第158話 天使の吐息と抱擁
「キャーっ!」
麗紗がオレに抱きついてくる。
お化け屋敷。3D立体映像の最新型。通路歩いてるだけで、いきなりガンガンお化けだモンスターだが、襲ってくる。骸骨だ、死神だ、吸血鬼だ、頭巾被った幽霊だ、ゾンビだ、のっぺらぼうに、首なしのなんちゃら。いろいろあれこれ。もうごちゃまぜで。いや、なかなか良くできてるぜ。平板な絵じゃなくて、ちゃんと立体で動きもある。のっぺらぼうとにらめっこ。一体どうしたらいいの!?
怖いというか、面白いな。現実の魔物と遭遇したオレからすると、なかなか楽しい。
で。
「勇華ーっ! 助けてーっ! 怖ーい!」
オレにやたらとしがみつく“ 小さな蘭鳳院 ”
怖がっているようには見えない。とにかく抱きついてキャーキャーしたい。周りのカップルだなんだも、みんなそうだ。こういうところじゃそうするもの……でも、抱きつくのって、普通女子と男子のカップルだよね。少なくとも、オレは女子グループでお化け屋敷だなんだ行っても抱きついたりはしなかったけどな。
「キャーっ!」
絶叫マシン状態。あっちもこっちも。まぁ、こういうのも楽しいな。
楽しい……それだけじゃなくて。
麗紗にくっつかれて。
麗紗の髪が、サラサラと、オレの頬を撫ぜる。
うぐぐ。
なんだか、少し、
ドキュッ、
蘭鳳院の姉妹と、オレは何かとくっつく宿命にあるんだ。それに。“ 小さな蘭鳳院 ”もいい匂いだな。姉とはちょっと違う。愛くるしさ全開。匂いだけじゃなくて、その吐息。天使の吐息。熱。強い熱と光を。ミニ太陽。やっぱりミニ太陽だな。ずっとくっつかれていると、クラクラする。やばいぜ。天使の吐息と抱擁。
落ち着け。オレたちはもう風呂も一緒に入ったんだし。今日、初めて出会った設定にしては、進展が早すぎるけど。これが天使モードと言うやつなんだろう。
◇
「次、行こー」
3Dお化け屋敷を抜けたオレたち。麗紗がオレを引っ張る。もうずっと手を握ったまま。
「今度は音ゲーしよ! 3D音ゲー! ねー、これ、2人で対決できるんだよ。やってみようよ」
音ゲーで3D? なんだ?
オレと麗紗、小さな箱に入る。
「いっくよー! 絶対負けないからーっ!」
麗紗がぴょんぴょん跳ねる。
3D音ゲー。ゲームスタート。
賑やかな音楽が響く。要するに、音に合わせて、どんどん出てくるカラフルな立体映像にタッチしていく。それがポイントになる。ポイントの取り合い。そういうゲームだ。オレと麗紗、向かい合って。
よーし、やってやるぜ。オレは勝負事となると、絶対負けたくない。ましてやこれは身体能力が決め手だ。オレの優位を見せつけてやるぜ。ヒーローパワー全開!
オレは必死に体を動かす。音楽に合わせてふわふわピョンピョンする○や□ や星形のカラフル立体映像を追い回す。なめるなよ!
でも、○ □星形ども、ふわふわぴょんぴょん、すり抜けて、なかなか捕まえるのが難しい。何とかタッチしようと、オレは全力全開だけど……
「あはは、勇華、もっとリズムに乗らなきゃ、だめだよ」
麗紗、ぴょんぴょん跳ねながら。着実にポイントをとっている。いい動き。妙に音感のいい子だ。
うぐぐ……
なんの! オレはヒーロー! 身体勝負で中学生に負けたりする事はありえん! オレは○ □星形どもを目掛け思いっきり両手を広げて伸ばしーー
「ああっ!」
麗紗がオレに手を伸ばす。
ムギュッ!!
天使の可愛い手が、オレの胸を、思いっきり掴む。
グヒャッ!
オレは赤く。
麗紗、
「あー、失敗。ポイント取り損ねちゃったーっ」
と、無邪気な笑顔。愛くるしい天使。
おい、絶対狙ってただろ。なんだ。この子は? 女子の胸掴むのがそんなに好きなのか?
今日は女子モードだけど……だからって勝手に胸触っていいってもんじゃないんだぞ!
狭い箱の中。音と色彩の溢れる空間。
オレは必死にぴょんぴょん跳ね回り、手足をバタバタさせて。
小さな天使と、ぶつかったり、くっついたり、掴まれたり……もう……
麗紗の得意満面の笑顔以外、何も見えなくて。




