第136話 小さな美少女と出会い頭にごっつんこ
一文字勇希は、学園の近く、いつもの駅前のショッピングモールに来ていた。今日は勉強会ではなく、学用品とかの買い物である。すぐに終わった。いつものカフェで、1人で抹茶ドリンクを飲む。
ぼっちは一応卒業した。クラスメイトとも、なんだかんだ話すようになった。男子とも、何人かとメアド交換をした。運動部からの入部勧誘も、必死に断っているうちに、だいぶ少なくなってきた。
落ち着いてきたな。
学校以外でのクラスメイトの付き合いは、女子たちとの勉強会と、この前ドーム球場で野球観戦しただけだけど。
「このくらいでいいんだ」
学園生活は、目立たず、静かにしてなきゃいけないんだから。
まるっきりのぼっちも辛いから、ちょっとはクラスメイトと交流もしよう。だんだんこの生活に慣れてきたな。
そうだ、胸が透けたりするのは気をつけようーー
思い出して、赤くなる。
男子のヒーローになる。みんなに認められる。
オレが考えなきゃいけないのは、
幽世の魔物との戦い。そして悠人を見つけ出してしっかりと抱きしめる。
でも、こちらからは動けず、幽世が動くのを待つだけだ。厄介だな。
いきなり異世界空間に引っ張り込まれるのは、慣れたとは言え、やっぱりまだ不気味だな。
鎌倉での異世界戦闘のこと、一応、ママとパパと、校長には報告した。蘭鳳院を巻き込んだことは、なんとなく言えなかった。安覧寿覧のことも。
ママは、
「すごーい!やっぱり勇希は私の子。もう立派なヒーローよ」
パパは、
「順調だな。勇希ならできると信じてたぞ」
校長は、
「ほほう。その調子でしっかりやりたまえ。そういえば、“ 世告げの鏡 ”が反応していたな。ま、君は着実にヒーローとそて成長しているということだ。いや、結構、結構」
なんだか……みんなお気楽だな。まぁ、この人たちには、結局何もできないし、黄泉の国幽世のことも、よくはわかってないんだから、仕方ないんだろうけど。
結局のところ、1人で戦わなければならない。悠人や安覧寿覧、幽世の住人が助けてくれるけど。この現実世界じゃ、誰かに頼れないんだよな。
そして、校長からはーー
「これをもっていなさい。もう、これは君のものだ」
渡された。“ 世告げの鏡 ”を。
「これ、異世界と、こっちの世界が交わる徴を探知できるんですよね。見届け人の校長先生が持ってなくていいんですか?」
校長は顎を撫でる。
「これは本来、宿命の力を帯びた者が持つものだ。力を継承する者が現れるまでは、見届け人が持つ。君はだいぶ成長した。もう、これを持つにふさわしい段階になった。なにかと君の役に立つはずだ」
オレは受け取った。どう役に立つのか、例によって説明は無い。とにかく持っていればわかる、と。またいつものだ。
直径10センチ位の小さな鏡。鏡の裏面には、無数の線が入り混じったおどろおどろしい紋様が刻まれている。紐で首からぶら下げるようになっているけど、いつもぶら下げているわけにはいかない。とりあえずバッグに入れてある。
これもヒーローとしての成長。そういうことでいいんだな。
◇
抹茶ドリンクを飲み終える。
よし、行こう。
ショッピングモールのメインストリートを歩く。
すると。急に曲角の陰から、人が飛び出してきた。女の子だ。あ、と思う間もなく、女の子は、オレにぶつかった。
「キャッ!」
女の子、ひっくり返る。うん?女の子、オレに触れたのは確かだけど、そんなに強くぶつかったわけではない。転び方もなんだかちょっと変だ。
しかし、何はともあれ。
「大丈夫ですか?」
オレは、女の子を助けを起こす。
ぎょっとした。
蘭鳳院!
オレを見上げる女の子の顔。それは紛れもなく蘭鳳院だ。
天輦学園のセーラー服。
でも。背が低い。長身の蘭鳳院よりずっと小柄だ。髪も、肩に届く位の長さ。右側だけ編んで垂らしている。
オレに手を引かれて、立ち上がった女の子、ペコリと頭を下げる。
「ごめんなさい。私が前を見てなくて、ぶつかっちゃいました」
「あ、いや。こっちこそ。どこも痛くない?」
「大丈夫です」
蘭鳳院に顔がそっくりな女の子、オレにキラキラした笑顔を向ける。
妙にドギマギする。小さな蘭鳳院だ。
「あの、天輦学園の方ですか? 私、天輦学園中等部三年の蘭鳳院麗紗です。
中等部?そういえば、セーラー服に入っているラインがちょっと違う。
いや、それより何より。
「蘭鳳院?」
そんなにある苗字だとは思えない。
「えーと、君、ひょっとして、蘭鳳院麗奈さんの」
「姉をご存知ですか?」
女の子、目を見開く。
「蘭鳳院麗紗です。蘭鳳院麗奈の妹です」
◇
妹。隣の美少女の妹。なるほど。美少女の妹も美少女だ。でも、背は低い(麗紗は155)
そのせいか、姉よりかわいく愛くるしく見える。
そうだ、自己紹介しなくちゃ。何しろ、隣の子の妹だからな。
「オレは、一文字勇希。麗奈さんとは、高校で同じクラスの隣の席です」
麗紗の顔、パッと輝く。
「一文字勇希さん! 姉からよく話は聞いています」
どんなふうにオレのこと話してるんだろう。芸人志望だとか言ってないだろうな。そういえば、麗紗、姉と声もそっくりだ。
「あの」
麗紗が言った。
「ぶつかっちゃったお詫びに、お茶をご馳走させてください」
「え? 別にいいよ。転んだのはそっちだし。オレはなんともないから」
「ダメです!」
麗紗、きっぱりと言う。
「自分の隣の席の子に迷惑かけて、何もしなかったなんて、姉に知られたら、私、怒られちゃいます。姉はすごくきちんとしてるんで」
そうなのか?まあ、確かに麗奈はきちんとしてるな。
「さぁ、行きます。来てください!」
麗紗はオレの手を握ると、今、オレが出てきたばかりのカフェの方へと引っ張っていく。
なんだ、強引だな。押しが強い子だな。
わけのわからないままオレは引きずられていく。
妹蘭鳳院。
愛くるしい顔。
その……どんな子なのか、オレも興味があった。顔も声も、姉とそっくり。




