第134話 少女と少女 虹のアーチを越えてゆけ
オレと蘭鳳院。並んで歩く。帰り道を。
「ねえ、勇希」
「なに?」
「私、洞窟で気を失ったでしょ?」
「うん」
「その時ね、夢を見てたの。ずっと」
「夢?」
「うん。すごく不思議な夢だった。でも、はっきりと覚えている」
オレは、蘭鳳院を向く。蘭鳳院もオレを見ている。悪戯っぽい瞳。
「私ね。安覧と寿覧に会ったの」
「え!」
蘭鳳院、ふふ、と笑う。
「信じられる? 夢の中に、安覧寿覧が出てきたの。私、2人と話をしたのよ」
オレは何も言えなかった。確かに、間違いなく、異世界幽世で蘭鳳院はあの2人と出会っている。心を通わせたはずだ。覚えてるんだ。
「どんな話をしたの?」
「それがね、お寺の和尚さんの話の続き、聞いちゃったの」
「話の続き?」
なんだったっけ。
「ほら、安覧寿覧が一緒に往生成仏する時、安覧が、ずっと必死に修行してきた自分と、ただ、自分を慕ってきただけのお前が一緒に往生成仏とはおかしいって、寿覧に不満を言ったっていうじゃない」
「そう言えば、そんな話だったね」
「で、それに対して、寿覧はなんて言ったと思う? それを寿覧から聞いちゃったの」
「なんていったの?」
「可愛いのね」
「え?」
「可愛いのね、そういったんだって。寿覧がこの話してくれた時、横の安覧は、ぷーと膨れてたわ。確かに、ホントに可愛いかった」
オレは何も言えなかった。どういう話なんだろう。
「それとね」
歩きながら蘭鳳院、弾むような声で。
「夢には、勇希も出てきたのよ」
「え?」
「勇希、私を守るために、でっかい青鬼と戦ってたの。かっこよかったよ」
見えていた?どういうことなんだろう。ともかく、オレの必死の頑張りも、無駄ではなかった。蘭鳳院、本当にこれを夢の話だと思ってるのかな。
蘭鳳院の表情からは、それは読み取れない。でも、蘭鳳院、なんだかすごくうれしそうだ。
「あ、でも」
蘭鳳院、ククッと笑う。
「勇希、裾の長い学ラン着てた。背中に、ほら、この前の、『オレは男だ。女子はみんなオレの前に這いつくばれ』って刺繍してあったよ」
ぐほっ、
オレは真っ赤になる。妙なとこ見てるんだな。なんなんだ、これは。
「あの刺繍入れた服、結局持ってるんだ」
長身の蘭鳳院、オレを上から覗き込むようにして。
「いや、その、それはちょっと……」
しどろもどろだ。そりゃ、大事に持ってるけど。なんでこの子の前だと、いつもこうなっちゃうんだろう。
蘭鳳院、楽しそうだ。やっぱりオレをおちょくってるのが好きなのかな。
並んで歩いていく。
「ねえ」
また蘭鳳院。
「今日は、私に不純感じた?」
うぎゅ、
不純。今日は確か色々と……洞窟の温泉での蘭鳳院裸。異世界幽世での裸。そして、ついさっきの濡れて透けた胸。しっかりくっきりと。
ズキュッ
でも、オレは、決して。
「あの、オレ、決して、不純感じたり、考えたりしなかったから。ほんとだよ。信じて」
「ホントかなぁ」
蘭鳳院、小首をかしげて、オレを見つめる。
ちょっとやめてよ! オレはヒーローとして、蘭鳳院、お前を助けようと、今日1日ほんとに必死だったんだから。
「ほんとだよ。絶対本当だから!」
オレはムキに。
蘭鳳院、クスっと笑って。
「そっか、ほんとだね。信じるよ。でも」
「なに?」
「勇希、可愛いのね」
なんだか、もう。ぐうの音も出ない。
オレたち、並んで歩く。
「あ、見て」
蘭鳳院、立ち止まって、空を指差す。
「あ」
オレも立ち止まる。
虹だ。日の傾いた雨上がりの青い空に、二重の、大きな虹。
オレたち、しばらく立ち止まって、虹に見入る。
「綺麗」
隣の蘭鳳院、浮き立つ声。頬が少し染まっている。
綺麗だ。本当に綺麗な虹だ。
二重の虹。安覧と寿覧。あの2人。だからずっとオレを見守ってくれるのかな。ずっと昔に往生成仏して、髑髏になったけど、異世界幽世では、しっかりと生きている。
やっぱり悠人も。
幽世で生きてるんだ。オレとはちょっとしか会ったり声をかけてくれたりしかできないけどけど、何か理由があるんだ。兄がオレにイジワルしているとかいうわけは無い。
オレがヒーローとしてレベルアップすれば。
きっと悠人といつでも会って好きなだけ話して、しっかり抱きしめることができるようになる。絶対そうなる。わかるんだ。
ヒーローの宿命。オレは必ずやってやる。
そして、蘭鳳院。隣の席の子。
今も虹を見上げ、嬉しそうに微笑んで。
あの虹のアーチ。
オレは空を見上げる。蘭鳳院と並んで。
この子と、隣の席の子と、蘭鳳院と、きっと越えていくことができる。
虹のアーチの向こうへ。
絶対に。
( 第13章 晴れ、ドキドキ、鎌倉 了 )
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