第150話 天使のエプロン
「おいしい」
オレは言った。湯気の立つカレーライス。確かにおいしかった。ちょっと辛口だけど。まぁ、せっかく作ってもらったんだし、ちゃんと言うことは言わないと。オレはきちんとしてるんだぞ。
「よかった!」
麗紗が瞳を輝かせる。
「どんどん食べてね。おかわりもあるよ」
オレはとりあえず食べる。麗紗も元気に食べる。姉と違って、ダイエットカロリー制限はしてないようだ。
食べながら。オレたちは、時々目が合う。何しろ正面で向き合っているし。麗紗は、ニコッとする。オレも笑顔で応える。
本当に仲良しの友達。姉妹みたいだ。
ううむ。こんな可愛くて、気の利く妹がいるのも、いいかな ーー いや、そんなこと、言ってる場合じゃない! これはかなりなピンチ? 冷静になれ!
カレーを食べながら。やっとオレの頭は少しは動き出す。ちょっと動いたかと思うと、どうせまたブッ壊されるんだろうけど。
どういうつもりなんだろうな。勝手に人の家に上がり込んで。ただ、友達になったオレを気にして、元気付けようと? ものすごく親切、親切の押し売りしちゃう子なのか? 本当に、ただ、親切で優しくて、行動力のありすぎる、それだけの子なのか?
うむ。万一、この子が幽世の魔物で、オレを罠にハメようっていうのなら、すぐに天破活剣でぶった切ってやる。ヒーローをナメるなよ。
オレはヒーローなのだ。女の子の1人や2人でジタバタしないぜ。ここは……流れに身を任せよう。腹が減っているところに、カレーが出てきた。休日一人ぼっちで、ヒマなところに、可愛い女の子が来てくれた。そんなにまずい展開じゃないかも……しれない。
オレはいろいろありすぎて、“とにかく、これでいいのだ問題ないのだモード“ に。あれこれ考えても、結局こうなる。それしかないんだ。
目の前の麗紗、元気にカレーを食べている。
本当に麗奈とそっくりだな。オレは思った。ただ、カレーを食べてるだけなんだけど、仕草が優雅、気品がある。こういうところの躾けはしっかりしてる。やっぱり別世界だなぁ。違う星の、美人姉妹。
でも、美人姉妹、顔立ちはそっくりだけど、雰囲気は違う。姉、麗奈の方は、この世の物とは違う別世界感を、いつも漂わせている。冷たいと言うわけじゃないけど、どこか、手を触れちゃいけないような、そんな空気。いや、オレはなんだかんだ、麗奈に触ったり、くっついたり、散々しちゃってるけど。
妹、麗紗のほうは、愛嬌いっぱい。本当に愛くるしい。とにかく、上から目線でないところがうれしい。やっぱり女の子はこうでなきゃな。姉とは違ったやり方で、オレを振り回してるけど。元気いっぱいで、すごい熱というか、オーラを感じる。そうだ。太陽。ミニ太陽。太陽ーー抵抗できないよね。
オレのヒーロー人生に、妙に関わってくる蘭鳳院の姉妹。姉と妹を、オレは比較していた。
「どっちが好きなの?」
ブホッ、
麗紗、しっかりオレの目を見つめている。なんだ? 食べてるところ急に。どっちが好き?麗奈と麗紗。そんなこと言われても。どっちも、すごく美人で、いつもオレをーー
「辛口と甘口。今日はちょっと辛口なんだけど。勇華、これで良かった?」
あぁ、カレーの話か。びっくりしたな。それにしても、なんで、姉妹のことで、オレがガタガタしなくちゃいけないんだ?
「おいしいよ」
オレはいった。
「私、どちらかと言うと、甘口が好きだけど、これでも充分おいしい」
「そうなんだ。麗奈が辛口が好きだから。今度は、甘口にするね」
「あ、これでも充分おいしいよ」
麗奈。そういえば、辛いのが好きだったな。そのせいで、オレは酷い目にあったんだ。
オレたちは、カレーを食べ終わる。とりあえず、昼飯が済んだ。順調……なのか。
麗紗は、例によって、テキパキと、洗い物後片付けをする。こういうところはちゃんとしてるんだ。もっと本質的な部分の躾け、教育を、蘭鳳院家はちゃんとするべきだ。
片付けを終えた麗紗がテーブルのところに。まだ、エプロンをしている。そういえば、このエプロン、家にはなかったはずだ。
「このエプロン、どうしたの?」
「あ、これ?」
麗紗は大得意で、エプロンを持ち上げる。
「カレーの材料買いに行った時、見つけたの。可愛いでしょ! つい買っちゃった!」
うん。仔猫のエプロン。
可愛い。いうことはない。
麗紗はエプロンを、外す。
「じゃぁ、次は」
麗紗がいう。
「勇華、お風呂、沸いてるよ」
風呂? 至れり尽くせりだな。なんだか何でもしてもらって。優雅な生活。こういうのも悪くないかも……
「一緒に入ろう」
は?
へ?
目の前の天使。愛くるしい麗紗。キラキラした笑顔。ミニ太陽。絶対逆らえない。
で、今なんて言った?
風呂に?
一緒に入ろう?




