第217話 生徒会室の戦い
「一文字君、今日の放課後3時に、生徒会室に来てください。凛子様がお待ちしています」
昼休み。一文字勇希は、考える。なんだろう。今日は生徒会に何もなかったはずだけど。
勇希に伝えたのは、同じクラスの隼華琶。同じ生徒会メンバー。ニヤニヤしている。
おや?
勇希は気づく。また、隼の瞳に金色の翳が走ったようなーー
「じゃぁ、よろしく。伝えましたからね」
隼、制服のスカートを翻し去っていく。
勇希はぼんやりと見送る。金色の瞳。なんだかよく見るな。最近、時々金色に光るカラーコンタクトでも、女子に流行ってるのかな。オレはすっかり女子の流行とか乗り遅れてるからな。
「勇希、忙しいのね。生徒会の調子はどう?」
隣の美少女蘭鳳院麗奈が、声をかけてきた。
クールでいつもお澄まし顔の麗奈も、勇希の生徒会入りにはさすがに驚いていた。多少は気になるみたいだ。
もっとも。
「なんでお前が生徒会に?」
と誰もと同じ目で見られるのは仕方がない。
勇希は、毎度のことながら、適当にごまかす。
「オレは単なる裏方雑用要員だからね。なんだかんだ呼び出されて仕事があるんだよ。オレってそんなに学園でヒマしてるように見られちゃってるのかなあ。ハハハ」
「ふうん」
麗奈、解せない顔。
わけがわからんことになって、ちゃんと説明してほしいのはオレの方だよ。もう何百回も思ってることを思う。麗奈はどう思ってるんだろう。まさか、オレが鷹十条家に繋がる裏の超名門の出とか、そんな話を信じてるんじゃないだろうな。あるいは、物怪が凛子様に取り憑いてるだとか……いやいや、頭の良い麗奈が、そんな与太話、信じるはずない!
「ねえねえ、勇希、今日も生徒会出勤? 一体何してるの?」
にじり寄ってくるのは満月妃奈子。
当然のことながら、満月は映え女子インフルエンサー気質を全力全開炸裂させて、食いついてくる。
「さっすが凛子様よね。私の勇希を生徒会になんて、お目が高い。どうなっちゃうのか、すっごく楽しみ!」
瞳をキラキラ、いや、ギラギラとさせる。
いやはや。毎度。勇希は内心ため息。満月はオレに恋愛感情があるわけではない。オレが美味しそうな獲物だから、何かと絡んでしゃぶろうとしてくるんだ。インフルエンサー気質。面白いことがあればあったほうがよい。もっと面白くなれば良い。妙な期待の目でオレを見てやがる。
美少女ども、いつもオレを悩ませる。物怪ってのは、美少女のことなのかもしれない。それならとっくにオレが取り憑かれている。
◇
放課後、いつもは校庭での自主トレだけど、生徒会室へ向かう。最近は、1人で走ってる時が、一番落ち着くな。オレの安らぎ。生徒会メンバーになってから、剣華が積極的にオレに勉強を教えてくれるようになった。生徒会メンバーなら勉強だけできなきゃだめ! ということらしい。もう、なんだか。
午後3時前。勇希は、生徒会室に入る。
誰もいない。凛子様は、これから来るのかな。勇希は、通学用スポーツバッグを、椅子の上に置く。
ここ、どうも落ち着かないな。生徒会なんて完全に別世界だと思ってたのに。いきなり入れとか。
おや。
壁の棚の上に。
鷹の剥製だ。
ずいぶん立派なものだな。勇希は、近づいて、仔細に眺める。
こんなの昨日までなかったような。誰かが持ってきて飾ったのかな。ここは超名門校。金持ちの嬢ちゃん坊ちゃんが多いんだ。立派な剥製を学園に寄付する生徒がいたっておかしくない。
眺めてる勇希。少し妙な気がしてきた。なんだ。これは。剥製、だよね。でも妙に生々しい。羽根も艶々している。何か特別な塗料でも使ってるのか? よくできた剥製? 死んでいるように見えない。
と。
鷹の目が。
金色に光った。
え?
勇希は後ずさりする。
目玉が電球か何かなの? でも今の光ってそんなのじゃーー
バサッ、
剥製の鷹の翼を羽ばたかせる。
なんだ!
危険を察知した勇希、後ろに飛びのく。
数々の戦闘をくぐり抜けている。突然の襲撃も慣れている。
金色の瞳の鷹は大きく翼を羽ばたかせると宙に舞い、鋭い嘴と爪を突き立て、勇希に狙いを定める。
魔物か。
勇希は身構える。その時、胸に虹色に光る鏡が現れた。世告げの鏡。
オレのお助けアイテム登場だ。
ーー これは使い魔。魔物が剥製を甦らせ操っている ーー
勇希の頭に世告げの鏡の案内の声が響く。
久しぶりの案内だな。でも、この状況。いつもと何かが違う。
「ここは幽世なのか?」
生徒会室のままだ。時空転移したようには、どうしても見えない。
世告げの鏡、勇希の疑問に答える。
ーー ここは幽世ではない。現世の者が使い魔の秘法を使っている。時空由来の力。この力に触れた時、宿命の力が目覚める ーー
今日は妙に親切な案内だな。勇希は感心する。いつもこうしてくれればいいのに。要するに、幽世に時空転移しなくても、宿命のヒーローパワー全力全開できるってことか。
気がつくと、右手に木刀を握っている。魔剣天破活剣だ。そして、翻しているのはもちろん長ラン。戦闘服バッチリ。
よし。今日は現世で戦うんだな。面白い。そうだ。ついでに聞いてみよう。
「世告げの鏡、この鷹は、使い魔で誰かが操ってるって言ったよな。その本体はどこにいるんだ?」
ーー わからない。探知できない ーー
世告げの鏡、あっさりと答える。
なんだ。オレのお助けアイテム。やっぱりポンコツなんだ。性能に問題がある。
でもーー
勇希を宙から狙う鷹を前に、勇希は不敵な笑みを浮かべる。
「使い魔だそうだな。お前の主によくヒーローパワーの何たるかを見せてやる。この狭い室内じゃ、飛べる力があっても、役にはたたんぞ。いくぞ、天破活剣!」
木刀から青白い光の炎が噴き上がる。グエッ、と叫ぶ鷹を一撃で貫き、切り裂いた。ネビュラと凛子が苦労して魔霊降臨の息吹きで甦らせた剥製の鷹だったが、勇希を襲う間もなく逃げる間もなく、また元の屍に戻ったのである。
血飛沫血煙が宙を満たす。
鷹の眼から、金色の光が消えた。




