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第215話 銀の迷宮《シルバーラビリンス》




 異世界幽世(かくりょ)


 広大な世界である。


 幽世(かくりょ)に棲まい蠢く数多の魔族や魔物(モンスター)にとっても、大きすぎる世界。未踏の地は、あまりにも多い。


 人影疎な広漠たる大地が連なり、立ち入ることを嶮しく拒む死と腐臭の匂い漂う禁地もそこかしこに点在する。


 幽世(かくりょ)にも国があった。現世(うつしよ)の人間世界同様、幽世(かくりょ)の魔族や魔物(モンスター)は種族同士で、あるいは種族間を超えて、様々なグループを作り、それぞれの領域、勢力圏を築いていた。人間世界の国と呼ばれるものと同じである。幽世(かくりょ)の国同士の、戦争と和平共存の歴史も、太古から悠久の時の間、連綿と続いていた。多くの種族や国が興亡を繰り返してきたのである。



 現在の幽世(かくりょ)で、ひときわ大きな国。その(あるじ)の居城。



 銀の迷宮(シルバーラビリンス)


 

 白銀に輝き聳え立つ城。ウェディングケーキのような段々式の高層塔の城である。闇夜でも遠くからその輝きを認めることができた。地上部だけでなく、地下にも巨大な迷宮城が深く掘られ根を張っていた。迷宮(ラビリンス)の名にふさわしく、その無数の通路と部屋が入り込む構造の全貌を知る者は、城に君臨する(あるじ)の他、誰もいなかった。



 銀の迷宮(シルバーラビリンス)の玉座。白銀水晶でできた、巨大な玉座である。


 玉座にどっしりと座るのは、この国、広大な支配権を統べる(あるじ)、王である。


 銀の御嗣(シルバープリンス)


 ネビュラ。



 ◇



 ネビュラは、頬杖をつき、考え込んでいた。


 今し方、現世(うつしよ)から報せがあった。



 「一文字勇希(いちもんじ ユウキ)、手強い敵。侮りは危険。さりながら必ず使命を全うす所存。我ら全力を尽くすこと、決して(たが)えず」



 「手強い敵…か」


 ネビュラは、思い出す。


 一文字勇希(いちもんじ ユウキ)。そう名乗った。現世(うつしよ)の人間。時空の重なり、裂け目、穴から幽世(かくりょ)に来た侵入者。


 ヒーローとか名乗ってたな。時空のぶつかりと亀裂から生じる力を操る人間。奴らは、自分たちのことを、様々に呼んでいた。


 一文字勇希(いちもんじ ユウキ)。奴と出会った時。一瞥して大した相手ではないと思った。それより小さな太陽(ホーリーサン)ーー蘭鳳院麗紗(らんほういん りさ)と名乗っていたーーの輝きに目が奪われていた。


 しかし。一文字勇希(いちもんじ ユウキ)は突如、恐ろしい力を爆発させた。奴は圧倒的な力を自由自在に繰り出し操る戦士だった。


 莫大な魔力精気(エネルギー)を誇るネビュラでも驚愕し、一瞬対応が遅れ手負うこととなった。その傷。まだ完全には癒えてはいない。


 ありえない不覚。こんな手負いをしたのは遥か遠い過去まで遡らねば、記憶にない。ネビュラは、逃げた。逃げざるを得なかった。形勢不利ならば逃げるのは魔族として恥ではない。


 だがーー


 ネビュラの青い瞳が、怒りの冷たい光を放つ。輝く銀髪が、サラサラと揺れる。


 「我が身を傷つけた者。これまで全て殺してきたのだ。銀の御嗣(シルバープリンス)の怒り、必ず奴に思い知らせてくれる」


 一文字勇希(いちもんじ ユウキ)に対する復讐。勇希(ユウキ)を捕らえたときのことを考え、ネビュラは冷たく残忍な笑みを浮かべる。


 「待っていろよ。愚かな身の程知らずの人間よ。お前の足跡にはしっかり我が糸がついているからな」


 ネビュラは勇希(ユウキ)の攻撃を受け、傷つき、逃げる時、銀の鱗粉(シルバーフーム)を飛ばし、勇希(ユウキ)の体に付けたのである。


 銀の鱗粉(シルバーフーム)。目には見えない、普通の能力では決して感知できない鱗粉だが、どこまでも(あるじ)であるネビュラに細い微かな糸を伸ばし、繋ぐことができた。


 戦いの後、勇希(ユウキ)現世(うつしよ)に帰った。だが、銀の鱗粉(シルバーフーム)の糸は、ずっと現世(うつしよ)まで伸びて、繋がっている。幽世(かくりょ)現世(うつしよ)の交わる裂け目、揺らぐ時空の細い隙間を、どこまでも潜って伸びているのである。


 「フフ。一文字勇希(いちもんじ ユウキ)、貴様はわが手の内にあるのだ。決して逃げることはできぬ」



 銀の鱗粉(シルバーフーム)の糸を通じ、微かで僅かだが、現世(うつしよ)のことが伝わり知れてきた。ネビュラは丹念に勇希(ユウキ)の周辺に目を光らせた。


 すると、勇希(ユウキ)の近くに 、魔物(モンスター)幽世(かくりょ)の眷属の姿を認めた。勇希(ユウキ)と同じ学園の鷹十条(たかじゅうじょう)凛子(りんこ)幽世(かくりょ)魔物(モンスター)を封じ込め、代々家宝具として継承する家の当主だったのである。


 ネビュラは周到な慎重さで、銀の鱗粉(シルバーフーム)の糸をさらに伸ばした。目に見えない、感知できない、微かな細い魔力の糸をどこまでも広げて伸ばしていったのである。そして遂に、鷹十条(たかじゅうじょう)家の家宝具の間に届かせることに成功した。


 時空の境界を越えて魔力を操るのは、並大抵のことではない。一文字勇希(いちもんじ ユウキ)に復仇する。すべてはその一念であった。


 ネビュラは、家宝具に封印されていた魔物(モンスター)精気(エナジー)に語りかけ、封印を破る方法を教えた。美の鏡。本来の名も姿も記憶をもとっくに失っていた魔物(モンスター)精気(エナジー)だが、忠実に、ネビュラの指示に従った。うまく鷹十条(たかじゅうじょう)家の当主に取り憑き、乗っ取り支配することができたのである。さらに、家宝具の中から、手下を2人見つけることもできた。


 「うまくいっている。いや、いき過ぎているくらいだ。時空を超えて現世(うつしよ)に手を伸ばすことに成功したのは、太古の昔より、この我だけだ」


 ネビュラの瞳が、妖しく輝く。


 「やつを捉えて、こちらに連れてくる。時空の裂け目を作り、奴を引き込まねばならぬ。それにはまだ少し時間がかかる。だが、その前に、奴の力を、銀の鱗粉(シルバーフーム)の糸を通して現世(うつしよ)に伸びる我が力を、もっと試してやろう」


 ほくそ笑む銀の御嗣(シルバープリンス)。美の鏡が取り憑き読み込んだ鷹十条(たかじゅうじょう)当主の記憶から、面白い秘法を見つけたのだ。


 「一文字勇希(いちもんじ ユウキ)、必ずお前を囚える。そして小さな太陽(ホーリーサン)、きっと手に入れる」


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