第230話 作戦はシンプルに
「お前ら、いったい何をしてたのだ!」
鷹十条凛子は怒り狂っていた。
『奔竜の間』。
隼華琶と鵯椰蔴は、正座して、仁王立ちの凛子を見上げていた。
凛子、柳眉を逆立てている。
全然呼びに来ないので、さすがにしびれを切らせた凛子は、一人で『奔竜の間』に様子を見にきたのである。そして、2つの鏡台の姿に戻った仲間2人を見つけたのだった。
凛子は、慌てて封印解除の秘法を発動。やっと、隼と鵯は人間の姿に戻ったのである。
「凛子様、大変申し訳ありません。あの……いろいろと……手違いがありまして。鵯のやつが大ポカをしまして」
隼はしどろもどろ。
「鏡台に戻ったのは想定外っス」
鵯は、涼しい顔をしている。最初からこの作戦、乗り気じゃなかった。決行前に失敗してむしろよかったんじゃないか。そう思える。
「で、なんで元の家宝具の姿に戻ってたんだ?」
凛子の追求に、隼は、慎重に言葉を選ぶ。
「あの、その、鵯の奴が間違って、ここに剣華を案内しちゃったんです。それで、間違いに気づいた俺たちが、剣華にここから出てもらおうとしたら、突然妙な光がここに満ちて」
「光?」
「はい。なんだか虹色の光でした。おそらく、俺たちの秘法を破る霊光。剣華が、何かしたんじゃないかと思われます」
「剣華が?」
凛子、腕組みして、眉根を寄せる。
勇希以外の生徒会メンバーについては、完全にノーマークだった。みんな名門のお嬢ちゃんお坊ちゃん。それだけのはずだった。
「剣華に特殊な秘法秘術を操る力が? これまで感じた事はないぞ。本当なのか? 勇希の奴も、この部屋にいたんだろう? 奴の力が発動したんじゃないのか?」
「……かも、しれません」
隼としても、何が起きたのか、さっぱりわからなかった。襖を開けた途端、虹色の光に圧倒され包まれ、気づいたときには、元の鏡台に戻っていたのである。剣華家伝来の退魔の勾玉の霊光。その正体を確かめることはできなかったのである。
凛子はイライラしている。
「どうするのだ。勇希は着替えて出て行ったんだな? 着替え見られた捕えろ作戦は、もうできぬのではないか。今日、勇希を捕らえて幽世へ送ると、我が主に報せてしまったのだぞ」
「作戦失敗。またがんばりまーす! て、報告すればいいっス」
と、鵯。
「バカ者! そんなことできるか! 何とかならぬか。とにかく勇希を家宝具の間の呪法結界陣に連れ込めれば、それでいいんだ。何か考えろ!」
隼、うなだれている。せっかく考えた完璧無比の大作戦が失敗に終わったことに、かなりショックを受けているようだ
あーあ、この2人、まだやる気なんだ。鵯は呆れる。そろそろ悪あがきもやめたほうがいいんじゃないっスか? こっちも、こんな茶番にずっと付き合わされるの、もううんざり。そろそろきっちりカタをつけてしまおう。うまくいくかどうかわからないけどーー
「これはもう、当たって砕けろっス!」
鵯は、投げ遣りな声を上げる。
「たいしたことないっス。凛子様が、奴に、ちょっとお話があります。うちの大事な家宝を見てもらいたいので、お越しくださいって言って、そのまま呪法結界陣に放り込んじゃえば、それでいいっス」
隼がうろんな眼で。
「そんな単純な手に引っかかるかな。奴が警戒して、気づいたらどうする?」
「なーに。奴の事は、生徒会でいつも見てるっスよね? そんなに頭が働くやつには見えないっス。腕ずくででなんとかしようとしても駄目っスけど、騙して連れ込むなら、簡単っスよ。シンプルイズベスト。この作戦で充分っス。やたらと複雑な作戦考えると、また失敗するっス」
「うむ」
怒りと焦りで引き攣っていた凛子の顔が、晴れる。
「そうか。もうそれしかないか。やってみよう。これで最後だ。隼よ。鵯よ。我ら3人、この戦いに賭けるぞ」
「は。わかりました」
隼、顔を引き締める。
「へーいっス」
鵯はいつも調子。もうどうなってもいいや。うまく行っても行かなくても。人間の姿をしてるのも、そろそろ飽きてきたし。
家宝具に戻って埃かぶって惰眠を貪るのも、悪くない。




