第20話 日本語で自己紹介しようの決斗
英語の授業。
隣の席の子と、英語で自己紹介するペアワーク。日本語ですることになった。
「じゃぁ、日本語で、ペアワーク始めようか。私からでいい?」
蘭鳳院が言った。お澄まし顔で、オレを見つめる。
すごい美少女。見つめられると、ゾワッとしないわけにいかないけど……オレは、もう動揺しないぞ。
ヒーローの宿命を背負っているからな。
おちょくりかまってちゃん女子なんて、相手にしない。
「どうぞ」
オレは、余裕を見せて言う。
そういえば、まだ、蘭鳳院とは、ちゃんと自己紹介してもらってなかったな。別に、してもらわなくてもよかったんだけど。
蘭鳳院は、一つうなずいた。
「始めるね。私の名前は蘭鳳院麗奈。高校1年生。新体操に所属しています。今の目標は新体操でインターハイに行くこと。
将来は、経営工学を勉強して、世界に通用する経営者になりたいと、思っています。
こんなところかな。いい?」
新体操部?
なるほど、蘭鳳院は、新体操をやってたのか。
いつもの優雅な物腰。あれは、新体操のトレーニングから来てたんだな。
新体操で、インターハイを目指すのか。ふうむ、アスリートだったんだな。それは、よい。ぜひ、頑張ってほしい。
で、なんだっけ……その後の蘭鳳院の目標。
ケイエイコウガク? なんだ。そりゃ。
世界に通用する経営者になりたい?
ふむ。大それたことを言うんだな。オレの前で……
イタズラ好きの、かまってちゃんのお嬢様。なかなかの野心家なんだ。
それでいつも上から目線、男子であるオレを見下してるのかな。
面白い。
オレの背負っている宿命。
誰もが認める男のヒーローになること。
ならば、この子にも、きっちり認めさせてやらねばならないんだ。
そうだ。
オレは思い当たった。
この子は、ひょっとして、真の男を見たことがないんじゃないか。
周りを見ろ。クラスの男子ども。女子にじゃれついてニヤニヤしたり、女委員長に頭を押さえつけられたりしている腑抜けた連中ばかりだ。
なるほど、これでは男子を見下すのも仕方がない。
だから、大それたことを考えるようになるんだ。
フッ、
無駄にプライドの高いお嬢様。
あなたは身の程知らずのようだ。
あなたは真の男を見たことがない。だから、男についてカンチガイしてるんだ。
真の男というものに触れればわかるだろう。
あなたは、美人なんだから、おとなしくニコニコして、男を立ててれば、それでいいんだ。
このオレが教えてやるんだ。
男というものを。
真のヒーローというものを。
ヒーローは何があっても、男の坂道を登って行かねばならない。
それがどんなに厳しい道があっても。
そして蘭鳳院、お前みたいな女子のことを、しっかり守ってやるんだ。
男のヒーロー。それがわかれば、お前もオレを見下したりはしなくなるだろう。
妙なちょっかいおちょくり悪戯をしていた自分が恥ずかしくなるんだ。
オレは女子バレを恐れて、みんなと関わらないようにしようと思ってたけど、そうではない。
女子どもにナメられてはいけない。
女子どもに、クラスの連中に、オレが真の男だと、ヒーローだと認めさせねばならないんだ。
そのためにオレはここにいるんだ。
それがオレの宿命。
◇
ヒーローの道を目指さんとする一文字勇希は、真の男になるための修行として少年ヒーロー漫画を読み耽り、どっぷりその世界にハマったあげく、現実世界でマンガヒーローの如く振る舞うというカンチガイをするようになってしまっていたのである。
平和な学園での、ヒーローの道。
それは苦難の道なのであった。




