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第234話 暗闇の中で見た勇者



 凛子(りんこ)が倒れた。鷹十条(たかじゅうじょう)家のスタッフ使用人たちが駆けつけ、大騒ぎとなった。


 意識を取り戻したとはいえ、凛子(りんこ)は虚ろではっきりと喋れず、体の力が抜けた状態である。慌ててみんなで介抱し、医者を呼べ、呪術師を呼べとバタバタする。


 生徒会の茶会は、当然、お開きとなった。


 生徒会メンバーは、わけのわからぬまま、王朝装束を学園の制服に着替え、鷹十条(たかじゅうじょう)の屋敷を、辞去する。


 (はやぶさ)(ひよどり)の姿が見えないことは、みんな不思議だった。事情があって、先に帰ったんだろうということになった。


 わずかな間だけ、天輦学園(てんさんがくえん)高校に在籍した転校生の二人。その後も杳として、行方が知れなかった。


 突如、転校してきて生徒会メンバーとなり、突如消えた隼華琶(はやぶさ かわ)鵯椰蔴(ひよどり やま)。しばらくの間、生徒たちの間で、あれこれの噂が続いた。門閥の影の力が働いたのではないか。門閥の裏抗争に巻き込まれたのではないか。噂に尾鰭がついてどんどん膨らんでいく。学園の7不思議に上がり語り継がれていく日も、そう遠くはないだろう。


 

 ◇



 書院で倒れてから、数日の間、凛子(りんこ)は高熱が続いた。鷹十条(たかじゅうじょう)家が呼び寄せた医者に呪術師、霊媒師、霊視者、祈禱師たちが大勢で四苦八苦の奮闘をしたが、原因はわからなかった。


 しかし。


 数日後。


 凛子(りんこ)は、すっと意識を取り戻し、起き上がった。体には何の別状もなく元気になった。かえって力が満ち溢れているようであった。


 学園に、前と同じく、完璧無比な皆の憧れの的の才媛カリスマとして、戻ってきた。


 学園全体が、ほっとしたが、まもなく衝撃の情報が駆け巡る。


 凛子(りんこ)は、ここ暫くの間のことを、全く覚えていない。短期間の記憶を喪失してるというのである。


 自分が勇希(ユウキ)(はやぶさ)(ひよどり)を推薦して生徒会メンバーに引っ張り込んだことも本人は露知らず、周囲に教えられて、びっくりしていたという。


 ここにおいて、やはり凛子(りんこ)様は一時的な解離性症に陥ったので奇妙な行動をしてしまったのだ、という説が有力となった。


 一文字勇希(いちもんじ ユウキ)などを生徒会に引っ張り込んだ時点で、これはわかっていたことだ。最初から解離性症説を主張していた者は、得意顔である。



 今回のことで、学園内での凛子(りんこ)の評価は下がる事はなかった。


 これまで積み上げてきた人望人徳がモノを言ったのである。


 「きっと大名門旧家当主を継いだストレスが原因なのね」


 「うん。俺らには想像もできないプレッシャーだろうからなあ」


 「凛子(りんこ)様でも倒れる事なんてあるんだね」


 「誰でも完璧ってわけじゃないよ。私達が、凛子(りんこ)様を、お守りしなくちゃ」


 ストレスで倒れると言う、普通の女子らしいところを見せたことで、むしろかえって好感は上がったようなのである。カリスマは、倒れても、カリスマなのであった。


 元の凛子(りんこ)に戻った生徒会副会長を見て、生徒会長雪原(ゆきはら)は、ほっと胸を撫で下ろした。生徒会史上、学園史上、そして長い歴史を誇る門閥史上、前例の無い大事件が起きるのではないか? そんなことを危惧していたのである。



 勇希(ユウキ)は、生徒会を辞めた。そもそも、凛子(りんこ)に引っ張りこまれたのである。その凛子(りんこ)が、自分が勇希(ユウキ)を生徒会に引っ張り込んだことをまるで覚えてないというのである。


 生徒会に留まる理由はなかった。


 やっと気楽な一生徒に戻れて、ほっとする。いや、ヒーローの宿命を背負っている以上、気楽な一生徒と言うわけにはいかないが、魔物(モンスター)戦闘(バトル)以外であれこれのトラブルを背負い込まされるのは、もう御免蒙りたいのである。


 例の、包帯男の正体が勇希(ユウキ)であるとの証拠動画は、妙な動画が自分のスマホに保存されていたけど、間違って保存したものだろうから、消しました、と凛子(りんこ)から伝えられた。


 勇希(ユウキ)は、こころおきなく生徒会を辞めることができた。勇希(ユウキ)の生徒会在籍も、わずかの間のことであった。推薦メンバーを誰にしようか、一文字(いちもんじ)君もよかったんだけど。そんな話で、生徒会室は盛り上がっていた。



 凛子(りんこ)は、美の鏡に取り憑かれていた間の記憶をほとんど失っていた。しかし、家宝具に封じられていた物怪(モノノケ)に逆に支配され、暗闇に囚われ苦闘しもがいていた時、燦然たる虹色の霊光を放つ退魔の勾玉を手に自分を助けてくれた剣華優希(けんばな ゆき)、そして青白い光の刃の魔剣を振るって物怪(モノノケ)を斃した一文字勇希(いちもんじ ユウキ)、二人の姿は、はっきりと目に焼き付いていた。


 

 凛子(りんこ)は、学園で勇希(ユウキ)と出会うとき、誰にも見せない最高の微笑みで会釈をするのであった。勇希(ユウキ)は妙にドギマギした。



 そしてーー


 またまた、学園を、驚天動地の噂が駆け巡る。


 将来の生徒会長に、凛子(りんこ)が、剣華優希(けんばな ゆき)を推している、と、いうのである。


 これは衝撃であった。生徒会選挙には、門閥がらみの生徒が立候補することが多い。門閥均衡の観点から、鷹十条(たかじゅうじょう)家の当主である凛子(りんこ)のような立場の生徒は、他の生徒を応援しないのが基本だった。


 「剣華(けんばな)さん、凄いね。凛子(りんこ)様に推されるなんて」


 「今から鷹十条(たかじゅうじょう)の後ろ楯かあ。生徒会選挙、断然リードだね」


 「でも、どうしてだろう?」


 「そりゃ、優秀だから、気に入られたんじゃない?」


 「門閥同士の、古い盟約って言う話もあるね」


 またまた、噂が噂を呼ぶ。


 剣華優希(けんばな ゆき)の生徒会長への道、また1歩順調に上るのである。



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