第166話 魔剣と聖剣
ねぇ、本当に。
なにが起きてるの?
これって……現実? 仮想? それともVRゲーム?
蘭鳳院麗紗。
愛くるしい天使。
その手には、
燦然と輝く、赤光聖剣。
ユラユラと、しかし、気高くたなびく赤光聖剣の赤い炎。
どういうこと。
オレは、もう訳がわからなくて。
「ねえ、見て。麗紗も剣を出せたよ」
無邪気な天使。自信たっぷりで。愕然となるオレの前で。
さらに、
「防具も欲しいな。そうだ! えい!」
麗紗、赤光聖剣を振りかざし、くるっと一回転。可愛くて、優雅な動き。天使の舞。すると、たちまち赤い光に包まれる。
天輦学園のセーラー服だった麗紗。
赤い光とともに、新装備。赤い布がひらめく。真紅の服だ。ゆったりと、前後に裾を垂らして、真紅の地に、金糸の刺繍。キラキラ煌めくまばゆい色とりどりの宝石が縫い込んである。なんだかすごくゴージャス。ドス黒い空と、紫の不気味な草地の間で、そこだけがひときわ輝いている。
「うわー、こんなのできるんだ。勇華、これ、何かわかる? 西洋中世の銃士制服だよ。すごーい。これ一度着てみたかったんだ」
麗紗、歓喜乱舞。豪華絢爛たる天使の降臨。
「すごいVRゲームだね。メニュー選択クリックしなくても、思ったことがその通りになるんだ。こんなの初めて。最新型って、たっのしーい!」
たっのしーい、か。そりゃ、思ったことがその通りになるから、楽しいよね。でも、思ったことがその通りになるなら、オレは今まで、なんでこんな苦労を。
ほとんど腰を抜かしているオレを横に、麗紗、ビュウッ、ビュウッ、と赤光聖剣を振る。赤光聖剣、振るたびに、赤い火花が星のように散る。殺風景な幽世を彩る天使の炎。
「勇華、麗紗の言う通りにして! 大丈夫、きっと倒せるよ。2人で倒そうね。相手は2人プレイ用の魔物だから。二人で一気に倒してポイント稼ごう」
オレはもう、何も言えなかった。何が現実で何が幽世なのか。どこまでがVRゲームなのか。
ああ、もう知らねえ。わからねえ。ともかく、
“これでいいのだ。順調なのだ。全てこのままでいいのだ”
の大法則に従う。安心安泰の大法則。
◇
「剣を構えて」
麗紗がいう。
オレは、天破活剣を構える。青白い光の刃が吹き上げる。むむ。オレの剣。さっきは、弱ってたけど、復活してきたな。
ーー 天破活剣。魔物を切り裂く魔剣。95%チャージ ーー
虹色に輝く世告げの鏡の声が、オレの頭に響く。
なるほど。やっぱり剣の力にも、エネルギー限界があるんだ。それでしばらく休めると復活する。そういうシステムなんだな。世告げの鏡。オレのお助け便利アイテム。役に立つぜ。今解説してほしい事は、他にいっぱいあるんだけど。これでよしとしよう。
シュウシュウ、
ズルズル、
ニュルニュル、
紫の草の大地を這って。
双頭大蛇、近づいてくる。赤い舌をチロチロと。2つのでかい頭を揺すりながら。うむ。見上げた執念だ。そういえば、蛇のように執念深いって言葉なかったっけ。なんだか聞いたことがある。獲物を追い詰めるその執念。よしとしよう。だが、ときにはあきらめも肝心だぞ。上には上がいる。剣士が2人になったら、どうなるか。お前考えてるのか。オレは考えることを放棄しているけど……いろいろ考えても仕方ない……その境地って意外と大事なんだ。
だが、双頭大蛇。あきらめない。あきらめるわけがない。ずりずり前進してくる。なかなか速い。獲物、ご馳走を前に昂ってるのかな。
オレは、剣を、翳してーー
「勇華!」
と、小さな蘭鳳院。
「焦らないで。麗紗が合図するから。それまで動かないでね。一緒に行くからね」
星を散らしながら輝く赤光聖剣を手にした天使の号令。
愛くるしくも真剣なその横顔。
従うしかない。
従うしか……ない、よね。
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