表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

197/274

第197話 参上! 紫頭巾



 「どうしよう」


 剣華(けんばな)は、とっさの判断を迫られた。


 間違いなく、この前茶道部女子生徒を脅した、コスプレ仮装包帯男だ。学園内部のものが、外部からの侵入者が、それはまだわからない。


 「とにかく、このままじゃいけない」


 剣華(けんばな)は、植え込みに身を隠し、思案する。向こうは、剣華(けんばな)に気づいていないようだ。


 「このまま気付かれないように、校舎に戻って、すぐ人を呼んでこよう」


 当然の判断。学園の生徒として、そうするべきであった。


 だがーー


 「もし、人を呼んでくる間に、不審者が逃げちゃったら?」


 大事な友人を脅した女子の敵を前に、剣華(けんばな)は怒りで、完全に頭に血が上っていた。


 絶対に逃すわけにはいかない。必ず捕まえて、懲らしめてやらなきゃ。みんなが安心して、学園生活を送るために。不審者は、剣華(けんばな)に見られていることに、全く気づいていない。捕まえる絶好の機会だ。


 しかし、自分1人で捕まえられるか? 正義の怒りの使徒と化した剣華(けんばな)に不審者に対する恐怖心はなかった。だが、ここは冷静にならざるを得ない。剣華(けんばな)に武道格闘技の経験はなかった。闇雲に飛びかかって、素手で取っ組み合いして取り押さえる?


 さすがにそれは難しい。


 でも、このまま黙って見逃すのも嫌だ。女子の敵。絶対に許すことができない。


 どうしよう。


 剣華(けんばな)は、ジリジリとする。


 「とりあえず、緊急メールで、不審者侵入を知らせて、応援が来るまで、私はここで見張っていよう」


 バッグの中のスマホを取り出そうとーー


 「あっ」


 しまった。なんてことだ。私としたことが。さすがの剣華(けんばな)も、うろたえる。スマホが無い。生徒会室に、置き忘れちゃったんだ。こんな時に。完全に怒りで頭に血が上っていて、うっかりしちゃったーーこれじゃ誰も呼べない。


 ぼんやりとした灯りの中、包帯男は、キョロキョロしている。今日の獲物を物色してるのか?なんてやつだ。絶対許せない。誰もここに来なければ、包帯男も諦めて帰ってしまうだろう。ここで逃しちゃダメ。なんとしても、取り押さえねば。


 メラメラと燃える正義の炎。


 その時、ふと、気づいた。


 茶室の隣の武道場。


 あそこに行けば、何かあるはずだ。


 剣華(けんばな)、急ぎ武道場へ。



 ◇



 茶室の隣に武道場はあった。ここも立派な日本家屋の造りである。


 剣華(けんばな)は、生徒会室の鍵を持っていた。この鍵は、学園の主だった施設と共通のものである。生徒がよく利用する施設なら、大体この鍵で開くのである。


 武道場も。剣華(けんばな)の鍵で開いた。


 中に入る。電気をつける。ここは、電気がある。


 「電気をつけたら、不審者に気づかれて、逃げちゃうかな?」


 一瞬、そう考えたけど、武道場の窓があるのは、日本庭園の反対側だ。電気の明かりは、不審者に見えないはずだ。


 剣華(けんばな)は、武道場を見回す。


 あった。


 壁に、木刀が架けてある。


 剣華(けんばな)は、1本手に取る。しっかり握り、ビュッ、と、振ってみる。剣道は、中学の体育の授業でやっただけだ。もちろん、剣道は竹刀だから、木刀を振ったことなどない。


 木刀の重み。威力を感じる。


 これでよし。


 剣華(けんばな)の正義の心、奮い立つ。


 「これで、あの女子の敵をやっつけてやる!」


 木刀でも十分な殺傷力があるので、やたらと人を打ち据えたりしてはいけないのだが、頭に血が上った剣華(けんばな)にそれはわからない。


 「よし、行くぞ」


 卑劣な女子の敵を成敗へ。


 歩み出そうとする剣華(けんばな)、ふと、武道場の壁に掛かっているものに気づく。


 「これ、いいね」


 手に取る。


 紫の頭巾と全身をすっぽり覆う和服。剣道部が、武道場で、時代劇風のコスプレ撮影した時のものだ。


 「これを着ていこう」


 紫頭巾装束を、頭からかぶる。顔は、目だけ出す覆面だ。


 「これで、相手と互角」


 紫頭巾の覆面の下で、剣華(けんばな)は微笑む。


 セーラー服の女子高生だと、相手にナメられるかもしれない。それに、不審者は、外部から侵入した本物の変態変質者かもしれない。顔を見られて、後日、絡まれたりしたら嫌だ。剣華(けんばな)は女子の敵に立ち向かうことを決して恐れないが、やはり変態変質者とは、関わり合いになりたくないのである。


 紫頭巾装束をすっぽりと被り、木刀を手にした剣華(けんばな)。学園の平和を脅かす女子の敵に鉄槌を下さんものと、正義の怒りの炎が完全に燃え上がる。茶室、庭園の方へと走る。


 「学園女子を見くびるな!目に物見せてやる!」


 どう見ても高校生の本分を完全に逸脱した行動だったが、優等生剣華(けんばな)にとって、女子を守る正義は、何よりも尊く、優先されねばならなかったのである。


 闇の濃い庭園。石塔の灯がぼんやりと。


 不審者。包帯ぐるぐる巻き男。


 いた。まだキョロキョロしている。


 絶対逃さない。


 紫頭巾剣華(けんばな)は、植え込みの陰で、息を整える。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ