。人面犬みたいな魔物(モンスター)が存在するなら、そいつらが住んでる世界もあるはずだ。異空間異世界の住人なんだ。


 それならそれで、こっちの世界に来ないでほしいんだけど。


 オレは言った。


 「ここが本物の、黄泉の国ってやつなんですね? 異世界? 今日は校長先生がオレをここに連れてきたってこと? 案内してくれるんですね」


 「違う」


校長、どこまでも真剣な口調。そして、首から下げた小さな鏡を手に持ち、翳す。


 小さな鏡。陽を浴びて、キラリと光る。


 よく見ると。


 虹色。鏡の光、間違いなく、虹色の彩りを放っていた。


 「こちらから、黄泉の世界に行くことができない。動くのは向こうからだ。空間と空間が重なり、侵触し、時々、ぽっかりと穴が開く。そこから黄泉の者が出てきたり、我々が引っ張りこまれたりする。こちらの意思で自由に行き来することはできない」


 「じゃぁ、今日は」


 「そうだ。呼ばれたのだ。向こうから。呼ばれたのは君だ。これを “ 世告げ(よつげ)の鏡 ” という。今日、この鏡が反応したのだ。空間が交わり、世界が侵蝕される時、この鏡は虹の彩りを帯びる。(きざし)だ」

 


 (きざし)


 なんのこっちゃ。


 でも。


 呼ばれた?


誰に?


 「来たぞ」


 校長の声。


 来た?

 

 確かにきた。目の前に急に。


 なんだ。


 デッカイやつ。


 この前見た人面犬より一回り大きい。


 金色に光り輝く獣。


突然現れた。


 なんだ、こりゃ!


 オレは腰を抜かしそうになった。でも、持ちこたえた。何とか立ってるぞ。いろいろおかしなことが次々と起こって、少しは慣れてきたんだ。


 急にとんでもない奴が現れたって。動じないぞ!



 オレの目の前。森に囲まれた草地の広場。陽が燦々と降り注ぐ中。


 なんだ、こいつは。


 金色。


でっかい獣。頭は三つ。豹? 雌ライオン? 尻尾は1本。


 頭が三つで、金色で、サイズがかなりデカいこと以外は、こっちの世界で見知っている、ライオンか豹、その類だ。


 ぐるる、と、うなり声をあげる。


 意思を持たないかのような、冷たい金色の瞳。三つの頭の六つの瞳。それがオレをにらんでいる。


 「魔物(モンスター)だ。そいつは金色三頭獣(トリトラ)だ」


 校長の声。


 「君はまだ、ヒーロー跡目にはなってない。だが、ヒーロー跡目候補として、君は宿命の力を微かに宿し始めた。その匂いをかぎつけてやってきたんだ。こっちの世界に侵蝕し、穴を作り、君を引っ張り込んだんだ」


 このモンスター、オレを狙って現れた? そのために時空と時空が重なる穴が空いた?

 

 ぐるる、と、六つの瞳でオレを睨んで息を吐く魔物(モンスター)を見ながら、オレは言った。


 「あの、この魔物(モンスター)の狙いはオレなんですね? それで、こいつは、オレをどうしようっていうんですか?」


 「知れたこと。君を喰い殺すのだ」


 校長は、冷厳と答える。


 は?


 なんで?


 ヒーロー跡目候補。とりあえず、女子だとバレなきゃそれでいいって話じゃなかったっけ?


 いきなり魔物(モンスター)に襲われる? 異世界異空間に引っ張り込まれて?

 

 そんなの聞いてないよ!


 「ちょっと! なんで! おかしくないですか? なんでいきなり喰い殺されなきゃいけないんですか?」


 「殺されはせん」


 校長、落ち着いている。


 「君は戦うのだ。戦って、その魔物(モンスター)を倒す。それでいい」


 戦う?


ヒーローだから、世界を守る高めに戦うっていわれてたけど、いきなり?


 展開早くない?


 「一文字勇希(いちもんじ ユウキ)君、君にとって、これは紛れもなく現実だ。ここで死ねば、それはつまり君が死ぬと言うことだ。もう助からない。その魔物(モンスター)と戦って、倒すしかないのだ」


 え? 


 目の前の魔物(モンスター)を戦って倒す。負けたら死ぬ?



 ぐるる、


 金色三頭獣(トリトラ)は、不気味な息を吐く。


 ここで死んだらそれでおしまい?

 

 ゾクッ、とする。


 

 

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