第14話 デートにマムシ?
駅前のショッピングモールの中。
化粧品売り場へと向かう。オレと満月妃奈子。
昼間、オレがダメした香水を買って返すために。
満月が足を止めた。
「あ、みて、これ。勇希、これ、いいんじゃない?」
めざとく、なにかを、みつけたらしい。不吉な予感。
満月が、カラフルな商品棚から、黄金色の小瓶を取り上げ、オレ目の前に突き出す。
なんだ?
ラベルを見ると、
『マムシエキス。精力絶倫、快然元気。絶頂効力が一晩持続します、男子として立ちたいあなたの必須アイテム。本物の男になりたいあなたは、もうこれを手放せない』
ドヒャー
なんだこりゃ。
おい、満月、なに考えてるんだ。本物の男になりたい? いや、オレはそう考えてるけどさ……確かに……
オレが考えている、本物の男になるっていうのは、ちゃんと男の修行して、ヒーローの修行して、それで、やっとなれる……そういうことなんだ。
これさえ飲めば、本物の男になれる? だって?
ドーピング? これ、ドーピングじゃないの? 違うよ、それは。そういうのがしたいんじゃないんだ。ヒーローは、ドーピングなんてしません。
絶頂効力一晩持続? 快然元気?
なんだ快然て。そんなの聞いたことねぇぞ。
なにを……どう……快然……するんだ?
女子高生って……こんななの?
オレはすっかり混乱した。
黄金の小瓶、マムシパワーを片手に、満月がにじり寄ってくる。
「勇希、栄養ドリンク、大好きなんでしょ? すぐ飛びついちゃうんでしょ? それなら、これ。これに決まりでしょ」
満月、すごい瞳をしている。
もしかして、もうマムシエキス飲んじゃったのか?
オレが栄養ドリンクに飛びつく? 確かにさ……そういう事はいっちゃったけど、見境なく飛びついているわけじゃ……
「私が買ってあげる! 絶対効くよ!」
満月のボルテージが妙に上がる。すごいテンション。
満月……やっぱり、マムシエキス飲んだ……いや、そうじゃない。むしろ、逆。
マムシエキスいらずだろ。こいつは。
いつもパワフル元気いっぱい。いつだってハイテンションになれる……マムシエキス? 変身グッズは必要ありません……もう24時間365日、絶頂絶倫、なんでも来い、なんでもいっちゃう、どこへでも飛ぶ。
恐ろしい、まだ高一なのに……
「これ飲んだら勇希、どうなっちゃうんだろう。なんかドキドキしちゃう、ああ、怖くなってきた」
怖いのはお前だよ。
「でも、いい。私、一緒に試してあげるから、一緒に飲んでみようよ。二人で飲んだら、きっと……私たち……ー晩燃え上がっちゃうのかな。きゃっ! もう、ワクワクするよね」
えええ!?
なに? なにいってるの、いったい、どういう話になってるの? 一緒に試す? マムシエキスを?
なんで? 二人で一晩カッカする? それでどうすんの? いったい、二人で、なにを快然するの?
やめてくれよ……
オレは不純反対だって、ちゃんといったよね、みんなの前で誓っていったよね。マムシなんかで、オレをどうにかできるわけじゃないぜ。オレの貞操は鉄壁なんだ。
絶対に……
目をランランと輝かせながら、迫ってくる満月。
うわあ、やばい……
このまま……こいつに……マムシの穴に引きずりこまれたら大変だ。もう絶対逃げられない。オレのエキス全部吸い取られて、すっかり干からびて……それは嫌だ。絶対に。
オレはヒーローになるんだ。
「満月さん!」
オレは、きっぱりといった。
「オレ、実は、元気すぎて、そういうの必要ないから!! 飲むなら1人で飲んで! もっとも、あなたには、全く必要ないと思うけど!」
オレは、満月の手から、有無を言わせず、マムシエキスの小瓶を取り上げ、棚に戻す。
棚には。他にも怪しいなにかが、いっぱい並んでた……色とりどりの……テカテカ、ギラギラな瓶がいっぱい……銀杏エキス、てのがあった……それが1番穏やかそう……もう、そんなのどうでもいいっ!!
オレは満月の手を握る。そして、有無をいわせず、引っ張っていく。
「さあ、満月さん、化粧品売り場に行くよ! もう、寄り道しないから!」
今度は、オレが満月をぐいぐい引っ張っていく。
うむ、これでいい。
オレは女子などに、振り回される男ではないのだ。そこを思い知らせてやらねばならない。
満月は、ぽおっと、赤くなっている。
「まぁ……勇希、積極的……こんなにぐいぐいしてくれるなんて」
ぐいぐいしてねーよ。
ただ、おまえと早く別れたいだけだ。だから、さっさと用事を済ませるぞ。買い物して、それでさよなら。
いいか、主導権を握っているのはオレだ。オレのいう通りにしてもらう。忘れるなよ。オレこそは、男の中の男、男の坂道を上るヒーロー。
女子に振り回されたりなどは、もうしねえ。
オレは、ともかく、満月を引っ張っていく。
小柄なオレが、背の高い満月を(オレは159、満月は173)を引っ張っていくから、ちょっと大変なんだけど。
まったく、周囲に、どう見られてるんだろう?
みんな、子供も大人も、オレたちを見ている。そりゃそうなるだろうけど。ひょっとして……オレたち二人、ものすごく幸せそうに見えてる?
幸せな高校生カップルに。
周囲から声が。
「青春だねぇ」
「大胆だねぇ」
「若いって、いいねぇ」
「この後、あの二人、どうするんだろう」
「それは、もう決まってるだろ」
「決まってるな」
「あれしかない」
「あれしかないよね」
「マムシエキスとか使うのかな?」
「いらないよ! あの年頃なんて。一晩中カッカしてられるさ」
みんな、いろいろいっている。聞こえてくる。
うるせー!
ええい、もう、知るもんか!!
オレは今、窮地を出しようと、必死なだけなんだ。それだけだからな!




