第137話 妹の想い
「作戦、第一段階成功」
蘭鳳院麗紗は、目の前の《 男子 》を、まっすぐに見る。
カフェで、テーブルを挟んで。
一文字勇希。
まじまじと見つめる。
これが転校生男子。4月の半ば、麗奈に異変があった。何かが変わった。ずっと一緒にいた妹の麗紗にしか気づかない変化。でも、それは確かなもの。
「麗奈が変わった原因がこの男子なの?」
麗紗は考える。どうも腑に落ちない。
「確かに、可愛いけど」
麗紗は内心つぶやく。
男子としては可愛い部類。それは間違いない。このまま女子になっても、可愛いで通用するだろう。高等部の女子が、キャーキャー騒ぐのも無理は無い。美少女のボーイッシュ。乙女男子。そういう評判だった。
突然現れた美少年転校生が、麗奈の心を。
それを聞いて、麗紗は、いてもたってもいられなくなった。
まさか。でも、麗奈もう高校生だ。これまで男子お断りだったからって、ずっとそうだというわけはない。
麗紗は高等部へ、こっそり様子を見に行った。天輦学園の高等部と中等部は、並んで建っている。行き来するのは、特に禁止されていない。用事もないのに行ったりは、普通しないけど。
昼休みに、廊下から、そっと姉のクラスを覗いて、噂の転校生男子の顔を覚えた。
そして今日、校門の傍らに隠れて、転校生男子が出てくるのを待ち、後を尾けて、ショッピングモールまで来たところで、わざとぶつかったのだった。
◇
何とかカフェに引っ張り込むのに成功した。隠れずに堂々、転校生男子、噂の美少年、一文字勇希を観察できる。
テーブルを挟んで見つめ合う2人。
二人の前にはドリンク。
勇希はカフェラテ。
麗紗は苺ミルク。麗紗が苺ミルクを頼んだのは、子供っぽさをアピールしようとか、そういうことではなく、いつも好きでこれを飲んでいるからである。
「どうしようか」
麗紗は考えた。ここまでは作戦通り。カフェに引っ張り込んで、じっくり観察して、噂の男子がどんな人間かきっちりとーー大好きな姉の
麗奈との関係、それを突き止めなきゃ。
突き止めてどうするんだろう。
そこから先は、あまり考えてなかった。
もし、転校生男子勇希が、単なる麗奈の隣の席の子で、麗奈の心を揺さぶったりする存在ではないのなら、それで良い。麗紗には関係ない。
麗紗も美少年には関心があった。けれど、目の前の男子はーーうーん、と麗紗は思う。心を揺さぶられるほどの美少年ではない。可愛い。でも、なんというか、女の子っぽすぎる。
本当なのかな。
「この子が、もし、麗奈の心を捉えているなら」
麗紗は、カーっと熱くなった。
「どうしよう、どうしよう、どうしよう」
麗奈に彼氏が。
考えたこと、それは麗紗もあった。
麗紗の考える麗奈の彼氏は、
豪華絢爛、超絶美貌、ひたすらまぶしく輝き、一目で女子たちをうっとりさせ。
そして、勉強でもスポーツでも何でも1番で。リーダーシップがあって。
性格完璧。前途有望。
一言で言えば王子様。
「とにかく完全じゃなきゃダメ! 不完全男子なんて、麗奈の相手にふさわしくない。麗紗は認めない!」
そして、そして、そして、なにより、
「麗紗を大事にしてくれなきゃダメ! 麗紗を除け者にしちゃダメ!」
姉にたとえ彼氏ができても、自分は姉の特別な位置にいなければならない。それを尊重してくれる彼氏でなければならない。
麗紗は心にそう固く決めていた。
「だから、私が、ちゃんと見定めてやるの。姉にふさわしい相手かどうか」
麗紗の心の叫びなど露知らぬ勇希を前に、麗紗は体を震わせていた。
「姉に近づく男子。それなりの覚悟できてるんだよね。絶対に絶対に、私の認める男子じゃないと、許さないんだから」
麗紗の瞳、ギラギラと。




