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第218話 使い魔の主は



 なんだ?


 何だったんだ?


 勇希(ユウキ)は拍子抜け抜けした。


 呆気なかったな。


 生徒会室の床。天破活剣(てんはかつけん)に貫かれ切り裂かれた使い魔の鷹の残骸が、散らばっている。羽毛が舞い散り、べっとりとした血溜まりが広がっている。


 おかしいな。勇希(ユウキ)は気づく。これまでの魔物(モンスター)は、倒すと血煙となってぐしゅぐしゅと崩れて消えてしまってたんだけど。バラバラになった鷹の死骸。消えない。


 これは秘法で命を吹き込まれた使い魔で、本物の魔物(モンスター)じゃないからなのか? 勇希(ユウキ)にはわからない。そうだ、世告げ(よつげ)の鏡に訊いてみよう。少しポンコツな便利アイテム。教えてくれるかどうかわからないけど。


 あれ?


 胸にあった鏡、消えている。握っていたはずの魔剣もない。戦闘服長ランも、普通の学ランに戻っている。


 戦闘(バトル)終了で、戦闘(バトル)モード解除ってことか。じゃぁ、もう危険はないんだな。しかしーー


 勇希(ユウキ)は気になっていた。世告げ(よつげ)の鏡の言っていたこと。使い魔を操っている本体の魔物(モンスター)がいる。その筈だけど。


 そいつはどこにいるんだろう。こんな使い魔しか操れないんじゃ、たいしたやつじゃなさそうだ。でも、身近に敵が潜んでいるというのは、落ち着かない。オレのことを見張っているのか?目の前の鷹の死骸もどうすればいいかわからない。


 妙な胸騒ぎがした。


 誰かに見られている?


 ここにいちゃいけない。そう感じた。鷹十条(たかじゅうじょう)凛子(りんこ)に呼び出されて生徒会室に来たんだけど、今、生徒会の用事とか言ってる場合じゃない。ひとまず、


 出よう。


 勇希(ユウキ)はスポーツバッグを肩にかけると、そそくさと、生徒会室を後にした。



 ◇



 がらんとなった生徒会室。


 そおっと。隣の資材室の扉が開く。


 様子を伺ってから出てきたのは、鷹十条(たかじゅうじょう)凛子(りんこ)隼華琶(はやぶさ かわ)鵯椰蔴(ひやどり やま)物怪(モノノケ)3人。 


 隣の部屋に隠れて使い魔の鷹に勇希(ユウキ)を襲わせ、扉を少し開けて、息を殺して様子を見ていたのである。


 3人とも、鷹の死骸を取り囲んで見下ろし、黙り込む。


 勇希(ユウキ)が呆気なく、圧倒的な力で使い魔を倒すのを、3人はしっかりとその目で見た。


 やや、青ざめた面持ちの3人。


 しばらくの間、目をぱちくりさせながらお互いの顔を見あっていたが、遂に凛子(りんこ)が口を開く。


 「一文字勇希(いちもんじ ユウキ)。なかなか、侮れんな」


 「ええ」


 額に冷や汗を浮かべる(はやぶさ)


 「ただ者ではない。見ました。感じました。いきなり、恐ろしい力を爆発させ、噴き上げやがった。一瞬で……武器防具も、どこから出したのか、あっという間に身に付けて……奴こそ強力な秘法使い戦士……ですな」


 「うむ」


 凛子(りんこ)の蒼ざめた美貌、凄みを増している。


 「今回、使い魔で奴を試したのは正解だった。奴の力量を知らぬまま我らが襲いかかってたら、我らがこうなるところだったのだ」


 物怪(モノノケ)3人、改めてバラバラとなった鷹の死骸を見下ろす。


 (ひよどり)が、ツインテールの髪をいじりながら、わざと明るい声で、


 「でも、やっぱり意外とヌケサクな奴なんじゃないっスか? 俺たちが隣の部屋に隠れて様子見ながら使い魔操ってたのに、全然気がつかなかったし」


 「俺たちは、気配を封じる術は、心得ているからな」


 (はやぶさ)が言う。


 気配を封じる術。長年、ずっと家宝具として埃をかぶっていて、魔物(モンスター)の実体を完全に失って、気配を無くしただけ……なのだった。それでどうやってあの強大な(パワー)の持ち主、歴戦の戦士一文字勇希(いちもんじ ゆうき)を捕えるのか?

 

 3人の頭に共通する疑問。不吉な未来しか見えない。(ひよどり)は、やっぱり最初から無理だったっスねモードに。


 とはいえ。


 凛子(りんこ)が、きっぱりと言う。


 「このことは、幽世(かくりょ)(あるじ)に報じねばならん。追ってまた指示があるだろう。何、心配はいらん。我らが(あるじ)にはきっと奴を捕える叡慮大智があるに違いない。恐れる事は無いぞ。おい、(はやぶさ)(ひよどり)、ここをこのままにしとくのはいかん。片付けるのだ」


 「片付け? この使い魔の死骸を? どうするっスか?」


 「それは、掃除するのだ。箒とかモップとか、ゴミ袋とか持ってくるんだ。とにかく、痕跡を残すな。目立たぬように、生ゴミとして始末しろ」


 「へーい」


 (はやぶさ)(ひよどり)、気のない返事をし、もぞもぞと作業に取り掛かる。



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