第152話 迫り来る天使
ちゃぽん、
白い湯気の中。
オレは湯船に、体を沈める。その、まるっきり、女子のまんま、素っ裸で。当たり前だけど。
うぐぐ……
自分の家の風呂なのに。こんなにドキドキというか、ガタガタするなんて。
脱衣室で。麗紗のほうは見ないで、ササっと脱いで。それでシャワーを浴びて、すぐ湯船に飛び込んだ。あれこれするのを見られるのは、なんだか……まずいような気がして。何がどうまずいのか、それはよくわからないけど。
「先に入ってるね」
風呂場に入る時、チラッと、麗紗の方を見た。
麗紗、セーラー服を脱いで、ブラジャーのホックに手をかけているところだった。
なぜか、ドキッとした。女子の着替えなんて、さんざん見てきたのに。
麗紗、いつもの愛くるしい会釈で、オレを。
服脱ぐ仕草も、優雅で気品があったな。
湯船に浸かって、オレは思う。
そういうところは完璧。姉と同じ。そして、オレを追い込むのも、完璧。それも、姉と同じ。ありえない姉妹だ。
そういえば麗奈の下着姿は見たことなかったな。当たり前だけど。
麗紗、小さいけど、見た目は麗奈そっくり。高級そうな下着だった。麗奈もああいうの身につけてるのかな。下着にも気品が。
ドキュッ!
なんだ。なんで胸の動悸が。こんなの何でもないぞ。
「入るね」
麗紗が、浴室の曇りガラス戸を開ける。
うおっ
麗紗は、体をどこも隠さず、入ってくる。またまた優雅でお行儀の良い仕草。小さい体をシャワーで流す。
“ 小さな蘭鳳院 ”の全裸。
うぐぐ……
シャワーを終えた麗紗。オレのすぐ横で、湯船に手を入れる。
「お湯加減、ちょうどいいかな? 勇華、どう?」
「うん……いいよ。すごく」
「ホント!? よかった。じゃあ、私も入っちゃお」
麗紗。白くて、小さいからだ。入ってくる。
湯船の中に。オレは、目を伏せる。
◇
ドキドキが。
湯船につかって、さらに心臓が激しく。これって体に良いのかな。いいわけないよな。魔物と遭遇しても、こんなにガタガタしないのに、何なんだろう。
オレの家の湯船。普通サイズ。だから、2人一緒に入ればそれでいっぱい。狭い。だから当然、
すごく近い!
オレは膝を抱えて、なるべく小さくなっている。
目の前の麗紗。
小さくて白い裸身。どこも隠さず。可愛く湯船の中に座っている。
ミニ蘭鳳院だ。見た目は麗奈とそっくり。右側に編んで垂らしていた髪。今は、解いている。ショートなので束ねてはいない。姉と同じ艶やかな黒髪から、雫が垂れている。白い肌が、湯の中でピンクに染まっていく。
オレは、ゾクっと。
麗奈の裸。スマホからの誤送信で、ぼんやり見えた。いや全部じゃないけど。鎌倉の時も、チラッと見えたんだけど。
今は。
麗奈と同じ顔で声もそっくりの麗紗。どこも隠さず、手を伸ばせば届くところに。そういえば、誤送信の裸画像、あれを撮影したのも、麗紗だっていってたよな。
蘭鳳院。圧倒的な蘭鳳院感。素裸の蘭鳳院。オレにとっていったい何なんだろう。
麗紗が、オレに手を伸ばす。
おい、何をするんだ。
麗紗、オレの手を握る。湯の中で。とにかく手を握るのが好きな子なんだな。
「勇華、恥ずかしいの?ずっと下向いてる」
うん。恥ずかしい……のとは、ちょっと違うけど。なんだかジロジロ見ちゃいけないような気がする。麗紗は、じーっとオレのこと見つめてるんだけど。目線が合うと、オレは思わず目を伏せちゃう。
麗紗、オレの手を握ったまま、前に身を乗り出してくる。
うぐ、
湯船の中だ。逃げ場がない。圧倒的な蘭鳳院感にオレは圧されて。
「こわくないよ。大丈夫だからね。勇華、でも、なんだかんだ、麗紗の事は大丈夫だね。一緒にやっていけるよ」
大丈夫……ではありません。色々と。一緒にやっていく? これからいったい何をどうしようっていうんだ?
麗紗、ふふ、と笑う。
甘い吐息が、オレの顔にかかる。本当に距離が近い。クラクラする。
「勇華、なんだか、初めて、女の子と一緒に、お風呂に入る男の子みたい」
グホ、
この子、やっぱり何かを見抜いているのか。まさか!
「その……なんで?」
オレは一応訊いた。
「うーん」
麗紗は、オレと距離を縮めたまま、小首を傾け、
「なんだか、勇華の恥ずかしがり方、すごく可愛い。彼氏にするなら、勇華みたいな子がいいな」
グホ、グホ、グホ、
うっきゅーん!
愛くるしい。天使みたいに。本当に本当に、超絶の美少女。
顔も声も麗奈と同じ。
オレは……迫られている。
湯船の中。
もう。
沈没しそう。




