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第15話 試着室の決斗



 やっと、化粧品売り場に着いた。


 オレは例の香水を探す。


 あった。


 目立つところに山積みになっている。今売り出し中の人気商品。


 「さぁ、満月さん、あったよ。さ、買って。お金はオレが払うから」

 

 オレは、いろいろな感情を押し殺しながら、とにかく礼儀正しく言う。


 やっとここまできた。あとちょっとの辛抱だ。耐えるぞ。ヒーローにも耐える時間は必要だ。一応、騒動の発端を作ったのは、オレなわけだし。


 満月は、うんうん……と首をかしげている。


 おや? 別の方見てるぞ。なにしてるんだ。


 あの、早く香水を、


 満月。


 イライラするオレをよそに、化粧品売り場の隣の、レディースファッションのエリアを見ている。危険な予感がする。とにかく、早く香水を……


 満月がいった。


 「ねぇ、今日、せっかく勇希と買い物に来れたんだから、やっぱり特別なものを買おうと思うの。二人の記念になるような。それがいいよね」


 は?


 よくありません。


 なんでそういう話に……


 記念? 記念てなんの?


 オレが委員長に殴られた記念? あんまり思い出したくないんだけど? 


 そもそも香水一気飲みして、まあ、オレが悪かったけどさ、ひどくむせかえしちまったし……すっごく良くない記憶なんだ。記念にするにしても、悪い思い出の記念だな。記念とか別にそういうのじゃなくていいんで……あの……香水……とっとと買って。


 満月は片手を自分の頬に当ててこっちを見ている。何か企んでいる目だ。

 

 「ねぇ、あそこ!!」


 満月の目が光る。そして、満月の手を掴んでいたオレの手を、逆に握り返す。


 オレが、あっと思う間もない。満月がオレを引っ張る。


 なんだなんだ。


 なにしてるんだ。いきなり逆転だ。攻守逆転だ。この技はなんた。


 いったい、なにしやがる


 また、オレが、ぐいぐい引っ張られていく。抵抗できない。


 連れていかれたのは……


 うぐ……


 下着売り場。もちろん女性ものだ。背筋が寒くなる。


 「ね、私、そろそろ下着買おうと思ってたの。高校生活始まったし、気分上げていかなきゃ。ちょうどよかった。勇希、選んでよ」



 ぐわあああああん!



 頭が、クラクラした。


 いったいどこまで行くんだ。この先に何が待ってるんだ……マムシで留めておいた方が、まだ、よかったのかもしれない。


 下着? ……下着ですか? 女子の? ブラジャーとパンツ?

 


 新学期。高校1年生の春。


 気分上げるために、新しい下着買うってのは、あると思うけど……


 記念品? 二人の?


 オレが、委員長に殴られた記念品? それが満月の下着?


 いや……オレはもちろん……女子の下着買うのは別に慣れてる……当たり前だ……ずっとそうしてきたんだし、今だって買ってるけど……


 えーと、でも、オレ、今、男子なんだよね。


 で、女子に頼まれて、女子の下着を選ぶ?


 オレ、女子の下着とか選ぶの慣れてるんです。得意なんです。じゃあ、さっさと選んじゃいますね、任せてください……とかいってみる?


 いや……ちょっとまずいんじゃないのか……


 ちょっとじゃない。


 ありえねぇ!!


 男子が女子の下着を選ぶ。


 それって、普通に、もうそういう関係って、認めちゃうってこと?


 それはない。認めるもなにも、絶対そういう関係じゃないし。オレたち出会ってまだ一週間だし。早すぎるよ。


 とにかく……ならない、ならない、無理、無理、無理、


 ああああ、もう……

 

 オレはいった。


 「満月さん、オレは男子で……女子の下着とか全く判らないから。申し訳ないけど満月さんが好きなものを選んで。オレが金を払うんで。それでいいでしょう」


 もう必死! 早く解放されたい。脱出しなくちゃ。


 満月は、意外にも


 「うんうん。じゃあ、勇希がそういうなら。まあ、見てもらうだけで、いいよね」


 素直だな。  


 さすがに、出会って1週間の男子に、下着を選んでもらう。そのやばさは、満月もわかってるんだよね。そうだよね。


 え?


 今、なんて言ったの?


 見てもらう?


 なにを?



 ◇



 オレは、試着室の外にいた。


 中では、満月が下着をいろいろ試している。


 満月は、自分であれこれを選んで、試着室の中に入った。


 満月の下着選び、オレは、なるべく見ないようにしていた。満月の下着に興味津々、そんなこと、絶対に思われたくない。


 思われたら、やばい。


 オレは、とにかく硬派だ。男修行してるんだ。ヒーローの道を。硬派ってとこ、しっかり、みせつけてやるからな。


 オレは女子などに目もくれない!


 くそっ!


 今。


 オレと満月の間にあるのは、試着室のカーテンだけ。


 オレは、もちろんカーテン1枚隔てて女子が着替えしていても、動揺するわけない。


 満月よ。


 いくらオレに揺さぶりをかけても、無駄だぞ。


 「ねえ、勇希も中に入ってよ。一緒に見てよ」


 試着室のカーテンの中から、満月の声。


 なにいってるんだ。



 フッ、



 お嬢さん……ついに、その手できたか……


 オレに抱きついたり、マムシエキスちらつかせたり……とうとう行き着くところまで、行くようだな。


 一緒に下着の試着?


 まあ、普通の男子なら、飛びつくかもしらんけど。


 オレはそもそも女子……だから、そんなので釣られるわけない。それに男の修行、ヒーローの修行を積んでるんだ。


 ナメるなよ!


 硬派というものを、よく教えてやろうではないか。


 オレは、つとめて平静を装って、


 「あの、満月さん、別にオレは……外にいるから。女子との距離感てものをオレは心得てるんでね。さ、早く下着を選んじゃって……」


 いきなり、カーテンの隙間から、手が出てきた。そして、オレの頭を掴むと、カーテンの中、試着室の中へ引きずりこんだ。


 うわわっ!!

  

 なに! なに! なに! なにすんの!


 これ、なにっ!?


 いや、なにするもなにも、カーテンの中に、頭を突っ込まれたオレの目の前には、満月。


 そして、満月は、


 うおおっ!!


 下着姿!


 ブラジャーとパンツだけ!


 上下とも、真っ赤な網ブラ網パンツ。


 セクシー全開。


 なんだこりゃ。


どうしても、隠さなきゃいけないとこだけ、隠してる……って、いうか……


 おい……なに考えてるんだ?


 おまえ、高一だよな。 15歳だよな……オレと同じ年齢……


 いきなりここまでやるのか?


 高校デビュー?


 それとも、中学からこういう感じだったの?


 オレの周囲の女子、おしゃれに興味あったり、過激なのにも興味あったりしたけど、さすがにここまでの子は、いなかったぞ。


 真っ赤な網下着……


 いや……それじゃない。オレがパンチを食らったのは、オレをぶちのめしたのは、過激な下着……じゃなくて……


 ボディ。


 そう、オレにみせつけている満月のボディ、そのもの。


 それが凄いんだ……本当に……


 満月は長身。


 そしてすごいダイナマイトボディ。


 うおっ!!


 高一なんだよね。でも、その身体。胸は… FかGか?


 主張しすぎている! 


 盛らなくてもすごいけど、さらに寄せ上げしている。主張の上にまた主張。そして、腰も尻も、しっかり締まって、しっかり出てて、もうはち切れんばかり。なるほど、これなら、誰かに、みせつけたくてしょうがないわけだ。


 見せつけなきゃ。


 そういうことか。


 でも、なんていうか、高一、高一15歳……えーと、オレと同じ15歳女子なんだよね?


 ここまで行っちゃうの?


 盛って盛って飾って飾っている女子、満月。でも、満月が1番見せつけたいところは、隠さなきゃいけない。


 それで、フラストレーションが溜まっているのか?


 いっぱい飾って、いっぱい盛って、でも、本当に見せびらかしたいものは、飾らなくても盛らなくても……とにかくすごい。


 ゴージャス美。


 元気美。快活美。


 健康美。


 主張しすぎるの美。


 溢れかえらんばかりの美。


 はち切れんばかりの美……


 うーん……


 その、オレはもちろん、これまで散々女子と一緒に着替えしたり、中学の部活の合宿では、当然ながら女子みんなで一緒に風呂に入ってつっついたり触ったりしてきたから、女子の下着や裸で、なにかを感じるって事は、ありえないんだけど……


 満月、ぶっとんでいる。

 

 この圧倒感……さすがに……パンチが強すぎる……


 この子は……満月は……すぐにみつかるだろう。世間が放っておくわけがない。


 いや、満月が、自分で自分を放っておくわけがない。


 スカウトされるだろう、それとも自分で売り込むのかな。モデルかなにかに。


 モデル。


 はい、笑って。はい顎を引いて。耐えられるかな。我慢できるかな。


 満月は主張が強すぎる。


 だから、そうだ、満月がやるのは、そうだ、SNS。インフルエンサー。うむ。インフルエンサーというやつだ。


 みんなやっている。


 満月もやるだろう。自分で自分をアピールする。誰かに指示されるんじゃなくて。


 とにかく、自分を見て欲しい。自分をいっぱい盛って、いっぱい飾って、みんなに見て欲しい。


 どんどんアピールしたい、アピールするのが仕事。みんなにみてもらうのが仕事。これだ。これをするだろう。


 あー、でも。


 オレは満月が世に出るのは、全然賛成なんだけど、オレを巻き込まないでほしい。


 たぶん、満月に巻き込まれたがるやつは、世の中にごまんといるはずだから。そいつらの相手をしてやって欲しい。どんどん、いろいろ投げてやってほしい。


 みんな喜んで投げ銭してくれるだろう。需要と供給。うん、それでいいんだ。まあ高校生やそんなに過激なことはできないだろうけども……利用規約ってやつがあるからな。


 いいことだ。


 規約だルールだがなければ、いったい、どうなっちゃうんだろう。どんどんエスカレートして……どこまでも……取り返しのつかないことになるだろう。



 まてよ。 


 今のオレの状況。


 そんなこと考えてる場合じゃない。


 オレは、下着姿の満月と対面してるんだ。オレを見下ろす満月。まだオレの頭を掴んでいる。

 

 もう自信満々。


 うっとりとしている。自分自身に。そりゃそうだろう。


 オレに自分をみせつけている自分に、うっとりとしている。


 見て欲しいらしい。セクシー下着姿。なんでオレに見て欲しいのか、その辺がよくわかんないんだけど。


 だが、こうしては、いられない。


満月は満月、オレはオレだ。


 「満月さんっ! やめて」


 オレは声を上げた。


「いきなり、なんだよ! いきなりじゃなくても、オレ、こういうことして欲しくないから!!」


 オレは、満月の腕を振り払い、試着室の外へ。


 うぐぐぐ、 


 頭が、クラクラする。


 とりあえず脱出したぞ。


 ほっと一息吐く。


 おそるべき下着女子。


 どうすりゃいいの?


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