第199話 死闘の末に
蘭鳳院麗奈と、満月妃奈子は学園の奥、優雅な日本家屋が立ち並ぶスペースへと向かっていた。
もう暗い。最近、事件のあった所だ。
「この辺てほんとに暗いね。電気ないんだ」
満月がいう。
麗奈、黒髪を撫でながら、
「ほんと。昔ながらの風情情緒はあるけど、こんなに真っ暗じゃ危ないよね。夜に女子が歩けるとこじゃないよ」
「うん。懐中電灯か何か、借りてくればよかった」
いつも楽天的な満月妃奈子も、さすがに警戒している。
2人は今日、部活の後落ち合って、一緒にお茶にでも行こうと言う話になった。剣華は生徒会のはずだから、終わってたら一緒に誘おうと生徒会室に行ってみた。でも、生徒会の会合は終わっていて、剣華はもう帰ったとの事だった。メールしてみたが、返信もない。
じゃあ今日は2人でお茶に行こうかと帰りかけた時、他の生徒から、剣華が、奥のスペースへ歩いていくのを見たと言う話を聞いた。
麗奈と満月、顔を見合わせた。
「 優希、どうしたんだろう?」
「事件のあった場所へ暗くなってから1人で行くの? 危ないよ」
剣華の親友の2人。妙な虫の知らせがした。
心配だ。剣華を探しに行ってみよう、と言うことになった。
あっという間に、宵闇が深くなった。電灯のない奥のエリアに来ると、いきなり暗くなったと感じる。電灯の光が届かないように、建物や、背の高い樹々が、意図的に配置された作りなのである。
「電気がないって結構怖いね」
いつもクールな麗奈、少し緊張して、日本家屋の間を歩く。
満月も、
「まるっきり怪談か昔話の世界だね。肝試しみたい」
実際、この辺で肝試しをする生徒もいるのだ。
奥へ。
◇
茶室。夜の日本庭園。石塔に灯は入っているが、ぼんやりした明かり、かえって不気味だ。
夜の怪談の世界。
日本庭園にある優雅な造りの池。
その向こうに。
「あっ!」
麗奈と満月、同時に叫んだ。
人影。二つの人影。
目を凝らすと。
一方はーー
「包帯ぐるぐる男だ!」
と満月。
「そうだね」
麗奈も、目を丸くしている。
もう一方は?
何か頭からすっぽり被っている。
満月、麗奈にぴったりと寄り添って、
「どうしよう」
麗奈は、人影をじっと見ていたが、
「ねえ。包帯男と向き合っているの、 優希じゃないかな?」
「え? なんで?顔見えないのにわかるの? それに、なんで 優希があんな変な格好してるの?」
「わからない。でも、なんだか 優希の気配がするの。きっと、 優希が包帯男を、追い詰めてるのよ。 優希を助けなくちゃ」
麗奈、一歩踏み出す。そして大声でーー
「コラッ!」
と、叫んだ。透き通った声。凛々と、暗い空間に響き渡る。
「麗奈ーー」
隣の満月は絶句。
◇
紫頭巾から木刀を奪い取り、得意満面の勇希。
「よーし、反撃のターンだ」
木刀を構え、紫頭巾に狙い定めてーー
その時。
「コラッ!」
大きな声が、夜の庭園に響き渡る。
「なんだ?」
振り向く。
おや。向こうに、黒々とした人影が2つ。
なんだ。これは。紫頭巾族の新手か。そうか。紫頭巾族と、天魔族の戦争の最中なんだっけ。敵は大勢いるんだ。
どうしよう。敵がどんどん増えてくるなら、こっちは保たない。せっかく優勢を築いたところだ。このままやばくならないうちに、
逃げよう!
勇希は、紫頭巾に背を向けて走り出す。樹々の中へと走り込む。そのまま走って走って。行くと、高い塀があった。
ヒーロージャンプ!
届け!
よし。塀の上に手がかかった。そのまま塀によじ登り、乗り越え、飛び降りる。また走る。奪った木刀は、とっくに投げ棄てていた。
おや。なんだ?
舗道だ。オレは舗道を走っている。あれ? 立ち止まる。あたりを見回す。普通に電灯がある。
戻ってきたんだ。やっと。オレの現実世界に。
気づくと、体をぐるぐるペタペタにしてた包帯も膏薬も、消えていた。
普通に学ランを着ている。
なぜか、バッグも、肩にかけている。
今日、校舎から出た時のままの姿。
終わったんだ。
オレは、ほっとする。
ギリギリの戦いが続くな。
いつもほとんど不意打ちで襲撃されるってのが、相変わらず厄介だな。
でも、ヒロインの前でいいところを見せた。苔のヒロインだけど。
天破活剣がなくても、魔物と戦えた。
フッ、
オレは成長している。ヒーローとして、またレベルアップしたに違いない。
ステータスの上昇とか知りたいものだ。
フィセルメよ。オレもクレバーで経験を積んだ圧倒的な戦士になってやるからな。
そういえば。
オレは、ふと、思った。
紫頭巾族の応援部隊。なんだか大声を出していた。
透き通った、よく通る、響き渡る声。
あの声。
どこかで聞いたことがあるような。
いや、そんなことある筈ない。
気のせいだろう。




