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第153話 天使の悩み



 お湯、ちょっと熱いかな。


 沸かし加減が。


 頭がトロトロしてる……いや、沸いてるのか。まぁ、いいや。


 うーむ。こういうのも、いい湯っていうのかな。



 湯船の中。


 愛くるしい天使。“ 小さな蘭鳳院(りさ) ”


 オレに今にもくっつきそうで。


 天使。


 ピンク色に染まったすべすべの肌。濡れて肌に張り付く黒髪。そして、オレをじっと見つめる、その瞳。


 姉の麗奈(りな)と同じだ。思わず吸い込まれそうな。いや、もうオレは、とっくに吸い込まれているのかもしれない。


 そして、その微笑み。この子、ずっと可愛い笑顔をオレに向けているな。姉とは大違いだ。上から目線じゃないし、つっけんどんでもない。うむ。愛くるしい。これぞ天使。


 この子、オレに友達になろうって言ってくれて、カレーライス作ってくれて、一緒に風呂に入ってくれて、いやーすごくいい子じゃないか。

 

 天使なんだぜ。天使がここまでよくしてくれるんだ。なんだかあれこれ考えちゃってたオレ……バカみたい。大体オレが考えるなんてするとろくなことがないんだ。考えたって何にもならねえ。いきなり異空間に引っ張り込まれて魔物(モンスター)と、戦う宿命なんだし。


 それが、天使との風呂。ハハハ。こういうことがあったっていいじゃないか。

 

 あれこれ考えるのはやめよう。そもそも風呂なんだ。風呂ってのは、あれこれ忘れて、汗を流して、さっぱりして、それでいいんだ。


 いやー気持ちいいな。


 お湯のせい……それとも、他のなにかのせいなのか……よくわからないけど、こんなに体がカッカするのって初めてかもしれない。


 体の芯から……お湯を沸かしてるのは、オレなんじゃないかと思うくらい、熱い。ハハハ。まさか。


 “ 小さな蘭鳳院(りさ) ”。麗奈(りな)そっくりで、しかも愛嬌たっぷり。


 尊い。


 すごく尊い。


 もう。


 なにされても。



 抵抗できませーん!



 「ねえ」


 麗紗(りさ)が言った。


 「ほしいの」


 麗紗(りさ)、ちょっとうつむく。なんだか恥ずかしそう。


 うん。なんだ?欲しい?いいよ。なんだって。


 オレはヒーローだ。女子に頼まれて断るなんてとんでもない。なんだってやってやるぜ。絶対に。何があろうと坂道を上っていく。それがヒーロー。オレはそういう男なんだよ。あはは。天使に抵抗なんてできるわけないだろう。



 「これ、ほしい!」


 麗紗(りさ)がいきなり……オレの胸を両手で掴んだ! オレのCカップの胸を。



 ムギュギュ!


 

 「うぎゃああっ!」


 さすがにオレのトロトロ気分も吹っ飛ぶ。でも、全然体は動かない。動かせない。


 「ちょ、ちょっと!」


 うろたえるだけ。今のオレ、ものすごく間抜けな顔してるだろうな。


 うふふ、と麗紗(りさ)


 「麗紗(りさ)、全然、胸がないから」


 うむ。確かに。麗紗(りさ)の胸は平ら。かわいい天使っぽくて、それはそれでいいと思うけど。


 麗紗(りさ)の考えは違う。


 「お姉ちゃん、麗奈(りな)の胸、すごく大きいの」


 うん、知ってる。何度も確認した。


 「麗紗(りさ)も、絶対あーなるんだって思ってたんだけど、全然大きくならなくて」


 なるほど。姉と妹の大きな違い。サイズの違いか。


 「これから大きくなるかな?」


 麗紗(りさ)は、まじまじとオレを。


 うーむ。こういう時、なんて言えばいいんだろう。まだ中学生だから、発育の余地はあるんだろうけど。あんまりいい加減なことを言うのはーー


 「あの、胸のことなんて、そんなに真剣に気にする必要ないよ。麗紗(りさ)ちゃん、君は本当にいい子だから。胸とか関係なく、麗紗(りさ)ちゃんのこと、みんな好きになる」


 少なくとも、なんの留保もなく、オレは麗紗(りさ)が好き。好きっていうのは、天使との風呂がサイコー、もう何も考えられないくらい、そういう意味なんだけど。


 「もう」


 麗紗(りさ)は、ぷーっ、と膨れる。


 「勇華(ユウカ)麗奈(りな)みたいなこと言うんだね。麗紗(りさ)の悩み、誰もちゃんと聞いてくれないんだから」


 “ 小さな蘭鳳院(りさ) ” 姉との違い。麗紗(りさ)の方が、ややふっくらしている。麗奈(りな)みたいに、ダイエットカロリー制限してないからな。でも、顔立ち。目鼻立ちとか、本当に同じ。顎のラインも。


 麗紗(りさ)のピンク色の裸身。これで、もっと背が伸びて、胸も大きくなればーー


 オレは、麗奈(りな)の裸身を想像してしまった。


 あの冴え冴えしい美貌の少女と、一緒に風呂に入ってたら。


 スレンダーな裸身。でも、その胸は、麗紗(りさ)よりずっと……



 ああ、もう……


 ダメだ、オレは……



 ブクブクと、風呂に沈む。


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