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第187話 ヒーロー少女は美少女に助けてとすがられる



 「私たちをお救いください」


 ティオレはいう。いや、館の木も花も、苔まで、みんなでオレに訴えかけている。


 サラサラ、ざわざわ、オレを包む音と光。


 やっと事情がわかった。


 この人間世界、現世(うつしよ)の結界村に住む木の精霊の眷属の滅びの危機。


 ずっと昔、『覚醒者』の結界によって作られた村。


 誓約によって守られてきた結界村。


 守らねばならない。


 オレが、ヒーローの務めを果たすべく、立つ。そういうことだな。


 いいだろう。


 

 フッ、



 当然だ。


 だいたいこれまでは、訳も分からず誰に呼ばれたかもわからず異世界に引っ張り込まれて、いきなり戦いになっていた。


 今回みたいにちゃんとお招きされて、事情を説明してくれて、美少女にお願い助けて! されて。これが本来のあるべき姿じゃないだろうか。


 結界村を守るヒーロー。時代劇の用心棒か西部劇のガンマンが、とにかくそんなポジションだ。


 うむ。ヒーローらしくなってきたぞ。いよいよ本格的に。オレもレベルアップしているということだろう。



 「もちろん」


 オレは、立ち上がる。お約束の場面だ。


 「お引き受けましょう。当然のことです。何、たやすいことです。オレが来たからには、もう大丈夫。ご安心ください」



 うおおおおっ! 


 言えたぞっ!


 ついに、ついに、ついに、


 これぞ、ヒーロー!


 「ありがとうございます!」


 ティオレ、ぱっと顔を輝かせ、オレに走りより、オレの両手をしっかりと握る。


 「信じていました!きっと、あなた様ならと!」


 

 フッ、



 いいぞ。お約束。順調だ。順調すぎて恐い。


 館中の木や草や花は、さらさら、カタカタ、苔はピカピカと点滅。精一杯の感謝、祝福、応援といったところか。苔だって頑張ってくれてるんだ。


 「で、相手は」


 オレは、なるべく落ち着き払って行った。こんな仕事、たいしたことないんだというアピールを頑張る。ヒーローだからな。


 「はい」


 ティオレ、オレ手をしっかり握ったまま。


 「何日か前のことです。この結界村と、幽世(かくりょ)を繋ぐ裂け目を、向こうの世界での戦いに巻き込まれ傷ついた者がたまたま見つけ、こちらに逃げてきたのです。私たちは、その者を保護しました」


 なるほど。幽世(かくりょ)での戦乱と、そこからの避難。まだ続いてるんだ。


 「その時、こちらに逃げてきたものが、匂いを残してしまったのです。それを嗅ぎつけて、討手が入ってきたのです。こちらに害意のある者は、入ってこれないよう、(シールド)が張ってあったのですが、討手は強力で、執念深く(シールド)を破り、侵入したのです」


 「その、討手ってのは、大勢ゾロゾロ来てるんですか?」


 なるべく冷静さを装いながら、オレは言う。一人で大軍を相手にするのは、相当な覚悟がいる。いくらヒーローだって。


 「いいえ。一体だけです。時空をつなぐ裂け目は、とても狭く、細いのです。簡単に通れるものではありません」


 オレはほっとした。だけど全力で、『なんだ。相手はたった一体だけか。つまらんなぁ』という顔をしてみせる。ヒーローらしく!


 「なろほど。で、そいつは今、どこにーー」


 「この館の前に来ています」


 展開が早いなぁ。お膳立てバッチリ。映画みたい。



 「わかりました。オレが今から外に出て、そいつを倒せばそれでいいんですね?」


 「はい。お願いします。どうか私たちをお救いください」


 ティオレ、瞳を潤ませて。美少女の涙。感激の証。



 ぐわ〜ん。



 痺れる。


 ヒーローの仕事するなら、こうでなくちゃね。


 なんだか今までの連中は、オレに対する態度がおかしかった。でも、今回は違う。


 いいぞいいぞ。


 「お嬢さん」


 オレは、かなり必死に、余裕綽綽アピールの微笑みを浮かべる。セリフを考えるのも忙しいし。


 「では、行くとしましょう。フッ、どんな相手かなんて知る必要はありません。ただ、ここに守るべき人がいて、そして、倒すべき敵がいるなら、行くしかない。それが、ヒーローなんです」


 やったぜえええっ!


 どうだっ!


 完璧だ!


 ティオレの頬、紅くなる。館のそこいら中から、すげー、頼むぞー、と言う声が聞こえるような。聞こえないけど。祝福感に包まれているのはわかる。


 これ以上、余計なおしゃべりをしてはいけない。ヒーローとは寡黙なものなのだ。


 オレは、くるっとティオレに背を向けると、入り口の方へ。


 ぶら下がった蔓の束の暖簾をかき分ける。


 「あの」


 後ろからティオレ。


 「私たちも、助力いたします」


 オレは、すかさず、


 「お嬢さん、あなたはここにいて下さい。いいですか。決して、館から出ないように」

 

 後ろを振り向かずに言った。


 「オレ1人で大丈夫です。なあに、なんでもありません。お嬢さんに怪我させちゃいけません。そっちが心配です」


 おお。またまた完璧に決まったぞ。ヒーロー。もう、ぐうの音も出ないほどヒーロー。


 ティオレ、黙る。うむ。君はしっかりとヒロインの役を果たしなさい。



 よし。舞台は整った。できた。男の花道。ヒーローの花道。


 いよいよだ。


勝負。


結界村を、ティオレを守るための。


 ヒーローとして、決して退けない戦い。


 敵……どんなやつなんだろう? 


 ちょっとは……いや、だいぶ……気になる。



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