第192話 ヒーローの新装備!
わしゃわしゃと。
オレに絡みつく緑の蔓。
腕も、肩も道も足もぐるぐる巻きに。
緑の装甲が出来上がった。
「……この緑の蔓が、パイプかホースみたいに、この館に蓄えた精気をオレの体に流し込むんですね?」
「そうです」
ティオレ、力強く頷く。両手はしっかりと胸の前で組み合わせている。
「こう、ぐるぐる巻きにされると、なんだか動きにくいような」
「そんなことは、ありません。この蔓は、勇者様の動きに合わせて、伸び縮みします」
そうなんだ。オレは、試しに腕を、ブン、と振ってみる。
なるほど。絡まってる蔓。全然邪魔にならない。オレの動きに合わせて、伸び縮み。伸縮自在の精気ホースだ。便利なもんだね。
蔓を伝わって、木と水の精気が……ぐぬ? なんだか。確かにオレの体、力が填ち填ちてくる。底知れぬ力。なるほど、長い年月をかけて蓄えた力、精気か。これをオレが自在に使える。
「力を一点に集中してください」
ティオレがいう。
「そうすれば、フィセルメは、躱せません。防げません」
オレはうなずく。結局、細かい戦術指南も、ヒロインにしてもらっちゃった。
だが。木と水の力。そしてオレの力を合わせて操るのは、このオレだ。
よし。仕切り直し。フィセルメを倒しに行こう。
オレは、一歩、入り口へ。
「お待ちください。これをどうぞ」
振り返る。
ティオレが満面の笑顔で差し出したのは、木の実の殻の椀に入った緑の汁。
苔ドリンクだ!!
「……これ、飲んだ方がいいんですか?」
ポワッと光る緑の液体に、オレは、ややたじろぐ。
「はい」
ティオレはきっぱりと。
「莫大な精気を扱うのです。特に念を入れて濃く仕上げました。ぜひ、これをお飲み下さい。そして、戦いください」
うぐ……
苔と同じくポワッと光る美少女ヒロインに迫られて。選択の余地はなさそう……だ。
「ありがとうございます」
碗を受け取る。オレは死地に向かう勇者だ。こんなドリンク何でもないぞ。せっかく栄養ドリンクを用意してくれたんだ。ありがたいじゃないか。
オレは、意を決して、ぐぐっと苔ドリンクを喉に流し込む。
ぐほっ!
ぐほほっ!
ぐっへーっ!!
うげえええっ! なんだ! さっき飲んだのより、もっと強烈。パンチが効きすぎてるぜ。ティオレが渾身の力で作ったドリンクだけの事はある。オレはまた、体中の水分が蒸発して、内臓が全部ひっくり返って……でも……なんだか……すぐにまた、新鮮な水に体が満たされていくよう……うん。精気が、填ち填ちて。
苔ドリンクの試練、乗り切った。
うむ。頭がスッキリするな。体も軽くなった。ティオレ特製栄養ドリンク。効くぜ。味はひたすら酷いけど。
「お気に召しましたか?」
笑顔のティオレ。オレは、碗を返して、
「ええ……すごく……はは。頭も体も、スッキリシャッキリしました」
「よかった」
精霊美少女、ポワッと赤くなる。ヒロインを笑顔にさせるためなら、これしき、なんでもないぜ。
準備万端。
精気注入ホースも装着。栄養ドリンクも飲んだ。
行くぞ。
オレはティオレに背を向け、入り口へ。歩くたび、オレに絡み付く蔓は伸びる。全然邪魔にならない。
いよいよ、第2回戦だ。
待っていろ。
フィセルメ。
今度こそ、貴様を倒す。




