表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

143/274

第143話 硬派ヒーローの女子全開モード



 5月の連休になった。


 しかしヒマだな。一文字勇希(いちもんじ ユウキ)は欠伸をする。


 爽やかな5月の朝の青空を、自宅の窓から見上げる。


 男装男子高校生となっての転校。そして、宿命のヒーローの道の戦い。真の男を目指して。男の坂道。いろいろ順調に思える。それで最近は、緊張感も、やや薄まってきた。


 「これまでは連休って言ったら、必ず部活で、みんなで楽しくやってたのにな」


 あ〜あ、と、また欠伸。勇希(ユウキ)はずっと部活、野球をやっていた。だから休みは練習して、その後みんなで遊んで、それがずっと続いていた。当たり前だった。


 それが、休みは今、一人ぼっち。外で走り込みして、公園で筋トレして、家で勉強もそれなりにがんばって。そういうぼっち休日。


 この連休は、両親も、珍しく仕事の出張で、家にはいない。リモートワークのパパも、たまには家を空けるのだ。



 「ヒーローの道って、孤独孤高っていうけど。やっぱり辛いなぁ」


 勇希(ユウキ)は、机の引き出しから、鏡を取り出す。“ 世告げ(よつげ)の鏡 ”。校長から渡されたアイテム。

 

 「全然反応しないな。魔物(モンスター)も連休なのか」


 反応したって、何かできるわけではない。いきなり異世界空間に引っ張り込まれて、魔物(モンスター)戦闘(バトル)。そうなるだけだ。


 「いっそ連休中は、ガンガン魔物(モンスター)退治して、レベルアップしたいもんだな」


 レベルアップしたらどうなるのか?そして、真の宿命のヒーローと認められたらどうなるのか? もっと強い魔物(モンスター)と、戦い続けるのか?


 わからない。でも、悠人(ゆうと)に会う。そういう目標がある。ひたすら鍛錬だ。絶対に男のヒーローの坂道を上りきってやる。



 「えーい!」



 勇希(ユウキ)は、今は魔剣天破活剣(てんはかつけん)は持ってないが、イメージで、刀を振る。エア剣道をする。そうだ。竹刀を買ってきて、ちゃんと剣を振る練習をしようかな。剣道部の矢駆(やがけ)に教えてもらおうかな。


 ひとしきり部屋で体を動かす。どうしよう。やっぱり外で、走り込みと筋トレするか。今日も一人だ。いつも一人。一緒にお出かけする相手。最近は、クラスの女子しかいないな。


 女子。蘭鳳院(らんほういん)満月(みつき)剣華(けんばな)。あのお嬢様たちは、そういえば、今、沖縄旅行に行ってるんだ。この前買った水着を今頃、海で思いっきり披露していることだろう。注目浴びてるだろうな。華やかな女子たち。


 そうだ。ふと思う。


 オレだって。


 たまには女子モードになるのもいいかな。


 思いつくと、ゾクゾクしてきた。確か、オレの宿命。一文字勇希(いちもんじ ユウキ)は誰もが認める男のヒーローにならなければならない。うむ。それはよい。やってやるぜ。ドンとこい。でも、みんなの見てないとこで、こっそり女子モードになってても、問題ないよね。


 オレはだいぶ成長し、強くなってきた。何もビクビクしないぞ。やりたいようにやってやる。


 「今日は1日女子になる。それって面白いんじゃね」


 思いついたら。いてもたってもいられなくなって、すぐにお出かけ用の女子服選びに取り掛かる。ヒーロー候補になってから、ずっと男子の格好で外出していた。誰かに女子の姿を見られたらまずいからだ。家の周辺なら大丈夫だ。この辺で、学園の者を見かけた事は一度もない。


 女子としてお出かけしてやろう。孤高のヒーローが、女子として街歩き。それも面白いじゃないか。


 久々の女子!心がウキウキする。女子の格好。思いっきり可愛いのを選んだ。スポーツブラじゃなくて、胸を締め付けない、可愛いブラジャー。花柄の白いブラウス。そして、ピンクの、フリルの膝下スカート。


 中学の時でも、可愛すぎてお前には似合わないと言われた格好だ。オレは、昔からボーイッシュだとか言われてたからな。でも、良いのだ。服なんて自分が着たいものを着るものだ。


 そして、鏡の前で、思いっきり女子のメイクをする。高校生だからな。頑張って、なるべく大人っぽく。鏡を見ながらニヤニヤする。しばらく男子をやってたけど、やっぱりオレは女子だな。当然だけど。


 髪にはピンクのリボンをして、仕上げ。うむ、完璧だ。


 お出かけだ。女子としてのお出かけ。ミュールを履いて。



 ◇



 「うーむ。気持ちいい」


 家の玄関を出たら、オレ。思いっきり背伸びをした。爽やかな空気をいっぱい吸い込む。


 ふふ。久々に女子モード。街も、なんだかいつもと違って見えるな。新鮮だ。女子高生の街歩き。かわいいバッグを肩にぶら下げて。おしゃれ女子モード全開。オレだって、おしゃれ女子できるんだぞ。


 どこに行こうかな。好きなだけ、ブラブラしよう。今日は1日女子だ。


 さてと。まずはお買い物かな。オレは、歩き出した。



 その時ーー


 

 おや、誰かが近づいてくる。小さな足音。オレは振り返る。



 「ええええええっ!!」


 目を疑った。


 振り向いたオレの前にいたのは。


 小さな蘭鳳院(りさ)


 蘭鳳院麗紗(らんほういん りさ)天輦学園(てんさんがくえん)のセーラー服姿。


 なんだ?いったい何が起きてるんだ?


 オレは固まった。呆気にとられて。息が止まる。


 麗紗(りさ)、にこりとする。


 でも。


 瞳は笑っていない。


 爛々と、燃えている。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ