第132話 ヒーローであるために! 魔剣少女は脱ぎます
オレはヒーロー。男のヒーロー。
ヒーローとして。
目の前の蘭鳳院。隣の席の子。
今、びしょ濡れで、白いブラウスの胸が透けて、ブラジャーが丸見えで。どうしようもなく恥ずかしい思いをしている。女子としてとても耐えられない状況だ。
オレは、自分が着ているデニムのジャケットを脱ぎ、蘭鳳院に着せてやる。そうだ。それがオレのすべきこと。ヒーローとして男として当然しなければならない。
よし。やろう。
目の前の女子を助ける。ヒーローとしてすべきことをする。それだけだ。
オレがジャケットを脱いだら。オレの濡れて透けた胸は丸出し。
女子だとバレる。
いいのか。女子だとバレたら、オレの背負う宿命の道は、そこで終わり。オレは呪われ破滅する。
人面犬だ、鬼面鳥だに襲われる。でも、あの程度の魔物なら、簡単に倒せるはずだ。問題ない。いや待てよ。ひょっとして、ヒーローパワーがもう使えなくなってしまうんだろうか。ヒーローパワーをなくしたオレは、簡単に人面犬だ鬼面鳥だに狩られてしまうのか。それとも、今のパワーじゃ太刀打ちできないハイレベルの魔物に襲われるのか?
宿命の呪い。そいつがやってくる。
全てを失う。オレがここで終わる。破滅。
ぐるぐるぐるぐる。想いが回る。
だがーー
フッ、
どうすればいいか。そんなの最初から決まってるじゃないか。もし、ここで蘭鳳院を助けなかったら、どうなるか。ヒーロー失格だ。男の坂道も、宿命の道も、終わりなんだ。
呪いが怖くて、目の前の女子を助けない。逃げる。それがヒーローと言えるか。男の中の男といえるか。ここで逃げたら、全て終わるんだ。
オレはヒーローの道、宿命の道から逃げるのではない。宿命のヒーローの道を突き進むことによって、呪いと戦うのだ。呪いとやらが襲ってくるなら、堂々打ち破ってやる。それがヒーローだ。
呪い上等。かかってくるがよい。これも男の坂道。その試練ということかな。オレは思わず笑みを浮かべる。オレがヒーローをしているのは、呪いが怖いからではない。真の男のヒーローとなり、悠人から引き継いだ世界を守り、救い、戦うという宿命を果たすためである。
ここを乗り越えれば、オレはさらにヒーローとしてレベルアップする。間違いない。ヒーローは呪いを越える。
みんな、わかってくれるはずだ。ママも、パパも、校長も、一文字一族の面々も。
悠人も。
この場面で、悠人は、なんの案内もしない。
悠人はわかってるんだ。オレが正しい選択をすること。迷わず宿命のヒーローの道を進むことを。男の坂道を上っていくことを。
そうだよ。オレは約束したんだ。兄さんと。安心してね。オレはヒーローの道から決して逃げないよ。
ヒーローが、目の前の困っている女子、恥ずかしい思いをしてる女子を見捨てて逃げるなんて、絶対にありえないんだ。目の前の女子を助けるために全てをなげうつ。それがヒーロー。そういうことだ。最初から、迷う必要は全くなかったんだ。ヒーローの道、ただ一本のまっすぐな道は、はっきりと見えていたんだ。
デニムジャケットを脱ぐ。そして蘭鳳院に着せる。
それだけ。たった。それだけのことだ。躊躇うことはない。
女子バレ。蘭鳳院に、オレが女子だとバレる。そうしたら。
蘭鳳院、どうするんだろう。どう思うんだろう。
とりあえず、オレに裸を見られたり、胸のブラジャーが透けるのを見られたりしても、問題ない事は、理解してくれるはずだ。女子同士だし。オレが別に蘭鳳院を不純の目で見たりしないことも。
最も今も、あまりオレの目線を気にしないように見えるけど。
女子として、蘭鳳院の前に立つ。女子として、蘭鳳院と向き合う。
ドキュッ!
なんだ?動悸が。おかしいな。呪いと戦うことを考えても、全然オレは動じなかった。それがなんで蘭鳳院の前で、女の子になることを考えると、こんなにーー
ドキュッ!!
うわ、まただ。なんだかすごく、体がカーッと熱くなってくる。
おかしいな。濡れてさっそく風邪でも引いたか?
女の子として、隣の席の女の子と向き合う。なんにも、なんにも、なんにも、問題ないよね。
おかしくないよね。まぁ、今までずっと男子だと言ってたから、ちょっと変に思われるかもしれないけど……
ええい!
何をあれこれ考えてるんだ。もう道はしっかり決めたんだ!とにかく前に進もう。そして、それからの事は、それからだ!
オレは、覚悟を決めた。
目の前の美少女。隣の席の子。蘭鳳院、オレはお前を救う。オレがヒーローだからだ。男だからだ。お前を救うことによって、たとえ何を失おうとも、それでもオレはお前を助ける。ただ、隣で机を並べただけの子でも。オレは決して見捨てたりはしない。それがヒーローなんだよ。お前にヒーローとは何か、男とは何か、それをよく見せてやる。
オレは決して自分の道から逃げない。目をそらさない。蘭鳳院、お前も決して目をそらさずに、このヒーローの姿を見ていて欲しい。
女子のために、どんな犠牲も払う男の姿を。
オレは、デニムジャケットのボタンに手をかける。
脱ぐぞ。いよいよだ。
「ねえ」
蘭鳳院が言った。
「そんなにジロジロ見ないで」




