表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

179/274

第179話 天使との別れ



 「楽しかったねーっ!」


 麗紗(りさ)は、飛び跳ねている。制服のスカートが揺れる。おい、膝上スカートなんだから、そんなに跳ねちゃだめだよ。


 VRゲームヴァーチャルリアリティを終え、オレたちは(ボックス)を出た。華やかなライトの下、連休のレジャーランド、大混雑。騒騒(ざわざわ)と。ますます盛り上がっている。


 やっと戻った日常世界。


 オレはーー


 あまりゲームを楽しむどころじゃなかったな。本物の異世界戦闘(バトル)の癖が、ゲームでも出ちゃって。なんだかうまくいかず、空回りしちゃう。


 ポイントでは、麗紗(りさ)に大差をつけられた。ペアで攻略するイベントも、大体麗紗(りさ)がリード。


 異世界幽世(かくりょ)戦闘(バトル)でいろいろ消耗していたオレと違って、麗紗(りさ)は燃えに燃えていた。確かに、無尽蔵のエネルギーを秘めた小さな太陽(ホーリーサン)だ。


 愛くるしい天使は得意満面。


 「勇華(ユウカ)、ゲーム苦手なの?でも、頑張ってたよ。ところでーー」


 麗紗(りさ)、思案顔。


 「最初のステージ、何だったんだろう? 第二ステージ以降と、全然違ってたよね? 前情報とか、説明とか案内にも、あんなのなかった。ものすごく現実(リアル)な作り込みで凄かったのにね。あと、最初のステージ、なんでポイントが入らなかったんだろう」


 オレも、思案顔してみせる。なるべくもっともらしく。


 「確かに変だったよね。きっと、バグだったんじゃないかな」


 「バグ?」


 「うん。開発途中のプログラムか何かに、私たちは巻き込まれたんだよ」


 「そんなことあるの?」


 麗紗(りさ)、目を丸くする。


 オレは麗紗(りさ)の瞳を覗き込んで、

 

 「生身の人間を、異世界に引っ張り込む、そんなゲームプログラムだったんじゃないかな。そんな気がする。本当にあっちの世界に行ってたんだよ」


 「えー、こわい!」


 麗紗(りさ)が笑いだす。


 「じゃぁ、ゲームの中で負けてたら、こっちに戻って来れなかったってこと?」


 「そうかもね」


 「まさかあ」


 麗紗(りさ)の朗らかな笑顔。


 オレは複雑。ほんとに死ぬところだった、なんて話。やっぱりしないほうがいいよね。



 ◇



 麗紗(りさ)はオレを引っ張ってアトラクション巡り。


 オレは、今日1日はもう麗紗(りさ)に引っ張り回されようと決めていた。天使とのお別れの時間、近づいていく。麗紗(りさ)とずっと一緒にいたい。オレはそんなふうに思うようになっていた。けれど、そうはいかないーー



 「キャー、見てーっ! 麗紗(りさ)勇華(ユウカ)、恋愛成就率95%だって!」


 占いのコーナー。オレたちはカップル御用達の恋愛占いをしていた。


 オレ、妙に赤くなる。麗紗(りさ)のほっぺもピンク色に。


 なんだ。なんだかドギマギするな。


 蘭鳳院(らんほういん)の姉妹。姉も妹も、オレの心を悩ませ、騒がせ、引き回す。


 レジャーランドの最後に。


 オレたちは、お洒落なカフェに寄った。


 麗紗(りさ)、ケーキにかぶりつく。


 「勇華(ユウカ)、また、来ようね」


 「う……ん」


 オレはコーヒーを飲みながら、笑顔を作るのが精一杯。


 「勇華(ユウカ)、私たち友達だよね。勇華(ユウカ)、他のみんなとも、きっとうまくいくよ。だから、自信を持って」


 「ありがとう」


 オレは本心から言った。設定がどうとか、もうどうでもよくて。



 レジャーランドを出て、オレたちは別れる。小さな蘭鳳院(りさ)、手を大きく振って、バイバイする。夕日の中に、煌めく天使の姿。



 ◇



 長い1日だった。


 とっさに妙な嘘をついちゃったことには、胸が疼く。


 麗紗(りさ)は、ちょっと強引で、行動力過剰だけど、すごく思いやりがあって、いい子だ。


 麗紗(りさ)が大事に思っている友達の勇華(ユウカ)


 今日で完全に消えるんだ。もう二度と現れない。



 ◇



 その夜。家で。


 オレは、何度も何度も、メールの文面を考えた。麗紗(りさ)にお別れのメール。別れる前に、メアド交換した。勇華(ユウカ)のメアドは作っておいたので、問題なく交換できた。このメアドを使うのも、これが最後。


 結局、考えた文面。



 「麗紗(りさ)ちゃん、今日は1日本当にありがとう。友達になってくれて、すごく嬉しかったです。出会ったばかりで、こんなことを伝えなくてはならないのは、本当に悲しいのですが、もう会うことはできません。遠い場所へ行くことになりました。行き先は、勇希(ユウキ)も知りません。これは前から決まっていたことなのです。だから、最後に、楽しい思い出作りができて、麗紗(りさ)ちゃんに、ただただ感謝です。麗紗(りさ)ちゃんからもらった勇気、決して忘れず、ずっと持ち続けます」



 うーむ。なんだか。


 間抜けな文面だ。何度考えても、こんなのしか書けない。友達へのお別れのメールって、どうすりゃいいんだろうね。そもそも、事情を知らせず、突然姿を消すなんて、普通はありえないし。麗奈(りな)みたいな優等生なら、もっとましな文面を考えることができるんだろうか。


 しかし、オレにできるのはこれだけだ。


 メールを送信する。返信が来ても……見ない。


 とても苦しい。本当に。ヒーローの道は孤高、孤独だとわかっているけど。


 愛くるしい天使。家のドアや、部屋のドア、戸棚を開けたら、まだひょっこり出てくるんじゃないか。カレーライスを作ってくれるために。そんな気がする。


 しばらくの間、可愛いエプロン姿で微笑む天使の残影、オレの周囲に、漂っていた。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ