表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

190/274

第190話 風と炎と短剣と



 羽撃霰剣(ウィングショット)


 雨霰と鋭い短剣が降り注ぐ。


 「うぎゃあっ!」


 オレは、必死に横にジャンプして跳んで地を転がって、躱した。たった今、オレがいた地に、短剣がブスブスと突き刺ささる。


 「危なかった」


 空を見上げる。すでにフィセルメ。急上昇している。両腕を大きく広げて。短剣の雨を逃れてハァハァと息をつくオレを睨んでいる。


 

 バサ、



 フィセルメの大きな翼が、はためく。



 ヒュウウウッ!



 また、急降下。オレは、魔剣を構える。奴め、またオレの射程圏外から、羽撃霰剣(ウィングショット)を撃ってくるつもりだな。どうしよう。接近したところで魔光裂弾ブルースプラッシュショットを撃ってみる? でも、フィセルメ、風を操って、ジグザグに急降下してくる。うまく当てられるか?


 オレが躊躇する一瞬に、たちまち降下してきたフィセルメは、



 「羽撃霰剣(ウィングショット)!」



 またまた必殺の短剣の嵐を。今度はさっきより広範囲。そして、風。巻き上がる風に操られた短剣、オレを追ってくる。


 オレは後ろにジャンプして避ける。追ってくる短剣から逃げる。が、避けきれない。



 シュッ、



 鋭い短剣が、オレの左の脛を掠める。


 う、


 痛みを感じる。見ると、出血している。何、かすり傷だ。大した事じゃない。でもーー



 フィセルメは、早くも空高く舞い上がっている。


 奴の戦法。急降下して、短剣の雨を降らせ、また急上昇する。


 一撃離脱。オレの動きをよく見ている。冷静だ。確実に獲物を仕留める狩人(ハンター)の目。


 どうしよう。ちょっとまずいかな。奴の攻撃。無限に続けられるものではないだろう。逃げ回って、奴がへばるのを待つ? でも、フィセルメの攻撃、始まったばかり。体力エネルギーの削り合いなら、奴が有利か?


 オレは、さっき思い切って、大技使っちゃったし。


 オレは緑の館を背にしていた。空中のフィセルメ。今にもまた急降下が来る。あの攻撃を躱し続けるのは、無理……だよね。


 ここはひとまずーー


 オレは、入り口の蔓の暖簾をかき分け、館の中へ逃げ込んだ。



 ◇



 苔がポワっと光る館の中。じめっとする温室。


 ティオレ、館に逃げ込んでハァハァと息をつきほっとするオレを、じっと見つめる。


 「やっぱり手強かったですか?」


 

 うぐ。



 敵から逃げてヒロインに心配されるヒーローのオレ。


 いや、逃げたんじゃない。これは戦術だ!


 オレは、冷静さを装って言う。


 「相手の戦い方が分かりました……大丈夫です。奴を倒す方法を見つけました」


 「怪我をされているようですが?」


 「あはは、なーに、かすり傷です。心配ご無用」


 オレは笑顔を見せる。ヒーローたるもの、弱音を吐いてはいけない。


 「ティオレさん。奴の名はフィセルメ。ものすごい飛翔力で、自由自在に空を飛んで、攻撃をしてきます。風使いです。だから、外で戦うのは不利。館の中で、向かえ撃ちます。ここが戦場になります。どうか隠れていて下さい」


 オレは、館の中を見回す。天井は高いけど、屋外ほどじゃない。どこにいても、すぐにオレの天破活剣(てんはかつけん)の射程圏内だ。


 うむ。屋内に引っ張り込んで戦う。咄嗟に言った戦法だけど、これはいい。


 あんなに縦横無尽自由自在に空を飛べて、おまけに遠距離攻撃を得意としているやつと、外で戦っちゃダメだ。わざわざ、相手の得意戦法に付き合う必要は無い。これは命のやりとりだからな。こっちの有利な土俵でお相手させてもらおう。この狭いスペースじゃあ、自由自在に飛べない。風も使えないだろう。



 ふふふ。



 フィセルメ、お前の手の内。完全に見切ったぞ。このヒーローを一撃で仕留められなかったのは、お前の不覚だったな。


 この館、窓がない。入り口は1つだけ。敵を迎え撃つには、絶好の舞台だ。



 ◇



 館の外では。


 空中のフィセルメ、緑の館を見下ろしている。


 やがて。


 右手を掲げる。  


 「煉獄の炎(ゲヘナフレイム)!」


 黄色い嘴を開き、力を秘めた言葉を放つ。



 ボッ、



 フィセルメの右手に。


 紅い、炎の(ボール)が現れる。


 「焼き尽くせ。すべてを」


 フィセルメは、炎の(ボール)を、緑の館めがけ、投げる。


 苔や蔓に覆われた緑の館の屋根に、炎の(ボール)は、ジリッと取り付く。


 フィセルメは翼を大きくはためかせる。


 ヒュウヒュウと、風が巻き起こる。


 「風よ、舞え。炎よ、熾れ。大きく、強く、舞い、熾れ。全てを焼き尽くせ」


 炎の(ボール)


 ジリジリと、燃え上がって行く。緑の生きた植物でできた館。水気をたっぷり含んでいる。そう簡単には燃えない。


 だが、煉獄の炎(ゲヘナフレイム)。ただの火ではない。魔力の炎である。全てを焼き焦がす力を秘めていた。


 そして、フィセルメの巻き起こす風。魔力の風の力が、炎をさらに燃え立たせる。


 最初から、フィセルメは館に入るつもりはなかった。炎と風で全てを焼き尽くす。そのつもりだったのである。



 ジリジリ、バチバチ、



 煉獄の炎(ゲヘナフレイム)は、緑の館を焦がしながら、燃え広がっていく。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ