第200話 異世界戦争の果てに
剣華、麗奈、満月の3人の女子。
やっと、電気のあるところ、武道場へ。
ほっとする3人。
剣華、紫頭巾の装束を脱いで顔を赤らめる。
「 優希、何してたの?」
満月、目を丸くする。
「えへへ。ちょっと頑張りすぎちゃった。助けてくれてありがとう」
剣華、頬を上気させ、にっこりして、2人の親友に礼を言う。
そして説明する。なんだか気になったので茶室の様子を見に行ったこと、そしたら包帯男と出くわしたこと、武道場から木刀と紫頭巾装束を持ち出して包帯男と戦ったこと。木刀を奪られて危なかったところ、2人に助けてもらったこと。
麗奈と満月、唖然とする。
「そんなことしちゃダメ! もう、 優希。普段は優等生なのに、いざとなるとほんとに無鉄砲なんだから。こんな危ないこと、二度としないでね」
満月がいう。
「いつも助けが来るとは、限らないんだからね」
と、麗奈。
「うん。心配してくれてありがとう。2人には感謝している。これからは、気をつけるよ」
剣華優希、正義の炎に身を焦がし猪突猛進したクラス委員長。包帯男は取り逃がしたけど、思いっきり怒りを爆発させたことに不思議と悔いはなかった。
満月、ニヤリとして、剣華の肩を抱く。これは反省してないな、と思う。 優希は、必ず自分の信じる道をーー
「でも、 優希、友達の事、学園のみんなの事、本当に守りたかったんだよね。そういうところ、好き。これからは1人で無茶しないで絶対私たちにも声かけてね」
剣華、ますます顔を赤くして、
「ありがとう、頼りにしてるよ」
麗奈も、優しく微笑んで剣華を見つめていた。なぜあの暗い中で、紫頭巾装束が、 優希だと気づいたのか。それはわからない。本当にそう感じた。絶対に 優希だと。何が何でも、助けなくちゃと。ただ、それだけだった。親友同士。強い絆。そういうものだろうか。
「そうだ。緊急メールしなきゃ。学園に伝えるからね」
麗奈は、スマホを取り出す。
「そういえば 優希、天魔って叫んでなかった? 天魔って、なんなの?」
剣華、気恥ずかしそうに、
「あ、聞こえてたんだ。うーんとね。女子の敵って言う意味で、天魔って叫んじゃった。ほら、この前の鎌倉の実習で、仏教について習ったから」
麗奈は考える。
天魔。その正体は、何者なんだろう。
◇
朝。ホームルーム前。ガヤガヤする教室の中。一文字勇希は、グターとなって机に突っ伏していた。
昨日のこと。激しい戦闘の応酬。
ティオレの治癒は、完璧だ。体はピンピンしている。けど、さすがに、頭はぼーっとしている。レベルアップ、ステータスアップ、そんな言葉が、谺する。うん。オレはよくやったぞ。
でもーー
「勇希、ちょっと」
あ。
隣の美少女。蘭鳳院麗奈。
「なに?」
「なにじゃなくて!」
麗奈は、語気を強める。
「ペアワーク! 課題、ちゃんとやってきたの!」
あ、なんかこの前言ってたな。オレはもちろん、とっくに忘れてて。
「……また、それ? なんだっけ」
「やってないの?」
麗奈、微かに震えている。
「……うーんと。その……」
麗奈の剣幕に、オレはしどろもどろ。
「なに?」
オレを見つめる麗奈の瞳。本当に吸い込まれそうな。あぁ、なんでこんな美少女が日々オレに意地悪するんだろう。
もう。
オレはヒーローだ。少しは言ってやろう。
「あのさぁ、オレだって少しはやってるんだぜ」
「課題やったってこと?」
麗奈、オレを問い詰める。
「そうじゃなくて……その、いろいろ戦ってるんだ」
もういいや。言ってやろう。信じようが信じまいが。
「戦ってる?」
麗奈、怪訝な顔をする。
オレは構わず、
「うん。昨日の事なんだけどさ。オレは魔界の戦争に遭遇したんだ。まず、木の眷属と、風の眷属が戦っていて、そこでオレは木の眷属に味方して、風の眷属と戦って勝ったんだけど、負傷して包帯ぐるぐる巻きの膏薬ペタペタにされた。それで終わったと思ったんだけど、今度は、天魔族と紫頭巾族の戦いに巻き込まれたんだ。で、オレは紫頭巾と戦う羽目になったんだけど、こいつがなかなかの強敵で。でもオレはやつの木刀を見事奪ってやった。そこで敵に加勢が来たから、退却したけどな。こんなふうに、オレは、日々戦ってるんだ。麗奈、お前にはわからないだろうし、信じてくれなくてもかまわないけどな」
「え?」
麗奈は、オレを、じーっと見つめる。
なんだ。冴え冴えとした美少女に見つめられて。
「それ、本当の話なの?」
「本当さ」
「そうなんだ」
麗奈は、やがて、微笑む。
「ふうん。勇希も頑張ってるのね。ねえ、私も、魔界の戦争に遭遇したのよ」
「……まさか」
何を言ってるんだ。オレは麗奈をまじまじと見つめる。
「うふ。本当よ。天魔族と紫頭巾族が戦っていたの。それで、紫頭巾が負けそうになっていたから、私が天魔族を追っ払ったの」
「……どうやって?」
「うん。コラッ、て叫んだの。そうしたら、天魔は逃げていった」
「……適当なこと言うなよ。バカバカしい」
「うふふ。本当よ」
「そう……じゃぁ、その天魔は、弱虫なんだ」
「そうだね。きっと、その天魔、いつも女子に怒られてるから、女子に弱いんだね」
「女子に弱い天魔か。オレとは違うな」
麗奈は、本当に素敵な笑顔を浮かべた。そして、白い指を伸ばし、オレの頬を、すっと撫ぜる。
「あ、なにするんだよ」
オレは赤くなる。もう。いつもいつもおちょくりやがって。
麗奈、ホームルームが始まっても、ずっと笑っていた。
◇
防犯カメラに、包帯男が全力で逃げるところが、しっかり映っていた。学校の塀を、飛び越えるところも。とても人間業とは思えない身のこなし。防犯カメラをチェックした警察も、警備会社も、皆、びっくりしていた。
犯人は、外部の者と言うことで確定した。
学園の理事会は、対策を発表した。防犯センサー防犯カメラを、死角のないように配置する。警備を強化する。電灯の無かった奥のスペースにも、常夜灯をつけることとなった。特別な茶事などのときには、しっかり警備をした上で、電灯を消し、昔ながらの情緒風情を楽しむこととなった。
学園内に防犯カメラが増えることについては、全校集会で、生徒会長の雪原が、生徒のプライバシーを脅かすものではなく。学園の平和、生徒の安全を守るためのものであると、確保たる口調で説明した。皆、納得し、賛同した。
茶道部員一同、剣華の友人の女子生徒も、また安心して、茶道部の活動に励むことができるようになった。
侵入した不審者に遭遇した生徒会役員剣華優希が、果敢に立ち向かい、追い払った。その事は公式にはアナウンスされなかったが、やがて学園内に広まった。
剣華優希の信望は、ますます高まった。まだ入学して1ヶ月ちょっとの一年生であったが、早くも、将来の生徒会長と目されるようになった。
もっとも、伝統ある名門エリート校である。
名誉ある生徒会長の座。虎視眈々と狙う生徒は、大勢いた。
剣華優希の生徒会長への道も、まだまだ平坦安泰とは言えないのである。
◇
剣華優希、蘭鳳院麗奈、満月妃奈子の3人の親友の絆。ますます強まった。
正義と勇気、信頼の結びつきは、変わることなく続いていくのである。
( 第15章 学園の天魔 了 )




