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第135話 姉妹でお風呂 湯煙の中で



 蘭鳳院(らんほういん)家。都心から離れた、閑静な場所にある大邸宅だ。蘭鳳院麗奈(らんほういん りな)は、いつも近くの駅まで車で送ってもらい、そこから電車で通学していた。蘭鳳院(らんほういん)家には、専属の運転手がいる。家から学校まで車で送迎してもらうこともできたが、家と学校以外の世界にも触れてないと。麗奈(りな)は、そう思って、電車通学していたのである。


 蘭鳳院(らんほういん)家の広くて豪奢な浴室。麗奈(りな)は湯に浸かっていた。円形のゆったりとした大理石の浴槽。これまた大理石製の大きなライオンの口から、お湯が注がれている。


 そのライオンは、ちょっと悪趣味じゃないか、麗奈(りな)そう思っていた。もっと小さい頃は、すごく面白がっていたんだけど。


 ふう、と麗奈(りな)は息を吐く。今日も、新体操部で、みっちり練習をしてきた。学校のシャワーでも汗を流してきたけど、自宅の湯に浸かっている時が、1番心が休まる。


 「インターハイ、行けるかな」


 1人、呟く。


 その時、人の気配を感じた。


 「なに?」

 

 浴室で、もちろん全裸。さすがに麗奈(りな)も焦った。


 ボチャン!


 後ろで、誰かがお湯に飛び込む音。


 麗奈(りな)が振り向くより速く、


 「ムギュッ!」


 後ろから、両胸を掴まれた。


 「ちょっと、何するの!」


 振り向く前から、誰かわかっていた。こんなことをするのはーー


 「麗紗(りさ)!」


 麗奈(りな)は、後ろから抱きついて、両手でしっかり麗奈(りな)の両胸をつかんでいる妹を睨みつける。


 蘭鳳院麗紗(らんほういん りさ)


 麗奈(りな)の妹。1歳年下。14歳の中学生。天輦学園(てんさんがくえん)中等部3年生。


 「麗奈(りな)、大好き」


 そう言って、麗紗(りさ)麗奈(りな)に頬ずりしてくる。


 「離しなさい!」


 麗奈(りな)の声、少し殺気立っている。


 やっと、麗紗(りさ)は、麗奈(りな)の胸から両手を離す。麗奈(りな)は妹から距離を取る。


 「麗奈(りな)のイジワル。前は、いくらでも触らせてくれたのに」


 麗紗(りさ)が、ぷーっ、と膨れてる。


 「もう。小学生じゃないんだから。麗紗(りさ)だって来年は高校生よ。こういうことは止めなさい。びっくりするじゃない。どこに隠れてたの?」


 「ライオンちゃんの後ろだよ。麗奈(りな)、昔からかくれんぼ弱かったよね」


 大理石のライオンは、無表情に、口からお湯を注ぎ続けている。麗紗(りさ)はライオンをなでなでしながら、クスっと笑う。


 「麗紗(りさ)の胸、全然大きくならないんだもん。高校生になれば、麗奈(りな)みたいにおっきくなるかな。


 麗紗(りさ)の胸は、確かに全然膨らんでいない。背も姉よりだいぶ低い。


 麗奈(りな)は言った。


 「胸のサイズなんて、気にすることないのよ」


 「えー、麗奈(りな)、自分がでっかくなったからって、麗紗(りさ)のことはどうでもいいの?大問題だよ。ちょっとわけてよ」


 「いい加減にして。私、もう上がるから」

 

 麗奈(りな)はそう言って、湯から出る。そして、


 「今日は部活で疲れてるの。ゆっくり寝たいから、勝手に私の部屋に入ってこないでね」



 振り向きもせず浴室から出て行く姉の麗奈(りな)を見送った麗紗(りさ)は、


 「あぁ、もう。うちでの麗紗(りさ)の友達は、ライオンちゃんだけ」


 大理石の像を、また、なでなで。



 ◇


 

 夜、麗紗(りさ)はベッドの中で。


 考えていたのは、姉、麗奈(りな)のこと。


 「いったいどうしちゃったんだろう。麗奈(りな)


 自分の部屋に来るなと。姉に言われた。昔はこんなことはなかった。夜、寂しい時、麗奈(りな)のベッドに飛び込んでいくと、いつもしっかり優しく抱きしめてくれた。姉の微笑み。姉の温もり。それが麗紗(りさ)は何より好きだった。安心して居られた。


 もちろんずっとずっと、姉妹で一緒にいることは、いつでも抱きしめてもらうことは、できない。それは、麗紗(りさ)にもわかっていた。


 でも。姉との別れ。それがあるとしても、まだまだずっと先。そう思っていた。


 それなのに。


 「麗奈(りな)は、変わった」


 最近急に。変わったといっても、ほんのわずかな。いつも一緒にいた麗紗(りさ)にしかわからない変化だった。姉との間に、今までなかった壁ができたのを、麗紗(りさ)は感じた。姉の事は何でも知っている。麗紗(りさ)これまでずっとそう思ってきた。でも今は違う。


 麗奈(りな)には、何か別の世界、麗紗(りさ)に言えない秘密がある。


 高校生になったからなのかな。


 麗紗(りさ)は最初そう思っていた。でも、姉の態度が微妙に変わったのは、4月も半ばになってからだ。学園で、何かあったのだろうか。


 麗奈(りな)は高校の事は、何も話してくれない。それも麗紗(りさ)を不安にさせていた。


 天輦学園(てんさんがくえん)中等部の麗紗(りさ)の友達には、高校の姉や兄がいる子も多かった。いろいろと、高校のこと、姉のクラスの様子について訊いてみた。新体操部も、中学高校で交流があるので、いろいろ話を聞くことができた。


 新年度4月の半ばに麗奈(りな)にあったこと。


 隣の席に、転校生男子が来た。


 最初、麗奈(りな)は転校生男子を相手にしてなかったが、最近はそれなりに話をし、一緒に勉強会もしている、という。


 「転校生男子か。でも、麗奈(りな)が急に男子に心を掻き乱されるなんて、信じられない。そんなのありえないよ」


 姉はずっと男子お断りだった。それは麗紗(りさ)がよく知っている。


 でも、もしかして。


 麗紗(りさ)は眠れなかった。まだまだ、麗奈(りな)は自分のものだと思っていたのに。急に男子が現れてーー


 まさか、と思うけど。


 気になる。調べてみよう。


 転校生男子。



 一文字勇希(いちもんじ ユウキ)



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