第157話 永遠にエモくて
オレの道。
宿命の道。
男の坂道を上るヒーローの道。
それはーー
孤高の道。
長ランをたなびかせながら。
ただ1人で。
女子などには目もくれぬ。
最後の硬派の道。
そして。
助けを求める女子がいれば、何があろうと、どんな困難があろうと、助ける。我が身を犠牲にしてでも。
それがヒーロー。
間違いなく。
で。
◇
「ねえ、ねえ、麗紗、行きたいところがあるの。勇華と行けて、うっれしーい!」
しっかりとオレの手を握っている。
蘭鳳院麗紗。
小さな天使。“ 小さな蘭鳳院 ”
オレたちは、一緒に家を出た。
お出かけ。まだ、午後2時だ。半日遊べる。
オレは午前中と同じ、白い花柄ブラウスにピンクのフリルスカート。
麗紗はセーラー服。五月晴れの光にまぶしく。
5月の連休だしな。ぼっちで、家でヒマしてるより、いい……のかな。
オレは考える。いや、考えたって無駄だ。それはこれまで散々証明済みだ。
流れに身をまかせよう。
“これでいいのだ。これが正しいのだ。うまくいっている。すべて順調だ。問題はなしモード”
これだ。これで決まりだ。
「どこに行きたいの?」
オレは“ 小さな蘭鳳院 ”に訊く。言う通りにしよう。それでいいんだ。この子とも、今日1日限りだしな。勇華なる人物は、永遠にこれで消えるんだ。
「エターナル! 永遠!」
麗紗が元気いっぱい叫ぶ。
グホッ
なんだろう。この子。オレの心読めるのか?
「その……何?」
「エターナルエモーショナルランド! 今、すっごく注目スポットなんだよ。勇華、知らないの?」
「うん……知らない」
ヒーロー男子高校生になってから、レジャーランドとか、流行のナントカカントカ、あまり調べてない。行くことなんて、ないだろうと思ってたし。
「そっか。ごめん」
麗紗はいう。
「勇華は、ぼっちで、外に出るのも怖いんだよね。大丈夫。今日は麗紗がついてるから」
麗紗、ウキウキとしている。連休に遊びに出かけるんだから、それでいいんだけど。
うん? 待てよ? 勇華が、外に出るのも怖いとか、そんな話したっけ。麗紗、勝手にオレの設定増やしているな。ま、ぼっちの子を外に遊びに連れ出してくれるんだ。この子は、いい子なんだろう。
「エタエモだよ! すっごく楽しみ。麗紗も初めて。ホントに楽しみ」
麗紗、はしゃいでいる。
エタエモか。よかろう。
今日は女子として、思いっきり弾ける予定だったんだし。
◇
「うわー、すっごーい!」
麗紗が叫ぶ。
エタエモに着いた。東京の都心。
完全屋内型の、レジャーランド。ものすごい人だ。大混雑。何しろ5月の連休だからな。しかもオープンしたて。賑わっている。賑わってなきゃ、おかしい。
それにしても。この爽やかな青空の下、完全屋内型ってのは、どうなんだろうな。オレは外でキャーキャー騒ぐタイプだったから。
でも、楽しそうじゃないか。最新型のレジャーランド。オレもこういうのは結構好き。中学の時は、ずっと部活、遊びは外、たまに大型レジャーランドに行くくらいだった。せっかくだから、楽しもう。
混雑の中、少し並んで、入場する。
ところで。
麗紗、ずっとオレの手を握っている。ここは、カップル、親子連れ、女子同士、男子同士のグループ、若者が多い。みんなワイワイキャッキャ。ワクワク感が、そこら中に。でも、女子同士で手を握っているのは、さすがにあんまり見かけない。
なんだろう。天使の手。すべすべしてて、すごく気持ちいいことはいいんだけど。オレを絶対離したくないという、強い意志を感じる。
「ねー、まず、どこ行こっかー」
麗紗、可愛い天使は、辺りをキョロキョロ。アトラクションの案内を見ている。
「うーん。麗紗ちゃんに、任せるよ」
「そっか。勇華、こういうところ、苦手なんだよね?じゃぁ、任せて、麗紗が、とびっきり、楽しいところ、連れてくよ」
別に苦手とは言ってないけどな。どんどん設定が増やされていく。
「あ、これ、どーだろ!」
麗紗が、歓声。
ん? なんだ?
「お化け屋敷!」
麗紗が誇らしげに叫ぶ。
お化け屋敷か。問題ないぞ。所詮造り物じゃないか。
「ふふ」
麗紗が、笑みを。
「ここ、フツーのと違うんだよ」
「どう違うの?」
「3Dでね。立体映像のお化けが、どんどん襲ってくるんだって」
「へー、面白そうだね」
なんだ。そんなもんか。オレは現実の魔物と戦っているんだぜ。よし。お化け屋敷ごときで、動じないところを、見せてやろうじゃないか。
お化けだ魔物だより、女の子の方が厄介だってこともあるけどな。
オレは思う。
小さな天使に手を引かれながら。




