第164話 双頭大蛇《ツインヒュドラ》の倒し方って
「キサマもこれで終わりだ。このヒーローを幽世に呼び込んだのが、運の尽きだったな。覚悟しろ」
冷気と炎を吐き尽くして、ずるずると緩慢に動く双頭大蛇。
オレはしっかりと天破活剣を構え、息を整える。
あいつの2つの頭。両方とも同時に斬り落としてやろう。
左から横薙ぎに一閃。よし。それで終わりだ。
「うおおおおっ!」
オレは絶叫して、猛然と駆ける。双頭大蛇、四つの赤と青の眼でオレを冷たく睨んでいるが、ズルズルと緩慢な動きをすることしかできない。ふふ。やっぱりこいつは大したやつじゃない。完全に見切った。
「やーっ!」
でっかい敵の目の前で。オレは大地を蹴って跳ぶ。高さ十分。ヒーローパワー。跳躍力も、格段に上がってる。
ビュオオオオッ!
オレは予定通り。魔剣天破活剣を、左から横薙ぎに払う。青白い光の刃が伸びる。
ズォォッ!!
双頭大蛇の咆哮。
天破活剣の光の刃、双頭大蛇の左の首に食い込む。すごい手応え。両手にズン、とくる。
弾き返されるか!? 一瞬思った。
でも。
向こうの装甲より、こちらの武器の強度が勝っていた。オレの剣の青白い光の刃は、双頭大蛇の黒い鱗を斬り裂き、さらに、ドラム缶みたいに太い首の中を走り、肉を、骨を、容赦なく斬っていく。
ズォ、ズォ、
双頭大蛇の唸り声。どこか弱弱しく聞こえる。悶え苦しんでいる。
ズサーッ!
でかい頭。双頭大蛇の左の頭が落ちた。斬り落としたんだ。青い眼。最初から生気がない。今も変わらない。でも、もうオレを見てはいない。
ズーン!
落ちた頭。紫の草の大地が受け止める。土煙が上がる。
「まずはいっちょう上がり。これで終わりじゃないぜ」
オレは。横薙ぎにした光の刃。そのまま今度は右の頭の首へ。
ガーン!
光の刃、黒い鱗に激突。今度は食い込まない。オレはぶった切ろうと必死だが、刃の青白い光、弱まってるように思われる。
「エネルギー切れか?」
オの魔剣の力も、無制限じゃない?
首を一挙にに2つ薙ぎ払うのは、無理みたいだ。これだけでかいやつだからな。一撃じゃ厳しいのか。
「刃よ戻れ」
オレは一旦刃を収め、大地に着地。後ろに飛びすさる。
どうだ?
双頭大蛇。
ズォ、ズォ、と悶える。
紫の草地にゴロンと転がる左のでかい頭。ぐしゅぐしゅと、黒い煙を噴き上げ、崩れ、たちまち消えてしまう。
「剣の力が回復したところで、もう一撃だな。残りの首を切り落とそう。それで終わりの筈」
オレが思ったところで。
おや。
双頭大蛇に残った赤い眼の頭。空を見上げ、
ズォォォォーン!!
すごい咆哮だ。オレは思わず耳を両手で塞ぐ。なんだ?最後の悪あがきか?
しかしーー
「えええっ!」
オレは、目を疑った。
オレが斬り落とした左の首の付け根。そこが黒く盛り上がったかと思うと、ニュルっと。
また新しい頭が出てきた。さっきと同じ!
青い眼の頭。
なんだこりゃ。双頭大蛇完全復活。
いや、こういう展開。そりゃゲームや漫画だなんだで、よく見るけどさ。実際に目の前でやられると……結構頑張って首一つ斬り落としたのに……無駄だったの? ちょっと、いや、ちょっとじゃない。ガックリ感が。
ズォ、ズォ、
双頭大蛇、再生完了して、元気いっぱいみたい。体力とかエネルギーとか、別に減ってないのかな。ズルズルと、こっちに近づいてくる。気のせいか、さっきより動きが速くなっているような。
どうしよう。もう一度チャレンジ?やっぱり、ここは王道の “二つの頭を同時に斬り落とさないと倒せない” て、ことか。でも、今それに失敗したんだよな。何度もチャレンジすれば、成功するのか?
こっちの剣のエネルギーも、無制限じゃないこともわかってきた。こういう重要な事はもっと早く知りたかったんだけど。
ガンガン戦うのは危険だ。少し距離をとって、考えよう。
オレはバックする。なに、相手はノロマでワンパターンの攻撃しかできないやつだ。じっくり見定めて、作戦を考えれば大丈夫。
すると。
すいっ、と。
双頭大蛇が前進。黒い鱗に覆われた胴体をくねらせながら。なんだか速い。今までより速い。
もしかして。速く動こうと思えば動けるけど、今まで様子見してただけ? オレが後ずさったのをみて、怯んだ、こいつは弱いと思って、仕留めに来る?
あ、まさか。今の一撃で、オレの攻撃を見切ったとか、双頭大蛇、思っちゃってるの!? やつは、“勝ちは俺のもの”状態なの?
いかん。
オレは後ろを振り向く。
麗紗。
まずい。自信満々で。双頭大蛇が襲いかかってくる。
あの子を護らなきゃ。
「麗紗!」
オレ叫ぶや麗紗に駆け寄り、抱きかかえた。お姫様抱っこだ。
「キャッ」
麗紗、目をパチクリ。
あれこれ説明したりなんだりしている暇はなくて。
「逃げるぞ!」
オレは走り出した。
そういえば。
この前はビーチで、麗奈を背負って走ったな。今度は麗紗を抱っこして。
蘭鳳院姉妹とオレとの因縁って。




