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第147話 2人の覚悟



 ピンクのフリルスカートを翻し、足早に駆け去る勇希(ユウキ)


 麗紗(りさ)は、じっと見送っていた。考え込む。いったい何が起きたんだろう。姉と同じく聡明な麗紗(りさ)も、さすがに見当がつかず。


 勇希(ユウキ)の家を突き止めて、張っていたら、勇希(ユウキ)そっくりの女の子が出てきた。勇希(ユウキ)の双子の妹? それはいい。ちょっとびっくりしたけど。で、その先。あの子、勇華(ユウカ)は、必死になって、自分のことを誰にもしゃべらないでと頼んできた。ものすごい形相で。切羽詰まっているように見えた。


 姉の麗奈(りな)天輦学園(てんさんがくえん)のみんなに知られたら、まずい?なんで?人が苦手だからとか言ってたけど、あまりにも不自然。そんなことある?怪しい。怪しすぎる。


 何か隠してる。ものすごく必死に隠している。とっても大事なことなんだ。そしてそれは、きっとーー


 麗奈(りな)勇華(ユウカ)の仲。その秘密につながっているに違いない。急接近するなんてありえない隣の席同士の2人。絶対お似合いじゃない。だから、普通の関係じゃない。何か秘密がある。それを探りに来たんだけど。


 秘密が秘密を呼んで、どんどんもつれてくる。


 でも。


 麗紗(りさ)は、キッと口を結ぶ。滅多にこんな顔しないけど、すごい決意と覚悟を顔に出すと、愛くるしい顔が、一転、凛々しく見えた。


 手がかりはつかんだ。しっかり握っている。あの勇華(ユウカ)。あの子と、つながった。あの子の秘密のおかげで、どうやら掴まえていられるみたい。


 よし。どんな秘密か全くわからないけど、絶対離さない。喰いついてやる。その先に、最愛の姉、麗奈(りな)の秘密、麗奈(りな)を救う道が必ずあるはずだ。麗奈(りな)のところに、昔の麗奈(りな)の笑顔の待つ先へ、私の道はつながっているーー


 麗紗(りさ)の瞳は爛々と燃えていた。


 もはや、沸点突破でエスカレートした麗紗(りさ)の妄想は、“姉の危機を救えるのはただ私だけモード“に、突入していたのである。


 麗紗(りさ)はかわいい肩を揺すり、武者震いする。編んで垂らした髪が、右頬の横で、サラサラと揺れる。


 「絶対に麗奈(りな)は守る! この私が守る! そのためだったら、どんなことだって、どんなことだって、やってやる! 絶対に負けない!」



 ◇



 一文字勇希(いちもんじ ユウキ)



 “ 小さな蘭鳳院(りさ) ”から全力で逃げ出した後、とりあえず駅に駆け込んで、電車に飛び乗り、ほっとした。あの小さな天使……いや、ひょっとしたら悪魔かな?また、どこからか、襲撃してくるんじゃないか。勇希(ユウキ)は、ぶるっと震えて、あたりを見回す。


 もう訳がわからない。なんでこうなるんだ。次から次へと。姉だけじゃなくて、妹が現れた。小さくて可愛い。最初はそう思った。でも、それだけじゃなくて。どう見ても、オレのやばいところを刺しに来た。そうとしか思えない。いったい全体、何が起きてるんだ?


 ひょっとして。オレの不安は、ムクムクと黒い大きな雲に。


 蘭鳳院(らんほういん)の姉妹、あれは、幽世(かくりょ)から、この宿命のヒーローであるオレに試練を与えるために来た刺客かなにかなのか? 確かに、現実離れした美貌だしな。転校したら、隣の席が超絶美少女なんて、どうも話がおかしかったんだ。


 オレは大きな罠にハメられてるのか?



 ガタン、ゴトン、


 

 電車は進む。揺れながら。オレは、ふうっ、と息を。


 さすがにそんなことはないだろう。


 蘭鳳院(らんほういん)姉妹が、そんなにやばい敵なら、とっくにオレは喰い殺されていただろうし、悠人(ゆうと)や校長だって、さすがに警告したり、助けてくれたりしただろう。


 落ち着くんだ。なに、相手は小さな女の子だ。不意打ちで先手を取られるから、パニックになっちゃっただけだ。よく考えて対処すれば、問題ないはずだ。


 今日、まずかったのはーー


 やっぱり久々に女子全開モードなんてしたのがいけなかったかな。女子バレを防がなきゃいけないわけだから。やばい姿を、麗紗(りさ)に見つかった。それだけ。そう、それだけ。自宅がなんで特定されたのかも謎だけど。


 勇希(ユウキ)の双子の妹の勇華(ユウカ)だと、とっさに名乗った。


 これは、これで…まぁ、よしとしよう。他にしようがなかったし。


 で、あの小さな天使と、友達に?…… お姉さんになる? 


 うーむ。これは……よく考えれば、あの子、単にすごく親切で優しいとかそういうことじゃないのか? オレが、人が苦手でぼっちだって知ったから、手を差し伸べてくれた……素直に受け止めればそういうことになる。確かに天使みたいな笑顔だったし。


 どうだろう。相手はまだ中学生だしな。そんなに大それた事は考えてないだろう。時々仲良く遊んでやれば、それで済む。そうかな。警戒は必要だけど、そんなにむやみと人を疑うのはよくないな。


 考えるのに疲れたオレは、だんだんと “これはそんなに悪い状況ではないモード” に、考えが傾いていった。流れにまかせよう。わけのわからんことが起きたときは、それでいいんだ。何かあったら、オレの魔剣天破活剣(てんはかつけん)で切り裂いてやる。ハハハ、それだけだ。何せ、オレは宿命のヒーローだからな。女子などには目もくれぬ。



 フッ、



 よし、余裕を取り戻した。体制は万全だ。奇襲攻撃を喰らっても、ちゃんと立て直せる。それがヒーローというものだ。ビビることは無い。今日は、女子モード全開で、予定通りしっかり弾けてやろう。男の自信と余裕を見せてやるのだ。女子などに、振り回されたりはしないのだ。オレは、なにせ、男の坂道をーー



 おっと。



 メアド。麗紗(りさ)は、メアド交換しようと言ってたな。友達なら当然だ。勇華(ユウカ)のメアドも作っておこう。ほら、ちゃんと頭は働く。準備ができれば、問題ないんだ。


 

 ガタン、ゴトン、揺れる電車の中で。


 オレは、スマホを取り出す。



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