第160話 現実《リアル》と仮想《ヴァーチャル》
「ねぇ、麗紗ちゃん、ちょっと何か食べていこう。今度はおごるよ」
アイスコーヒーを飲み終わったオレたち。オレが声をかける。少しはリードしなくちゃな。いろいろ、もてなされてばっかりっていうのも。
「わあ、嬉しい!」
小さな蘭鳳院は素直にオレの好意を受け取る。感じの良い子だ。
「何が食べたい?」
「ソフトクリーム!」
瞳をキラキラさせて。
オレたちは、フードスペースに移動し、ソフトクリームを食べる。
美味しそうにソフトクリームにかぶりつく麗紗。満ち足りた、無邪気なまなざしを、オレに向ける。
うぐぐ。
尊い。やっぱり尊い。麗奈もいろいろ尊いけど、この子も。
可愛くて目立つ。ずっとだけど、周りからチラチラ見られている。またナンパ師が寄ってこないよう気をつけなきゃ。美しすぎ尊すぎな蘭鳳院姉妹。
◇
「今度、どこ行こっか?」
ソフトクリームを食べ終えて。
「いよいよ、とっておき!」
麗紗が、胸を反らす。
「何?」
「VRゲーム!!」
小さな天使が、得意満面に。
「ここの、凄いんだよ!オープンする前からあっちこっちで話題で。麗紗も、絶対やるって決めてたの! これまでのVRゲームとは桁違いの現実感なんだって」
VRゲームか。オレだってやったことはある。
最新型VRゲーム。どんなのかな。楽しみだ。ワクワクしてきた。
最新型VRゲームのコーナー。さすがに行列ができていた。
「うわっ、大人気だね」
「ゲーム終わって出てきた人たち、みんな興奮してるよ。やっぱりすごいんだよ!」
やる前から、興奮しっぱなしの麗紗。行列順番待ちも全然苦にならない。キャッキャしっぱなし。
やっぱり無邪気な中学生なんだなあ。頬をピンクに染める天使。
ついに、オレたちの番が来た。
このレジャーランドの看板の最新型VRゲーム。これも、1組ずつ小さな箱の中に入る。音響とか、振動とかがあるんだそうだ。
麗紗、箱の中でキョロキョロ。
「うわー、凄い。これ、プレイする世界を、選べるんだよ。どれがいい? 麗紗、どれもこれもやりたくて、迷っちゃって、もうわけ分かんなくなっちゃった。勇華、決めてよ」
「え? 私が決めていいの?」
どれどれ。
オレは、電子表示メニューを見る。メニューも3Dだ。
SF、ホラー、現実世界、そして……
異世界ファンタジー。
ふふ。
これだ。これ1択。
最新型VRゲームの異世界ファンタジーが、オレの体験した現実の異世界ファンタジーに、どこまで迫っているか、試してやろうじゃないか。
「異世界ファンタジーで」
オレは言った。
麗紗、頷く。
「じゃ、ゲームスタートするよ」
オレたちは、ヘルメット型の端末を、頭にすっぽりと被る。
これでVRゲームの世界に接続。
「ドキドキだね」
と、麗紗。
「旅立ち」
と、オレ。
その時ーー
なんだ?
急に、
ぐわん、ぐわん、
周囲の空間が、歪む。真っ白になって。
うわ、これは。
オレに馴染みの感覚。
頭から血の気が引いた。
これ、絶対ゲームじゃないやつ。
異世界幽世、黄泉の国がオレを呼んでいる。
引っ張り込まれる!
「どうなってんだ?VRゲームが本物の異世界への扉なの?」
オレもさすがに混乱。
でも、
ぐわん、ぐわん、
無情な空間の渦、オレを捉えて、異世界幽世へと、引きずり込んでいく。止められない。
もう、いろいろ。
ぐるぐるぐるぐる。




