第177話 魔力の主
オレは、やっと立ち上がった。
いろいろわからんことだらけだ。ま、異世界だしな。何が起きてもおかしくはない。
「どうだった? 赤光聖剣は?」
麗紗が、オレが草の上に置いておいた聖剣を拾って言う。
「え? あ、」
そうだ。オレにも麗紗の赤光聖剣が使えたんだ。これは持ち主専用ってわけじゃないんだ。オレの天破活剣も、他の人間に使えるのかしらん。
「すごい威力だったよ。なんだか、力が湧き出てくるようで」
「ふふ、勇華、とっさに、あんな技出すなんて、凄いね」
技。オレは使った。 聖魔光弾。二本の剣で。ネビュラを倒した。なんで、いきなりあんなの撃てたんだろう。もちろんメニュー表示とか出たわけじゃなくて。急に、オレの心と体の奥底から、あの技が出てきたんだ。何の迷いもなく、自然に撃てた。
これが宿命の力なのか。そうだとすると、麗紗の魔法だ技だも。
麗紗、赤光聖剣を楽しそうに、ビュッ、ビュッ、と振っている。無邪気な愛くるしい天使。
「麗紗もあんな大技やってみたーい!」
いや、麗紗の自己治癒の方がすごいよ。何だっけ。慈しみの 太陽の息吹きとか言ってたような。ああいうのも、自然にできるんだ。
強い想いが形に。それが異世界ルールなのか。
「そういえば」
オレは、疑問を口にする。疑問だらけだけど。
「オレたち、完全にバテて、エネルギー切れてたよね。なんで急に力が回復したんだろう」
「え?」
麗紗は、キョトンと。
「麗紗がやったんだよ」
「は?」
なんだ?まだ未知の世界があったのか。オレの方が、この異世界じゃ先輩のはずなんだけど、なんだか、麗紗の方が先を行っているような。
小さな蘭鳳院は、胸を反らし、得意満面。
「麗紗、ネビュラに、ぐるぐる巻きにされたんじゃない? その時、ものすごい力を感じたの。だめだ。これを撥ね返すのは無理だ。でも、ひょっとしたら、この力、こっちに吸収できないかなって。それで、魔力吸収!って念じたの」
魔力吸収? 便利な技だか魔法だか、ポンポン出てくるものなんだ。オレも結構いろいろ念じたり、想ったりしてたけど。
「すごかったよ。魔力吸収。ぐんぐん力が吸収できるの。でも、ぐるぐる巻きにされてるのを撥ね返すのは難しいかなって。で、見たら、勇華、ネビュラのマントにしっかりしがみついていたじゃない? だから、この力、勇華に送れないかと思って、やってみたの。今度は魔力操作!ってね。うまくいったでしょ?どんどんネビュラの力を勇華に送りこんじゃった」
麗紗、えへへ、と、笑う。まるで何でもないことのように。
オレは口をあんぐり。
麗紗はネビュラの握る銀の鞭にぐるぐる巻きにされていた。オレは、しっかりと奴のマントを握っていた。それで、マントだ鞭だを、電線みたいに使って、魔力を移動させてたってこと? あの一瞬に、すごい判断だ。魔力操作? またまた新たな技。
そんなことできるんだ。魔力だ力だは、トコロテン式に押し出せるものなんだ。
すると何か。ネビュラのやつは、自分の魔力が吸い取られたり、オレに押し出されたりしてるのに、全然気づいてなかったんだ。なんだかんだ、ヌケサクというか、ポンコツな奴だ。やはり、下級魔物のちょっと上のクラスのやつなんだろう。
いや。
オレだって。
ネビュラの魔力が、注入されているなんて、全然気付かなかった。あの時はマントを握っているのに必死だったもんで。あいつの魔力をもらったなんて、あんまりいい気はしないけど。魔力や力ってのは、人間も魔族も共通のものなんだ。みんなで奪ったり奪られたり、交換したり、そういうものなんだ。
あの時、急に力が噴き上がって、オレはびっくりした。なるほど。そういうことだったんだ。
銀髪黒マントの冷たい男。ネビュラ。銀の眷属とか言っていた。魔力を抜き取られても気づかないって事は、桁違いの魔力を持っていたんだ。銀の雨で、金色三頭獣の群れを一気に倒したからな。
やっぱり危険な敵だったことには違いない。知性知能品性には問題があるけど。
「驚いた? 麗紗がエネルギー送ってるの、全然気づかなかったんだ」
「うん」
驚いたさ。麗紗は、うふ、と、
「敵のエネルギーを奪ったり、仲間に分けたり、ゲームじゃよくあるよ。勇華は、あんまりゲームに慣れてないから、わからなかったんだね」
うぐ……
オレだってゲームだなんだやってるけど、いきなり急にそんな判断するのは無理だぞ。
「ねえ」
麗紗がいった。好奇の目。
「勇華、ゲームの世界に来てから、急に男子っぽくなったね。その長い学ラン着てると、勇希そっくり。オレっていってるし」
うおっ! そりゃ戦闘になったら、女子モードとか、どっかに吹っ飛んじゃって。
「すごくかっこいい!麗紗も、男子モードでゲームやってみようかな」
うーむ。ここまできて、バレてはいないようだ。勇華と勇希は別人。そう思い込んでくれてるなら、とにかくそれでいい。
「あと、それから」
麗紗、オレの後ろに回り込む。
「これって何なの?」
「え?」
オレの背中になにか。
あっ!!
麗紗がオレの背中の刺繍文字を読む。
「オレは男だ。女子はみんなオレの前に這いつくばれ」
そうだった!
オレは慌てて麗紗を振り向き、背中を隠す。
オレの戦闘服。長ランの背には、例の刺繍文字が。
なんだか赤くなるオレ。
目の前の愛くるしい天使、興味津々といった瞳で、オレを見つめている。




