第170話 金色の煙の中で
「うおおおおっ!」
「えーいっ!」
オレと麗紗。
天破活剣と赤光聖剣を空中で大きく振り回しながら、金色三頭獣の大群の中に飛び込んだ。
ビュウッ、
でかい金色の的に、剣を一振いすると。
ズサッ、 ブシュッ、
金色魔物が真っ二つ。たちまち金色の煙を噴き上げ、ぐしゅぐしゅと崩れ落ちる。
うむ。やはりこいつらは弱い。しかし、問題はーー
その数。
オレたちは、たちまち金色の無数の瞳、グオグオと唸る頭、不気味に光る胴体の魔物群に取り囲まれた。ライオンに似た魔物。頭が3つあって、サイズはライオンよりでかい。100……150……いやもっと。やはり200頭くらいはいる?
オレと麗紗。背中あわせで、剣を構える。
「麗紗ちゃん、離れないでね。襲ってくる相手を、じゃんじゃん斬っていけば、それでいいから」
「うん。まだゲームスタートしたばかりだしね。ちょっと剣の使い方覚えよっと」
心配だけどーー
グオオオオッ、
目の前の金色三頭獣、次々と襲ってくる。
「いくぞおおっ!」
オレは夢中で剣を振った。
ズサッ、 ズサッ、 ズサッ、
金色三頭獣の首が、胴が、前肢後肢が、剣の一振りごとに、切断され、金色の煙を噴き上げる。相手は一頭につき、頭が三つ、肢は四本。頭一つ、足一本斬り落としてもまだ襲ってくるので、なるべく胴体両断を狙う。こっちに突進してくるのを、素早く横に回って、脇から狙う。
ズサッ、 ズサッ、 ズサッ、
斬った金色三頭獣が噴き上げる金色の煙が辺りに充満する。金色の煙の中での戦い。これって吸い込んでも大丈夫なのかしらん。とにかく、ヒーローパワーを信じるしかない。
金色三頭獣の攻撃、単調だ。大体似たような攻撃パターン。唸って、吠えて、四肢の爪を立ててしゃがむ準備動作して、そこから襲いかかるーー
読める。見切れる。次々と襲っては来るが、こちらのスピードの方が上だ。それに、オレの魔剣天破活剣と麗紗の赤光聖剣。どちらも5メートル位光の刃が伸びる。扱いも軽い。余裕のある射程で、狙った獲物をぶった切る。青白い光の刃と、赤い光の刃が大地に充満する金色の煙の中を交叉するごとに、金色三頭獣の断末魔の咆哮が谺する。金色の煙、もっと濃くなってゆく。
背後の麗紗、問題なく戦えている。なんだかオレより軽やかだ。楽しそうに剣を振っている。
「もっとみんな一斉に襲いかかってきちゃってえええっ!」
可愛く元気な声が響く。
うぐぐ。
ゲーム感覚というやつだ。やっぱり心配になるな。
金色三頭獣。かなりワンパターンな攻撃の連続。でも怯む様子はない。次々と襲いかかってきて、青い魔剣と赤い聖剣の餌食となり、金色の煙と消える。
まったく何考えているのかな。魔物どもは。こいつらに、頭脳感覚感情ってあるのかしらん? 異世界の眷属っていうけど、こっちでいう生物とはやっぱり全然違うのかなあ。
オレはだいぶ余裕があった。もう何十頭も始末した。そろそろ折り返し地点か? この調子で、後半戦も頑張ればーー
◇
あれ?
ビュウッ、と振った魔剣の刃、伸びない。さっきまで余裕で金色三頭獣を両断できてたのに。
なんだ? 天破活剣の光の刃、光が弱くなっている。
「うおっ! まさかっ!」
またまた、お馴染みエネルギー切れ? そういえば、腕も結構疲れて痛くなってきた。魔剣パワーを発揮するのも、消耗するんだ。
オレは後ろを振り返る。
麗紗、顔を真っ赤にして、ふうふうと、息をしている。
さっきまで、楽しんで軽やかに剣を振っていたのに。
「麗紗ちゃん、剣の調子はどう?」
「光が伸びなくなってきちゃった。これってエネルギー切れ?」
うむ。まずい。そっちもか。
オレたちを取り囲む金色三頭獣の金色の瞳。まだまだたくさん。不気味にオレたちを睨んでいる。唸り声も絶えず連なり谺する。ひょっとして、数で押す、数で戦うーー最初からそういう作戦?魔物に作戦てのがあるのかどうかわからないけど。
「ちょっと距離を取ろう。一旦、引くよ」
オレは、麗紗の手を握ると、崖の方へ走る。
目の前を立ち塞ぐ金色三頭獣。すぐ鼻先まで踏み込んで、短い貴重な光の刃で、ズサッ、と斬り伏せる。攻撃パターンはわかってるんだ。近づいたって大丈夫だ。でも、すうっ、と青白い光の刃、さらに小さくなる。あちゃー。いかんなこれは。本格的なエネルギー切れ。
崖を背に。
オレたちは並んで。
オレたちの剣の纏う光、だんだん微かに。
目の前の金色三頭獣の群れ。まだ100頭はいるか。
こっちの窮地。奴らは気づいているのか。向こうがワンパターン攻撃をひたすら続けていれば、それだけでこっちはバテてパワー切れ。燃料切れ。そして……
じりじりと、前進してくる。
金色の獣の群。
どうしよう。




