第189話 緑の館の決斗
オレは、宙を見上げる。
白頭有翼鬼のフィセルメ。翼をはためかせながら、動かない。
敵。奴はここまで、ヒーローと戦う悪役を完璧にこなしている。天晴れだ。倒さねばならない。
よし。
では、始めよう。
オレは、右手を空に掲げ、叫ぶ。
「天破活剣!」
たちまち、オレの右手に、青白い光を纏う木刀が現れた。
オレの体には、長ランが翻る。男の戦闘服。背中には……例の刺繍文字が縫い込んであるんだろうけど、べ、別にクラスの女子どもが見てるわけじゃないんだし……問題ない!
フィセルメ、オレの魔剣と戦闘服を見ても、動じない。相変わらず、翼をはためかせてながら、オレをじっと見下ろしている。
いいだろう。飛行系だからって、こっちから手が出せないと思ってやがるんだな。そうはいかん。
オレは以前、鬼面鳥戦った時のことを思い出した。
足元の草原から、石を拾う。たちまち石は、青白い光を纏う。
よし。オレは、フィセルメめがけ、投げる。
ビュウウッ!
石は、青白い閃光となり空を走る。
おお、威力が上がっている。やっぱりオレもレベルアップしてるんだ。着実にヒーローパワー、ステータスアップ。
フィセルメ、オレの石弾を、フワリ、と、避ける。
「うおおおおっ!」
オレは、石を拾って、次々と投げる。
ビュウウッ! ビュウウッ! ビュウウッ!
青白い閃光が空を切り裂く。
「青光連弾!」
何本も伸びる青白い閃光。しかし、フィセルメは、フワリ、フワリ、と避け続ける。余裕に見える。
さすが。鬼面鳥とは違うな。オレがレベルアップしたとはいえ、簡単に倒せるもんじゃない。
オレは石を投げるのを止め、次の手を考える。
フィセルメも、空中で動かず。とことんこっちの出方を見るつもりだな。こっちの攻撃を見てから、反撃してくるつもりか。
上等だ。奴の攻撃を見る間もなく倒してやる。
しかし飛行系魔物。厄介だな。距離を取られると、攻めるのが難しい。空を飛ぶ魔法だ技だ術だはあるんだろうけど、そういうのって、どうすれば習得できるんだろう。そういえば、魔力吸収とかも、習得しなきゃと思ってたんだけど、接近戦にならなきゃ、どっちみち使えないよね。
なかなか思い通りにいかんが。
とにかく、奴を倒す。
オレは、木刀を両手で握り、構える。
意識と力を集中する。この前、ネビュラを倒した時のことを思い出した。あの時は、剣二本だったけど、剣一本でも撃てるはずだ。
フィセルメ、オレの攻撃が止まったのを見て、空中で微動だにせず、オレを見下ろす。両腕を組んで、足を開いたまま。オレの青光連弾を躱す間も、ずっと腕を組んでいやがった。つくづく余裕な態度が得意な奴だ。
その余裕ごと、貴様をぶっ飛ばしてやる。
オレは、すべての力を集中。
エネルギーを、全て魔剣の中に収め、
「魔光裂弾!」
一挙全力開放!
オレの魔剣天破活剣から、青白い光の炎が噴き上がり、奔流となり、無数の刃となって、空中でオレを見下ろすフィセルメに襲いかかる。
◇
ゴオオオオッ、
オレの撃つ魔光裂弾。凄い力だ。一本の剣の力で撃ってるけど、この前赤光聖剣と一緒に撃った 聖魔光弾の威力に負けない。オレは成長している。魔剣の力が噴き上げた無数の光の刃、広範囲を襲う。
「どうだ、フィセルメ! 消え去るのは、お前だ!」
魔光裂弾の嵐、白頭有翼鬼に殺到するーー
が、
ヒュウウウッ、
これまで見たより、はるかに強く速く翼を羽搏かせると、フィセルメはさらに宙高く飛ぶ。
「追いついてくれ、オレの魔光裂弾!」
オレは必死に魔剣に力を込める。だが、フィセルメの方が速かった。青白い光の刃の奔流を僅かに掠めて舞い、オレの魔光裂弾を躱す。
オレの魔剣の光、やがて消える。
フィセルメ、ゆっくりと降下してくる。
「見事だ」
黄色い嘴が開く。嘲りの色はない。素直に、オレの戦闘を称えている。魔物とはいえ、こいつは武人タイプか。
「お前は、技も力も、ある。だが、戦い方はまだまだだな。口も下手だが」
うぐ……
うぐぐぐぐ……
なんだと。上から目線だな。空中から上から目線されると、なんか無性にこたえる。口も下手だと? さっきの言葉の応酬の戦い。やつは自分が勝ったと思っていたのか。鳥の分際で。言ってくれるじゃないか。
「今度はこちらから行くぞ。我が力、存分に味わうがよい」
フィセルメ、言った途端、急降下していた。両腕を大きく広げている。本気モードか。すごい速さだ。さっきまでゆったり飛んでたのに。やっぱり手を隠してたんだ。奴の攻撃のターン。こっちの手を見切った。そう思っていやがるのか。
そうはさせんぞ。オレは魔剣を構える。さっきの魔光裂弾で、かなりエネルギーを消耗している。でも、まだ余力はある。少しは考えてるんだ。しかし、あんまりバンバン撃つわけにはいかない。エネルギー切れに気をつけなきゃ。
急降下してくるフィセルメ。真っ直ぐオレに。上等だ。接近戦なら、こっちも望むところ。もっとこっちに来い。引きつけて、一撃をーー
が、フィセルメ、オレの剣の間合いの外で、急停止。すごい。空中であんな風に止まれるんだ。
そして、激しく強く、翼を羽撃かせる。大きな翼が激しく動く。
「うわっ」
翼から、白い羽毛が散る。無数の白い羽毛が、オレに降り注ぐ。
「羽撃霰剣!」
空いっぱいに、フィセルメの声が響く。
降り注ぐ無数の羽毛、すべて鋭い刃の短剣となって、オレに襲いかかる。




