表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

196/274

第196話 剣華優希、正義の怒りのパトロール



 剣華優希(けんばな ゆき)は、怒っていた。


 「絶対許せない!」


 茶室に出現した不審者のことである。


 生徒会室に、剣華(けんばな)の凛然たる声が響く。


 「この伝統ある学園で、女子生徒が不審者に脅されるなんて!」


 ドン! と机を叩く。


 生徒会メンバー、黙り込む。


 剣華(けんばな)は、生徒会役員だった。選挙はまだだが、4月入学した1年生の各クラスから選ばれたクラス委員長による互選で、一年生代表の生徒会役員が選ばれるのである。


 剣華優希(けんばな ゆき)は、当然のように選ばれた。中等部で生徒会長をしていた実績がある。早くもみんなに一目置かれていた。


 剣華(けんばな)の熱弁。


 「脅された茶道部の子、私の中等部からの友人なんです。今度、生徒会をおもてなしする茶事ができるって、張り切っていたのに」


 茶道部は、本格的な来賓を招く茶事の練習として、5月に新生徒会を招いて茶事を行うのが慣行であった。一年生の部員にとっては、晴れの正式デビューとなる。


 剣華(けんばな)の友人の茶道部女子生徒は、


 「 優希(ゆき)、生徒会役員に選ばれてよかったね。今度、茶道部一年生の正式デビューで 優希(ゆき)をおもてなしできるなんて、すごく嬉しい。ワクワクしてるから」


 頬を紅潮させていた。


 「ふふ。結構なお手前、楽しみにしてるね。和服の着付けも大変だけど、お互い頑張ろうね」


 剣華(けんばな)もそう言って、友人と笑いあった。


 それがーー


 「ほんとにすっごく怖がってるんです!このままじゃ、絶対いけません!」


 気色ばむ剣華(けんばな)に圧されていた生徒会メンバーだったが、会長の三年生雪原透(ゆきはら とおる)がコホン、と咳払いをして、


 「剣華(けんばな)、話はわかった。みんな、お前と同じ気持ちだ。もちろん何もしないわけじゃない。これは学園全体の問題だ。理事会も緊急召集されて動いている。警備体制の強化、防犯カメラ防犯センサーのチェック、もう始めてるぞ。生徒を守る。これはみんなの思いだ」


 会長の威厳ある声音に、生徒会メンバーたちは、みな、うなずく。


 剣華(けんばな)は思案顔。キッと口を結んだまま。いちど正義の炎が燃えあがると、容易には鎮まらないのである。


 「防犯カメラや、防犯センサーはこれまでもあったけど、反応しなかったんですよね?」


 「そうだ」


 「故障でもなく……そうすると、やっぱり、学園内部の者の仕業でしょうか」


 皆、また黙り込む。


 学園内部に犯人がいる。それは、考えたくないことであった。


 しかし、剣華(けんばな)は、


 「ここはどうでしょう。私たちで、学園内をパトロールしてみては」


 雪原(ゆきはら)は顎を撫ぜて、


 「パトロール? この広大な学園の敷地を?我々だけでは無理だ」


 剣華(けんばな)はきっぱりと、


 「いいえ、生徒会の目が光っている。それをアピールするんです。我々が本気の姿勢を見せれば、きっと犯人も怖じ気付いて、もう二度としないと思うんです」


 またまた沈黙。みんな、それはちょっと違うなぁという空気になったが、剣華(けんばな)の真剣すぎる気迫に、正面から否定する気にはなれない。


 「剣華(けんばな)


 雪原(ゆきはら)は、確固たる態度を崩さない。生徒会を背負う者の責任。


 「学園の理事会に、全て丸投げするのではなく、我々も対策については考えていく。だが、パトロールは危険だ。相手は外部から侵入した本物の不審者かもしれない。そうなると、生徒が勝手に立ち向かってよい案件ではない。理事会に、警備や警察と連携しながら、きっちりと安全な学園を作っていこう」


 みんな、パチパチと思わず拍手する。


 雪原(ゆきはら)は、どんな時でも威厳ある態度で説得力のある言動するので、みなの信望は絶大だった。


 「わかり……ました」


 剣華(けんばな)も引く。



 ◇



 遅くまで続いた生徒会の話し合いは終わった。


 剣華(けんばな)は生徒会室を出る。


 もう、夜だ。


 校舎を出た剣華(けんばな)は考えた。


 さっきのことーー


 確かに、会長の言うことが正しい。生徒会でパトロールして、どうにかなる問題ではない。相手が本物の不審者犯罪者なら、生徒が手を出してはいけない。


 でも。


 剣華(けんばな)を茶事でおもてなししたいと張り切っていた友人のために、学園の平和のために、何か行動がしたかった。(たぎ)る正義の炎。


 そうだ。


 剣華(けんばな)は思った。


 茶室に行ってみよう。


 

 なぜそう思ったのか、自分でもよくわからない。


 実際に事件の起きた、夜の茶室。犯行現場の様子がどんなんだったか、確認しておくのは悪くない。


 思いたつや、茶室へ向かう。もう、誰にも止められない。



 夜の茶室。茶室の前の、日本庭園の石塔の蝋燭には、火が灯っている。ここはいつも火を入れておくことになっているので、今は、生徒ではなく、宵の口に教師が何人かできて、安全を確認しながら火を入れていた。


 「暗いな。本当に」


 昔ながらの風情情緒を出すため、周囲の電灯は目に入らないよう、背の高い樹々が巧妙に配置され、茶室と庭園を取り囲んでいる。


 黒々とした樹々に囲まれ、ぼんやりとした石塔の灯に浮き上がる世界。


 「幻想的。本当に情緒風情はある。でも、怪談や昔話の世界みたい。やっぱりちょっと怖いよね」


 懐中電灯を持ってくればよかった。怒りに任せて歩いてきたので、ちょっと考えが抜けていた。


 その時ーー


 ガサガサ、と池の奥の樹々が揺れる。


 え?


 剣華(けんばな)、瞳を凝らす。


 なに? 動物?


 樹々の間から。現れたのは。


 包帯でぐるぐる巻き、膏薬ペタペタ貼りの、人影。


 暗い中、かすかな灯りで確認する。


 間違いない。剣華(けんばな)は、手をぎゅっと握りしめる。



 「犯人だ! また来たんだ!」



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ