第163話 ヒロインを護って
あ、そっか。
オレは瞬時に理解した。
麗紗は、ここがVRゲームの世界だと、当然思い込んでるんだ。
どうしよう。
ここで、
ーー 怪我したり死んだりしたら、それでおしまいルール ーー
について説明する?
いや。
そんなことをしてる余裕は無い。説明するのがいいのかもわからない。
「ダメーーーーっ!」
オレはとにかく叫ぶ。
「麗紗ちゃんは動かないで! ここはオレのターン。まずは見物してて!」
「なんでーーーっ」
麗紗、ぷーっと膨れる。膨れても可愛い。でも、可愛いからって言う事は聞いてられない。
「なんでもーーーっ! とにかくダメ!ダメだから、ダメ!ここ片付けたら、2人で楽しくゲームできるから! いいっ、動かないで! 絶対動くなっ!」
オレは血相を変えて怒鳴る。命のやりとりだ。高校生ナンパ師を相手にするのとは訳が違う。
麗紗、オレの剣幕に、ちょっとびっくりした様子。固まる。
いいぞ。お嬢ちゃん。いい子だ。そのままでいろよ。オレがちょちょいのちょいで、こいつを片付けてやるからな。
オレは、やっと双頭大蛇に向き直す。
双頭大蛇、まだ舌をチョロチョロ、息をシュワシュワさせている。ふう。こいつがノロマなやつで助かった。もっとも、状況がわからなくて、戸惑っていたのかも。
よし、行くぞ。今度こそ、本番。
オレは、天破活剣を構える。
「双頭大蛇、覚悟しろ!」
紫の草に覆われた大地を蹴って、前へーー
と、
シュオオオオオッ!!
双頭大蛇の左の頭が、大きく口を開ける。口には無数の牙が見える。オレが飛び込んだところを、一呑みにしようってのか。
フッ、
そうはいかないぜ。口をあんぐりさせているところ、頭を斬り落としてやる。が、双頭大蛇の考えは違った。
シュオオオオオッ!!
口から冷気を吐き出した。青白い巨大な塊。
あ、そうだ。ちゃんと世告げの鏡が案内してくれてたよな、こいつは炎と冷気を吐くんだ。
圧倒的な冷気がオレに迫る。避ける? いや、それはできない。
オレの後ろには麗紗がいる!
麗紗はヒーローじゃない。装備もない。無防備だ。なんであれ攻撃を食らったらひとたまりもない。
ーー 怪我したり死んだりしたら、それでおしまい ーー
「うおおおおおっ!」
オレの全身の毛が逆立つ。
しっかりと天破活剣を正面に構えて、両足を大地に踏ん張る。
とにかく受けるしかない。これで防げるのかわからないけど。
冷気の塊が、オレの襲いかかった。
◇
堪えてくれよ。オレは必死に祈る。もうそれしかない。
オレにぶつかる冷気の塊。凄い圧だ。ビュウビュウと押される。
でも。冷気は何とか弾けているようだ。青白い息の塊、オレの魔剣と長ランが受け止め、四散させている。わずかしか、冷たさは感じない。
オレの戦闘服、防御力結構高いみたいだ。
それに。
見よ。
圧は強い。が、オレは決して後ろに退がっていない。
フッ、
これがヒーローだ。
冷気攻撃が熄んだ。さすがに無制限には吐けないだろう。
すると。
今度は、赤い眼の頭がもたげてきて、
こっちの頭は確か炎を吐くんだよな。今度は炎の攻撃か?
予想通り。
グオオオオオッ!!
炎がオレをめがけ殺到。
ふふ。オレは余裕。来るなら来い。
前と同じく天破活剣を構えて。
炎の塊、オレを直撃。今度も結構圧は強い。でも、熱くはない。オレの魔剣と長ランが、バッチリ防ぎ、炎を四散させてくれている。
ハハハ。
オレ、結構強者なのかな。毎日鍛錬してるし、クラスの女子どもとの闘いで、知らず知らずにレベルアップしまくってたのかな。いや、まったく。魔物なんとより、クラスの女子どもの方がよっぽど手強いぜ。
炎の攻撃が熄む。
なんだ、もう終わりか。双頭大蛇、シュルシュルと2つの頭と尻尾を揺すっているが、こっちには向かってこない。
「終わりのようだな」
どうやら助かった。こいつがノロマでワンパターン攻撃しかできない奴で、助かったぜ。いくらヒーロー、強者であっても、ヒロインを守りながら戦うって、尋常じゃないんだな。まったく。これまでのヒーローたちはどうしてたんだろう。身の周りに防御力ゼロの人間がいたら、巻き込まないで助けるってほとんど無理だぞ。
ともかく、ここは。
仕留めに行こう。
そして、我がヒロイン、小さな蘭鳳院と楽しくゲームをする世界へ戻るんだ。
オレは天破活剣を構え、シュウシュウと、不気味な息を吐く双頭大蛇を見据える。




