第227話 ヒーロー捕獲作戦
『奔竜の間』に勇希を案内した隼華琶。いよいよ刻だ。最後の大詰め。総仕上げをするため、廊下に出ると、鵯椰蔴にぶつかる。
「鵯、お前ここで何をしている?」
「何って、剣華さんの案内をしたっス」
鵯は胸を張る。
「今、剣華さんは、そこで、着替え中っス」
得意然として、鵯は、隼が出てきた『奔竜の間』を指差す。
「え?」
隼は青ざめる。
「おい、鵯、お前、剣華をどこに案内した?」
「だから、そこっスよ」
改めて、『奔竜の間』を指差す鵯。
「えーと、剣華さんは『奔竜の間』に案内する。それでよかったっスよね」
「バカ!」
隼は髪を掻きむしる。
「貴様、何やってるんだ! 剣華さんを案内するのは『麝香の間』だ。この『奔竜の間』は勇希が入る作戦決行の場所だぞ!」
「え!」
鵯、うろたえる。
「ええ……剣華さんを案内するのは『麝香の間』? あっそうか。何せ、似たような部屋がいっぱいあるから、つい間違えちゃったっス」
「剣華が『奔竜の間』に……おい、計画は、メチャクチャだぞ」
「ありゃりゃ。こりゃ……作戦失敗っスね。今日はじゃあ、のんびりお茶して、お開きとしましょうっス。また、もっといい作戦考えるっス」
「ふざけるな。貴様のせいだぞ。今更作戦中止とか、冗談じゃない」
隼は険しい顔。
「ここまで準備したんだ。まだ、なんとかしてやるぞ。必ずやり遂げるんだ。大いなる計画に、齟齬はつきものだ。これしき、なんとでもなる。わかったな」
鵯は、やれやれとため息をつく。ありえないミスをしてしまった。でも、自分のミスがなくても、どうもこの作戦。最初からおかしかったっス。
◇
物怪3人衆の大作戦。
隼が考え提案し凛子が採用し実行することとなった、一文字勇希捕獲作戦である。
それは、
「キャー、何見てるの!この不届き者め! そこに直れ! とりあえず座敷牢へ来い!」
という作戦であった。
まず、中央を布で仕切った部屋を用意する。一方の入り口から、勇希を入れて、ここで着替えてくださいと言う。
そして、もう一方の入り口から、鷹十条凛子が入り、着替えを始める。服を脱いだところで、中央の布を落とす。凛子が隣の勇希を見つけ、誰!? こっちを見ている! 着替え見られた! と叫ぶ。そこへ隼と鵯の2人が駆けつけ、勇希をこの不届き者め! と取り押さえる。勇希は自分が覗いたわけではない、ただ案内された場所で着替えていたら仕切りの布が落ちただけ、自分は何もしていないと抗弁するだろうが、当主が覗かれた見られたと言っている以上、捨ておくわけにはいかない。現に勇希は凛子の下着姿を見たわけだ。何はともあれ座敷牢へ来い、といって、有無を言わさず家宝具の間に引っ張っていき、追って取り調べるからここで待っていろといって呪法結界陣に放り込む。そうすれば、後は封印結界が発動し、勇希をそのまま幽世に転送できる……
「さすが隼、これは、完璧な計画だ」
計画段階で、凛子は大満足であった。
隼は得意満面。
「そうでしょう。これぞまさに完全無欠。一分の隙もありません。勇希の奴め、わけのわからないまま取り押さえられ、そのまま幽世へバイバイ、向こうの我が主様はご満悦間違いなし、でございます」
「うむ、我らの苦労、やっと報われるのだ」
泣かんばかりになっている凛子。
鵯は頭がクラクラした。
ダメだ、こりゃ。この2人。家宝具の間で埃を被りすぎたせいか、完全におかしくなっている。あまりにもバカバカしい。
「あのー」
すっかりやる気になっている2人に向かって鵯は一応言ってみる。
「勇希をとっ捕まえるのに、なんでそんなことするっスか? 濡れ衣で身柄を抑えようとしたら、その途端、奴も危機を感じて、力を発揮しちゃうんじゃーー」
「鵯よ。わかってないな、お前は」
隼が、鼻を鳴らす。
「まだ気づいてないのか? 勇希が秘密の力を発揮するのは、異界幽世の力に触れたときだけだ。奴の力は普段は隠れている。好きなように揮える力ではない。つまり、この人間世界の法で問題なく取り押さえれば、それでよいのだ」
「問題なく? この覗き魔め! って濡れ衣着せて取り押さえて座敷牢? どう考えても不自然っス」
「何を言う。鵯、お前は本当に思案が足らん。濡れ衣でっち上げで取り押さえる。これは古来から行われてきた作法だ。勇希に考える時間を与えず、わけのわからないまま幽世送りにすることが肝要だ。目の前で、凛子様に悲鳴を上げられたら、勇希は何もできんだろう。あれよあれよという間に、向こうの世界。そういうことだ」
鵯は頭痛が痛くなりすぎるが、自信満々の凛子と隼を止める事は、もう無理だ。
やるしかないのだろう。
◇
いよいよ決行の刻ーー
鵯は剣華を予定の『麝香の間』でなく、よりによって勇希捕獲決行の場である『奔竜の間』に入れてしまったのである。
『奔竜の間』では、中央で部屋を仕切る布を挟んで勇希と剣華の二人。




