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第18話 可愛いえくぼの奥菜結理 〜 孤高のヒーロー少女、ぼっち卒業



 「一文字(いちもんじ)君、昨日は、満月(みつき)さんを守って、かっこよかったですよ」


 奥菜結理(おくな ゆり)が、ニコニコしながら話しかけてくる。


 散々だった満月とのデートの翌日、朝のホームルームの始まる前。


 奥菜結理(おくな ゆり)


 クラス委員長剣華(けんばな)にじゃれついている子犬四天王の一人。ボクシング部。


 身長はオレと同じ位。


 いつもしている水色のバレッタリボンが、よく似合う。


 ニコニコすると、可愛いえくぼ。


 今もえくぼが見える。

 

 満月を守って、かっこよかった? 奥菜には、そう見えたんだ。そうかね。


 別に……何の危険もなかったんだけどな。

 

 確かに、かなりの人だかりができて、ツンツン頭の見た目も、不良っぽかった。


 しかも、満月。しっかり、大げさにオレにしがみついていた。ありゃ、かなりのピンチに見えかもしれない。


 ピンチ……と言えばピンチだった。


 オレをピンチに追い込んだのは、ツンツン頭じゃなくて、満月だけどな。


 奥菜はいう。


 「一文字君が、おかしなことをするだけの人じゃないって、みんなもわかってきたと思いますよ。なんだか、すっごく純粋な人だなって思います」

 

 純粋?


 オレは純粋だなんて、これまであまり言われたことないけど、とにかく褒め言葉なんだ。ありがたく受け止めておこう。


 そうだ。この子はちゃんと、わかっている。


 奥菜友理は、コロコロコロコロ、よく笑い、よくしゃべる。


 感じの良い子。


 なにを話していても、最後は委員長の話になる。


 とにかく、委員長のことが、大好きなんだ。委員長の話になると、顔が真っ赤になる。


 昨日の事は、オレと満月の間には何もなく、ただオレが満月の香水の瓶壊しちゃったから、代わりのを一緒に買いに行っただけだと説明した。


 奥菜は納得してくれた。


 「あの後、委員長が、満月さんに、事情を訊いて、満月さんもそう言ってました」


 妃奈子め。オレをからかっていただけなんだな。



 「委員長のことだけど」


 やっぱり、委員長の話になる。奥菜の顔、真っ赤だ。


 「昨日はあんなことをして、委員長も辛いんです」


 昨日のあんなこと?


 オレが委員長に殴られた件か。


 「委員長は、本当は、すごく優しくておとなしい子なんです。でも、正義のためには、絶対立ち上がる。絶対立ち上がらなきゃ、いけない。委員長は、そういう人なんです。それで委員長、すごく傷ついちゃうんです、ああいうことがあると」


 優しくておとなしい?


 あの暴力委員長が?


 それに正義? 正義だと?


 オレを殴るのが正義?

 

 もっと、穏やかに話し合ってわかり合うとか、そういうのを正義って言うんじゃないのか。オレたち、まだ高校生なんだよね。

 

 あれ? 待てよ。

 

 昨日、オレが、委員長に殴られた時、奥菜が止めてくれたけど、オレを助けてくれたんじゃなくて、委員長剣華が、あれ以上、傷ついたり、辛い思いをしたりするのを止めたかった……てこと?


 奥菜は、委員長の心配をしていた。オレじゃなくて。


 そうなんだ。別にいいけど。


 「委員長は、ほんとにほんとに、身を削ってるんです。辛いんです。あれを見てると、私も、本当に辛くて辛くて、泣きそうになっちゃうんです」


 奥菜結理、悲しそうな顔になる。今にも、泣き出しそう。

 

 いやはや。


 人をバインダーでぶったたくと、自分の身が削られるもんなんだ。


 その発想はなかったな。そういう人も、いるのだろう。高校ってのは、奥が深いぜ。


 奥菜結理、別に、オレに、悪意があるわけではない。むしろ、オレに好意を持ってくれている。


 考えていることが、すぐに顔に出るから、わかる。嘘はつけない子。


 奥菜、とにかく委員長が大好きで、委員長のすることなら、何でも正義なんだ。


 オレも、奥菜に、好感を持っている。


 さっぱりした、ボクシング少女。


 オレが普通の女子生徒だったから、こういう子と仲良くなって、ずっとワイワイキャッキャしていただろう。奥菜は、自分の試合の動画を見せてくれた。大事に自分のスマホに保存してるんだ。


 奥菜のボクシング。


 おそろしいパンチだ。会心の右ストレート。相手の選手、体をくの字にして、吹っ飛ばされている。


 これが、いつもコロコロコロコロ笑ってる、可愛いえくぼの子の試合なんだ。奥菜の試合も、そのうち見に行きたいな。

 

 ひとしきり、ボクシングや、部活の話をする。


 部活か。いいなぁ。


 オレも本来なら、高校で運動部をやりたかった。


 でも、ヒーロー跡目候補とかになっちゃった。


 宿命がある。


 部活どころじゃない。何しろ、ずっと男子のふりをして、女子だとバレちゃいけないんだ。


 部活をやるのは危険だ。特に運動部なんて。



 「一緒に勉強しませんか?」


 奥菜が言った。


 一緒に勉強?それってオレに勉強教えてくれるってことだよね。


 目の前の奥菜、期待のこもった目でオレを見ている。


確かに、それは、助かる。


エリート校のレベルに追いつくのは絶望的な気がするけど、一応、多少の勉強に、課題やレポート。それは、やらなきゃいけない。


 一人で自習する……それは、オレには限界がある。すぐ眠くなっちゃうし。


 教えてもらえるなら、助かると言えば助かるけど。


 ええと……でも……


 奥菜は、女子で、オレは……男子。


 一緒に勉強しようとの誘い? 2人で? これって……普通に考えたら、恋愛とかそういうのになりそうだけど。


「奥菜さん、2人で勉強会するってこと?」


「委員長が、勉強会を時々開いているんです。一文字君、それに参加してはどうでしょう」


 ……委員長と、子犬の一団に混じって、オレが勉強?

 

 それは……ちょっと……


 「奥菜さん、あのオレ、多勢いると、勉強になかなか集中できないんで。できれば、2人で、教えてもらえないかな」


 ありゃりゃ。


 しまった。


オレの方から、奥菜と二人っきりで勉強したいと誘っちゃった。

 

 奥菜は、どう受け止めただろう。


 奥菜、屈託なく、


「じゃあ、2人で勉強会しましょう。私、部活があるから、終わった後、どこかへ行きましょう」


 かわいい、えくぼを見せる。


 奥菜に、妙な考えはない。


 オレになにか下心があると、疑っている様子もない。


 とにかく、まっすぐで、いい子なんだ。


 正義派委員長の、薫陶を受けているだけの事はある。この1週間、エリート校の勉強のレベルについて来れなくて四苦八苦しているオレを見て、純粋に助けたいと思っているようだ。


 奥菜なら、妙な詮索もしてこないだろうし、女子バレの心配もなさそうだ。


 オレは、ヒーローの宿命を背負っている身。孤高のぼっちをしようと思ってたんだけど……


さすがに高校学園生活、クラスメイトと全く関わらないのはキツイ。


 女子バレしなきゃいいんだ。みんなに男として振る舞うことを覚える。これも修行だ。試練を乗り越えていく。それがヒーローだ。


 少しずつ、みんなと関わっていくのも、悪くない。


「よろしくお願いします。声をかけてくれて、ありがとう」


 オレは言った。


 奥菜は、赤くなった。ずっと、かわいいえくぼ。




 (  第ニ章 陽キャ女子リーダー 満月妃奈子とデート   了  )



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